「サムスン製の有機ELディスプレイは焼き付き防止のための黒挿入によって遅延が生じる」という説についての考察
先日、twitterで上記の説を見たときそんなことがあるのだろうかと思いソースを確認したらスマブラyoutuberムタマ氏の動画であった。
そういえば、OLED(有機EL)版Switchが発売されるときに氏のツイートを拝見していたが、当時はよく分かっておらず、また複数の情報が脳内で絡まっていたのでそんなこともあるんだなくらいにしか受け止めていなかったが、改めて調べてみると疑問点がいくつか現れたので、それらを踏まえて考察を行った。あらかじめ暫定的な結論を述べると、「(副次的なものであれ)合っているかもしれないが、どちらにしろ確証が得られない」くらいになる。情報が不足していて断言できない。それでも、出来る範囲での議論の整理は達成できたと思う。
先に断っておくとOLEDディスプレイが遅延することに異論はない。なぜなら、氏は実際にOLEDディスプレイとCRT(ブラウン管)での表示をスローモーション比較した(下動画)うえでOLEDには遅延があることを示しているのだから。こちらが実機検証をして異なる結果が出ない限りはこれを否定することはできない。
またその原因が黒挿入であるという説も、意図的に黒挿入を行うモードにおいては遅延が発生するというゲーミングディスプレイにおける知識(後述)から正しいと考えている。
ゆえに、今回指摘したいのは①サムスン製OLEDディスプレイが②焼き付き防止のために黒挿入を行っているために、の二点だけである。
なお、考察当時の思考過程の再現に情報を追加したものであるので、①②の順番で簡潔に説明されるわけではなく、かなり込み入った文章になっている。
通説
元々OLEDテレビ・モニターは遅延するという知識はあったが、その原理は理解していなかった。こちらの記事ではその原理について説明がなされている。
つまり、焼き付き防止のために映像出力に先立って別の処理が入ることにより遅延が生じるということである。
この説明で解決したのでは?と思うかもしれないが、その下の段落で携帯電話用、PC用のOLEDパネルでは同様の処理が行われていないとある。これは、これらのパネルはテレビ・モニター用のパネルよりも輝度が低く、焼き付きや劣化の影響が少ないからだという。スマホはもちろん、7インチのSwitchや15インチのモバイルモニターはPC用パネルと同様の工程で作られているため、ゲインコントロールによる遅延はひとまず関係ないと考えられる。
(個人の意見としては輝度が低いからという理由に納得できない。PC用なら正しいが、最近のスマホ用パネルはピーク輝度が1000nit、全白表示もテレビ向けと同等かそれ以上の輝度を出せるはずである。おそらく、BE方式やWRGB等で無理に輝度を上げているLG製パネルや何故か輝度が出ない印刷式JOLED製パネルと違って、スマホ用パネルは輝度を上げるのが容易であるからか、あるいはもって数年程度の消耗材であるスマホは焼き付きをそもそも恐れていない前提の設計であるからであろう。)
次にOLEDの黒挿入について調べた。
以下のスレッドによると、LGのOLEDテレビのBFI (Black Frame Insertion 黒画面挿入)モードをオンにした場合、オフの場合より最大17msの遅延が発生するという。
どうやら黒挿入が遅延を引き起こすことは間違いないようだ。しかし、BFIモードというのは残像(motion blur)を減らす目的で行われるのであって、焼き付き対策は無関係ではないだろか?OLEDに比べて焼き付きリスクの薄いLCD(液晶ディスプレイ)であってもBFIモードが搭載されていることからもそれが分かる。
スマホで言えばSHARPのAQUOS zeroシリーズが黒挿入により実質リフレッシュレート240Hzを謳うOLEDディスプレイを搭載していた。低残像を売りとしているが、寿命についての記述はない。
いずれにせよ黒挿入は焼き付き防止のためになされるという情報にたどり着くことはできなかった。
(RedditにはBFIが焼き付きのリスクを下げる可能性についてのスレッドがあったが、具体的なは結論は得られなかった。可能性としてはあり得ると考えるが、最終的には今回の話と関係が無くなった。)
