サウナでPerfumeを結成して出た汗が思ってたのと違う。
土曜から妻が実家に帰った。
と書くと不穏な空気が流れるが、友だちの結婚式に参加するためだ。
そう聞いている。
つまり、今、ぼくは家にひとり。
加えて無職。
怠惰な人間が、時間を持て余すとロクなことにならない。
今では誰もが知るラーメン店となった一風堂の総帥である河原成美は初めて自分の店をもったとき
「自分は本当に弱くて怠惰な人間だ。時間が空くとすぐにいろんなことから逃げてしまう。だから3年間、1日も店を休まない」
と自分に誓い、全うした。どこも怠惰じゃない。
一方のぼく。家にひとりでいると本当にロクなことにならない。
きれいなお姉さんを電話で呼ぶわけにはいかない。
結果、外泊することにした。
この日の予定は清澄白河で一件。
とりあえず外泊セットを用意し、家を出た。
予定を終え、
「現在地 サウナ 宿泊」
と検索して、宿を確保。
土曜にも関わらず、清澄白河からほど近いサウナに空きがあった。
スカイツリーも綺麗に見える。
チェックイン時間の15時になると同時に入店して店内を散策。
ふむふむ、漫画のラインナップがすばらしい。
とりあえず近所の喫茶店が閉店してから読めてなかったONE PIECEの続きを読む。ナミと結婚したい。
さーて、サウナに足を踏み入れよう。
サウナに来るたび思う。
どうしてこの場所はこんなにも非日常を味わえるのだろう。
分厚い扉を押し開け、裸体のおじさんたちがフーフー言いながら汗を垂らす空間に腰をおろし、自分もそのおじさんのひとりになる。
高温多湿の中、見ず知らずのおじさんに囲まれ、全員が裸で汗だく。
さらに無言で繰り広げられる「オレはまだまだ耐えられるぜ」のマウント合戦。サウナはいつだって楽しく激しい。
今日はどんな強者と膝を突き合わせることになるのか。
扉を開け、座る。
時間が早かったこともあり、先客は一人。
刺青だらけの男が座ってた。
なにも考えず真正面に陣取ってしまい、不用意に動けくなる。
蛇に睨まれた蛙。刺青に睨まれた区民。
もうね。パッと見、肌色のほうが少ない。
つーか、遠目で見たら絶対に着衣。
顔も怖い。ガタイもいい。
目線なんて絶対合わせたくない。
でも、見たい。
どんな刺青なのか見たい。
「怖いもの見たさ」
なんてこの瞬間のための言葉だろ。
どんな柄か、どんな文字か。
恐怖心より好奇心が勝る。
視界の端ギリギリで相手の目線を確認する。
相手が目をつぶったり下を向いたその瞬間、一気に目を見開いて刺青を凝視する。
はー、やっぱ和柄かぁ。
そんでめっちゃ色つかってるやん。
ん?あの漢字はなんて書いてあるんやろ…読めへん。
少ない時間でできる限りの情報を搾取する。
そして、相手がこちらを向くその瞬間。
オオカミに睨まれたウサギよろしく一瞬で目をつぶり下を向く。
どうにか噛まれないまま安全な関係を構築し続ける。
100%のリラックスを求めて入ったサウナで、緊張の成分が余裕で多い。
かいてる汗も思ってたのと違う。
ドキドキとワクワクの境界線を綱渡りしながら、見える範囲の刺青はほとんど観察できた。
無駄に味わったスリルと変な汗を、あとは水風呂で流すだけ。
まだ眉間に皺をつくり座っている刺青男をサウナに残しつつ、退出しようとしたそのとき、ひとりの男が入ってきた。
刺青男2である。
なんなん。
ここアジト?
白い粉とかモデルガンとか出てくるところ?
現れた二匹目の肉食動物に腰を抜かし、テンパって再び着席してしまう。
サウナの中には
刺青・刺青・区民。
「刺青です。刺青です。区民です。
3人そろってPerfumeです」
朦朧とした頭でどうでもいい妄想を作り出し現実から逃避する。
刺青男2は1の横に座り、ぼくの正面には刺青男が2人。
天国を求めてサウナにきたのに、目の前の絵柄は完全に地獄。
目の前に見える色とりどりの龍は本物?
あ、虎もいる。パトラッシュはいなさそう。
もう疲れたよパトラッシュ。
意識が朦朧とし、結局耐えられなくなって2人より先に忍び足で退出する。
すぐさま入った水風呂は、比喩でもなく天国だった。