第34回日本数学オリンピック(JMO2024)予選解説(1番、2番)

(※このnoteはかなりネタ寄りの記事です。)


はじめに

1月8日、日本数学オリンピックの予選が行われました。全国から中高生(何故か稀に小学生)の数学マニアたちが集うイベント。聞くだけでなんだかとっても難しそうですよね…

そんな感じのイメージを持っている方が多いと思いますが、本当に難しいのは予選の中盤以降や本選などの問題の話。実は、予選の最初の方の問題は標準的な高校入試問題程度の問題が出ることもよくあることで、比較的多くの人が楽しめる難易度になっています。(しかもかなり良問!)

ではなぜそのような問題が注目されないんでしょうか?
この原因の1つが、丁寧な解説があまり存在しないからだと私は思っています。
数オリの解説を書くような人にとって、このレベルの問題は半ば「普通にやるだけ」に近い状態であるため、わざわざ丁寧な解説を書くまでもないのでしょう。

そこで、今回は敢えてその序盤の2問に(自分ができる最大限)丁寧な解説を付けてみました!(解説自体にまだ慣れていないので、読みにくいところなどは多いと思いますが....)
完全に数オリ未経験者の方も、是非数オリの「入り口」に触れてみてください...!

1番

問題文

$${\sqrt{\frac{123!-122!}{122!-121!}}}$$ は有理数である。
これを既約分数の形で表せ。

コメント

𝕏で話題になってたやつですね… 
問題によっては途中計算でこれくらい複雑な処理を要求されることもあるので、演習価値の高い問題だと思います。

解説

登場する数が大きすぎるので、全て手計算でやるのは無理そうです。
どうにかして、まずは簡単にしたいですね。

この数を簡単に表す方法としては、
①ルートを外す(問題文にこの数は有理数だと書かれているので、ルートを外すことが可能であるため)
②約分する(複雑な分数を簡単にするためには約分が使われることが多いため)
の2つがとりあえず考えられるでしょう。

①の方針は…ちょっと無理そうです。
分子分母の数がちょっと大きすぎるので、このままの状態で平方根を求めるのは非現実的でしょう。(うまい変形も見つかりそうにありません)

それでは②の方針でいってみます。
ここで一度、階乗の定義を確認してみましょう。
ざっくり言うと、n!とは「1からnまでの整数の積」ですよね。
例えば、問題に出てくる$${121!、122!、123!}$$はそれぞれ、
$${121!=1×2×....×120×121}$$
$${122!=1×2×....×120×121×122}$$
$${123!=1×2×....×120×121×122×123}$$
となります。
...これをみて何か気が付きませんか?

実は
$${122!=(1×2×....×120×121)×122=121!×122}$$
$${123!=(1×2×....×120×121×122)×123=122!×123=121!×122×123}$$
というように、
$${122!,123!}$$は$${121!}$$の倍数となっています。
ここから、$${123!-122!}$$と$${122!-121!}$$はどっちも$${121!}$$で割り切れると分かります。

ここまで分かれば、$${\frac{123!-122!}{122!-121!}}$$を約分して簡単にすることもできそうですね。
先程の式より
$${122!÷121!=122}$$
$${123!÷121!=122×123}$$ なので、
$${\sqrt{\frac{123!-122!}{122!-121!}}}$$=$${\sqrt{\frac{122×123-122}{122-1}}}$$=$${\sqrt{\frac{122×122}{121}}}$$=$${\frac{122}{11}}$$
となり、これが答えとなります。

類題

同じような階乗の変形をする問題をいくつか貼っておきます。
① 任意の正整数nについて、$${\frac{(n+2)!-(n+1)!}{(n+1)!-n!}=\frac{(n+1)^2}{n}}$$ が成り立つことを示せ。
②$${n≧r≧2}$$を満たすような整数$${n,r}$$について、
$${r{}_n C_r=n{}_{n-1} C_{r-1}}$$が成り立つことを示せ。

2番

問題

どの桁に現れる数字も素数であるような正の整数を「素敵な数」とよぶ。3桁の正の整数$${n}$$であって、$${n+2024}$$と$${n-34}$$がともに「素敵な数であるものはちょうど2つある。このような$${n}$$を全て求めよ。

コメント

2024は言うまでもないですが、34という数字は今回が第34回日本数学オリンピックであることにちなんでいると思われます。どうしたらこんな綺麗な数値設定にできるん 

解説

今回のように分かりにくい条件がある場合、まずは条件の言い換えができないか考えてみましょう。
0以上9以下の素数は2,3,5,7の4つであるため、「どの桁に現れる数字も素数である」という条件は、「どの桁に現れる数字も2,3,5,7のいずれかである」と言い換える事ができます。