上述したような情報が混ざった結果、焼き付き防止の黒挿入という話になったのであろうか?しかし、Twitterを見る限り氏はゲインコントロールや残像軽減のBFIとは異なる現象としてこの黒挿入を語っているように感じた。
考えあぐねている最中、遅延の原因としている黒挿入の画像の投稿を発見した。
これを見て氏の理論と、同時に違和感の正体を理解した。
確かにSwitchのディスプレイに黒いラインが挿入されている。
が、同時に「これって単なるPWM調光のフリッカー(ちらつき)じゃないか?」という考えが浮かんできた。
PWM調光
PWM(Pulse Width Modulation, パルス幅変調)調光とは、ディスプレイの調光(明るさを変える)ための一方式である。OLED/LCDディスプレイで広く使われている方式で、画面を暗くするために電流を下げるのではなく高速で光源のオンオフを切り替えることで、脳の錯覚により画面全体が暗くなったように感知させるものである。画面の明るさを変えるときは、デューティ比(Duty Cycle)、すなわちスウィッチングの一周期のなかでオンが占める時間の割合を変更する。例えば、明るさを最大値の75%にしたい場合は、デューティ比を75%にすればいい。
https://news.mynavi.jp/kikaku/20130822-a001/2
ディスプレイを撮影した際にシャッタースピードやフレームレートの関係で目では見えないフリッカーがカメラに映るのはおかしなことではない。
検索したところ、氏が調光、PWM、フリッカーについてつぶやいた形跡は無い。(twitterの検索機能がポンコツである可能性は残る。)
ただし、インパルスという言葉で同じ現象を指している可能性はある。
(疑似)インパルス駆動とは発光素子(あるいは画面)が一瞬の点灯の後消灯するというインパルス型(プラズマ・ブラウン管)の発光方式を、光源が点灯し続けるホールド型(LCD,OLED)のディスプレイにおいて黒画面を挿入することで再現しようとするものである。
残像低減という言葉から見るに、これは上記の黒挿入(BFI)と同じ現象を指していると捉えていいだろう。しかし、これが残像を減らして動画性能を上げるために積極的に行われるのに対して、PWM調光においては輝度を調節するために致し方なくなされるものに思える。PWM調光によるフリッカー現象は、特にOLEDディスプレイが低輝度の時に顕著となり、眼精疲労や頭痛といった健康問題を引き起こしかねない。
そのため、輝度調節をPWMではなくDC(Direct Current, 直流電流)調光方式で行うことを求めるユーザーも多い。これは、明るさを変更するのに単純に光源への電流値を変化して対応するものである。これによりフリッカーは(ほとんど)発生せず、敏感なユーザーにも優しい。なぜこの方式が採用されないかと言えば、PMW調光に比べて設計や制御が難しくコストがかかり、さらに言えば(特にOLEDでは)低輝度における色再現度が不安定になり色味が変わってしまうというデメリットが存在するからである。
話を戻すと、氏が焼き付き防止や残像低減のための黒挿入だと考えていたものはPWM調光によるフリッカーの可能性がある。しかし、この仮説を採用するためにはもう少し反証を否定しなくてはならない。
これまでが冒頭で述べた②に関する考察であるならば、次は①サムスン製のOLEDディスプレイにおいて、について精査する必要がある。
サムスン製OLEDとPWM調光
そもそも、なぜ「サムスン製において」という限定が付くのか。氏が触れてきた端末がサムスン製の物が多かったからか、そもそもOLEDといえばサムスン製ということなのだろうか。まず、このサムスンが指す対象が多義的である。基本サムスンと言う場合、Samsung Electronics(三星電子)のことを指すと考えるのが自然である。(あるいは財閥としての三星か)この会社はスマホ等のブランドであるGalaxyのメーカーとして有名である。一方、ディスプレイに関してはその子会社であるSamsung Display Co. Ltd (SDC)が製造、販売を行っている。両社は必ずしも一体ではなく、スマホに関してはメーカーとディスプレイベンダーの関係であり、利害が異なる場合もある。
実を言えば、自ら所持しているGalaxyを撮影する時や、あるいは動画でレビューを見たときも、Galaxy端末は他のスマホに比べて同様のフリッカーが強く出ているように見えると感じていた。しかし、これは輝度の上下によって強弱が変わるためPWM調光によるものだと考えていた。もしこれが焼き付き防止のための機能であるなら、そのリスクが増す高輝度で弱まる意味はない。
さらに言えば、他のベンダーのディスプレイでも同様のフリッカーが目立つことがある。上記の動画のMi Mix FoldのディスプレイはSDCではなくTCL CSOT (華星光電)製のものであるがサムネではディスプレイ上にフリッカーが目視できる。また、SDC製ディスプレイのどの端末でもフリッカーが見えるわけではない。(例えばArrows NX9)さらに、Galaxyであっても機種によってはほとんど見えないものも存在する。(Note 10シリーズは比較的見えなかった。)
結局、動画・静止画におけるフリッカーの視認は、機種、輝度、撮影環境にも左右されるため、ベンダーやメーカーが要因であると特定できるまでには至らなかった。
それでも、Galaxyが他機種よりもフリッカーが目立つという前提で要因を考える。確証は持てないが、一つの仮説としてPWM周波数の低さが浮かぶ。PWM周波数はPWM調光において光源のオンオフを一周期とした場合、一秒間に何回これを行ったかを示す。この周波数が低い場合、低輝度におけるフリッカーが顕著となり、敏感な人にとっては文字通り頭痛の種となる。
カメラテストレビューでお馴染みのDXOMARKによるフリッカーの解説記事であるが、PWM周波数の比較表を見るとGalaxsy S20 UltraとGalaxy Note 20 Ultraの数値が特に低いのが分かる。すなわち、この二機種は低輝度にした場合の一周期あたりに占める画面オフの時間が短く、フリッカーが見えやすくなる。
興味深いのが、おそらくLGやBOE製も混ざっているP40 proを除くと、残りのOneplus 8 proとOppo Find X2 proはSDC製のOLEDディスプレイを使用していることである。つまり、サムスンは何らかの理由でPWM周波数を低く設定している可能性を指摘することができる。もし、PWM周波数が(画像・動画上での)フリッカーの視認に影響するなら、それはディスプレイベンダーではなく製品のメーカー側の調整の結果ではないか。
もう一つの要因として輝度調整の仕様が関係しているかもしれない。ここで言う輝度とは、絶対的な輝度の数値(nit)ではなくPWM調光による画面オフを行っていない最大輝度を100%した場合の相対的な値である。つまり、最大輝度が1000nitと500nitの端末では、それぞれ500nit相当、250nit相当が同じ50%の輝度として扱われる。(PWM調光の場合明るさを下げてもオン時の輝度は一定であると考えられるため、機械で計測した場合半分の輝度になるかは怪しい。なので、相当という言い方になる。)
もし200nit相当の明るさを得たいとき、最大輝度が高いディスプレイの方がデューティ比が低くなり、結果的にフリッカーが目立つのかもしれない。GalaxyのフラグシップモデルにはSDCの一番グレードの高いOLEDディスプレイが優先的に提供されるため、最高輝度も他社と比べて高くなるというのが一因ではないか。(要検証:後述するがこれを検証するためには最高輝度ではなく手動調整時の最大輝度を考慮する必要がある。今のところ、手動調整時においてGalaxyが他社のOLEDスマホより輝度が高いかと言われれば微妙としか言えない。)
輝度調整に関してはもう一つある。下の動画はGalaxy Note 10のディスプレイの明るさを変えたときのフリッカーをテストしたものである。輝度を最大にしたのにフリッカーが出ていることに投稿者は「失望した」らしい。
しかし、これだけでは不十分なテストである。
なぜなら、大抵のOLEDスマートフォンは手動では輝度を一定値までしか上げられないようになっているからである。最大輝度にするためには、明るさ自動調整(Adaptive Brightness)をオンにして、屋外の直射日光下など周囲が明るい場所に持ってくる必要がある。
gsmarenaのテストによれば、Galaxy Note 10の手動最大輝度は366 cd/m^2(nit)、自動調整時の最大輝度は789 cd/m^2となっている。