100〜999の900個を全てnに代入して調べれば分かるのですが…流石にキツそうですよね?(余談ですが、こういうゴリ押しのことを「体育」と呼ぶことがあります)
実は、条件を満たす整数を全て求める、といった形式の問題を解く時の定跡の1つとして、
「条件をみたす可能性がある数をある程度絞り込んで、それらを全て試してみる」というものがあります。
今回の問題はその方針で解いていきます。

3桁の整数とは100以上999以下の整数のことなので、
$${100≦n≦999}$$ が分かり、
ここから
$${2124≦n+2024≦3023}$$.…①
が分かります。
4桁の整数のうち最も小さい「素敵な数」は$${2222}$$なので、$${2222≦n+2024}$$.…② (①より$${n+2024}$$は4桁の整数なので)
また、$${3000}$$以上$${3023}$$以下である「素敵な数」は存在しない(百の位が0であるため、素敵な数にはならない)ため、
$${n+2024}$$は千の位が2である「素敵な数」だと分かります。

また、②を解くと、$${n≧198}$$
ここから、$${n-34≧164}$$が分かるので、
$${n-34}$$は3桁の「素敵な数」だと分かります。

ここで、$${n+2024}$$ を$${2ABC}$$,$${n-34}$$を$${DEF}$$と置きます。($${A〜F}$$はそれぞれの位の数を表しています。)
$${(n+2024)-(n-34)=2058}$$より、この2つの数の差は$${2058}$$なので、
引き算の筆算を用いて下のように表せます。(こうやって筆算で書くとイメージしやすかったりする)

(画像編集下手すぎ?)

「素敵な数」の性質から考えて、$${A〜F}$$は$${2,3,5,7}$$のいずれかになります。
まずは、下の桁の繰り上がりなどを考えなくて良い1の位について考えてみます。
$${C=2,3,5,7}$$の時をそれぞれ試してみると、
$${(C,F)=(7,5) または (5,3)}$$と分かります。(それ以外だと$${F}$$が条件を満たさないため).…③

ここまで絞ればあとは気合いで探す!でも良いのですが、(実は$${A,B}$$が定まれば$${D,F}$$も定まるので、この段階で調べ上げても調べるのは4×4×2=32通りしかない)
ここではもう一段階絞ってみます。

まず、$${A=D}$$だと仮定します。
すると、先程の筆算の下二桁をみることで、$${BC-58=EF}$$が分かります。
しかし、$${BC}$$として考えられる最大の数は$${77}$$、$${EF}$$として考えられる最小の数は$${22}$$なので、
$${77-22=55<58}$$より、$${BC-EF}$$が58になることはありません。
つまり、$${A=D}$$ではないと分かります。
あの筆算を見ると、明らかに$${A}$$は$${D}$$か$${D+1}$$のどちらかなので、(十の位で繰り下がりが起こる場合と起こらない場合)
$${A=D+1}$$と分かります。
$${A,D}$$はどちらも$${2,3,5,7}$$のどれかなので、
条件を満たすのは$${A=3,D=2}$$の場合のみだと分かります。(他のどの2つを取っても差が$${2}$$以上になるため).…④

③、④を満たすようなものを全て調べ上げると、
$${(A,B,C,D,E,F)}$$がそれぞれ
$${(3,3,3,2,7,5)}$$のときと、
$${(3,3,5,2,7,7)}$$のときに条件を満たします。
それぞれについて$${n}$$を求めると、
$${275+34=309 277+34=311}$$より、
$${n=309,311}$$となり、これが答えとなります。

おわりに

いかがだったでしょうか?
「なんか思ったより簡単な問題だな…」と思った方もいらっしゃるのではないかと思います。
ぜひこの記事をきっかけに競技数学の世界に入ってみてください!
今回解説したレベルの問題演習をたくさんしたい場合は、
・OMC(Online Math Contest)のfor beginners が付いている回のA問題(もくしくはB問題)をやる

・JJMO(日本ジュニア数学オリンピック)予選の、1番〜3番を解く

・(英語が読める場合に限り)AMC10をやる

などが良いかもしれません。

この記事をきっかけに数オリ、競技数学に興味を持った方が居てくれたら嬉しいです。
それではまたの機会に。


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