https://www.gsmarena.com/samsung_galaxy_note10-review-1976p3.php
ただ、これは手動時の最大輝度ではPWM調光のデューティ比が50%を下回っていることを意味するのではないはずだ。おそらく輝度が366nitに達していてもデューティ比が完全に100%になることはなく、それ以上の輝度は電流値を上げることで達成していると思われる。
なぜ自動調整時でしか最高輝度に到達できないのかといえば、屋内での使用時には輝度を上げすぎるとかえって目に負担がかかってしまう(特にスマホのように画面と目の距離が近い端末ならなおさら)という理由もあるが、何より輝度を上げすぎると電力消費が急増する上にOLEDの発光素子への負担も増すからである。
デューティー比の検証と考察
GalaxyのディスプレイがPWM調光100%の輝度に手動で到達できない理由は不明である。上で述べたような輝度の上げすぎを防止するためという説は、後継モデルではディスプレイの質向上も相まって手動調整時の最高輝度が上昇している点から採用できない。屋内使用を想定した電流値の設定であっても、電力消費や画面の劣化を懸念している可能性は否定できない。
そこで更なる検証を行った。現在所持している端末のOLEDディスプレイを屋外の日光下に持っていき、明るさ自動調節モードに設定したのちシャッタースピード1/4000にて撮影した。検証端末はXiaomi Redmi Note 10 Pro、Samsung Galaxy S10である。双方ともSDC製のOLEDパネルを使用している。
もしPWM調光のデューティ―比100%が手動調節ではなく自動調節時にのみ到達できるならば、日光下においてフリッカーは消滅するはずである。
しかしながら、検証では両端末ともに日光下においてもフリッカーが確認された。
つまり、この二端末においてはデューティー比100%=常にピクセルが点灯している状態にすることは自動調節においても不可能だった。自動調節において手動調整時の最大値以上の輝度は電流値を上げることだけで実現しているのだろう。
なぜこのような仕様になっているのか。まず考えたのが「PWM調光は元々100%にすることが原理上できない」可能性であるが、これは否定できる。
なぜなら、白色LEDバックライトでPWM調光を行っているLCDでは最高輝度においてフリッカーが完全に見えなくなることを確認したからである。
現在使用しているノートPCのディスプレイを上のテストと同じように1/4000のシャッタースピードで撮影した。結果、輝度が下がっている状態で目立っていたフリッカーが最高輝度では消失している。(もちろん消えているように見えているだけで存在している可能性はゼロではないが、これ以上正確な検証を行う環境はない。)
現にとあるディスプレイドライバの製品ページを見るとPWMを0.3~100%で調節できるといった記述がある。しかし、中には99.6%が限界のドライバも存在する。実製品に使用されているものが何かは分からないが、OLEDディスプレイで使われているドライバはデューティー比100%に到達できないという説を一つの可能性として挙げられる。その場合でも、なぜそれを使うのかという疑問が生まれるが。
https://www.ti.com/store/ti/ja-jp/p/product/?p=TLC59116FIRHBR
次に、LCDとOLEDのPWM調光の方式の違いが関係している可能性。
OLEDディスプレイのフリッカーに関する論文の三節目に気になることが書いてある。
つまり、LCDにおいては画面全体がオン/オフになるのに対して、OLEDでは同じ駆動をするとムラが発生するために画面を部分ごとにオフにしているようだ。この複雑な駆動がネックとなっているのであろうか。
他にもOLED関連の論文で気になる記述が見受けられた。「ほぼ100%のデューティー比での駆動を可能にする」”enables driving at almost 100% duty cycle”や「端末作動におけるより高いデューティー比のための」”toward ~ and higher duty cycle of device operation”のような表現は、OLEDのDuty cycleが基本的に100%にならないことを前提としているように思える。
ただ、前提知識やリテラシーに欠ける上、文量が十分でない(後者に至ってはabstractしかない)ため決定的な情報とまではいかない。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pssa.202000081
素人ながら内容を解釈してみると、前者は(電流の均一化と高い色深度を確保しながら)静止時における電力消費を抑止する手段としてデジタルPWM調光を検討するという内容であろう。
後者もTime-Resolved Electroluminescence法によりOLEDの特性の変化を観察して劣化に繋がる電荷トラップの解析を行うもので、その知見によってより劣化に強く、高いデューティー比を得られるようにOLEDの設計を改良できるという示唆を述べている。
ここから考えるに、デューティー比を100%に出来ないという仕様が実在するならば、それは過大な電力消費や劣化(つまり焼き付き)の抑止と理想的な彩度や光量の均一化の双方を考慮した上でOLEDディスプレイの実製品を作る必要があるために生まれた妥協点なのではないであろうか。
そのように考えると「焼き付き防止のための黒挿入」はあながち誤りでもないのかもしれない。
結論
「サムスン製の有機EL(OLED)ディスプレイは焼き付き防止のための黒挿入によって遅延が発生する」という説の真偽を考察した結果、
①サムスン製という限定は怪しい
②黒挿入と呼んでいたものはPWM調光によるフリッカーである可能性
③黒挿入でもフリッカーでもOLEDで画面を一時的にオフにする駆動を行うと遅延が発生する
④理論上PWM調光のデューティー比を100%にすればフリッカーは消えるはずだが、日光下の自動調光であっても100%にならない
➄その理由の中には焼き付き防止があるかもしれない
という説明に至った。
更なる調査と検証が必要だが、あいにくディスプレイの専門家でも工学専攻でもないため限界がある。特に駆動関係の前提知識はほとんどなかった。
長々と書いてきた文章でもその真偽は業界人の一言で片が付いてしまう。
もっとも、それで解決するに越したことはないが。
課題点
以下、考察の課題点を述べる。
SDC製以外のOLEDディスプレイでの検証
本文で「サムスン製」という限定を退けた理由は、あくまで動画、静画でのフリッカーの視認が他社製でも見られる(あるいはSDC製でも見られない)ケースがある点であった。しかし、結論を踏まえるとそれだけでは不十分である。「最高輝度においてフリッカーが残るか否か」という上で行った実験を他社製のOLEDディスプレイを搭載した端末においても実行する必要がある。
しかし、手元にある端末は少なく、SDC製以外となるとVisonix製のディスプレイを使ったRakuten Handくらいである。検証したところ、日光下でもフリッカーが視認できた。LGやTCL、BOEといった他の大手ベンダー製ディスプレイの検証で同様の結果が得られなければ、最終的な判断はできない。
ただ、この説が最終的には否定されると思わせるような情報が見られるのも事実である。duty cycleに関して引用した二つの論文では、特定のメーカーの調整如何の記述はなく、(実製品としての)OLED全体に当て嵌まる一般的な話をしているように思えた。
フリッカーの視認とフリッカーの存在(黒挿入)の混同
展開からしてしょうがない面もあるが、動画や画像でフリッカーが見えることとフリッカーが存在すること=ディスプレイがオフにされる駆動をしていることはまた別の話なので、論が混雑している。
前者は後者の結果であるが、前者を否定しても後者が成立する可能性は大いにある。結局、後者がラグの根本的原因であるならば、フリッカーが見えようと見えまいと関係ないのではないか。
PWM周波数と遅延の関係について
上二つの項目ではある意味ではサムスン製OLEDが特別ラグを起こすことを否定している。しかしながら、PWM周波数と遅延の関係によってはこの説が指示される可能性が残る。
OLEDの黒挿入が遅延を引き起こすメカニズムについては、氏の「PU-15PRE」レビュー動画で説明されている。
LCDにおいては、黒挿入は必ずしも遅延に繋がらない。なぜなら、LCDは光源(大半は白色LEDバックライト)と明度・色彩に関わる液晶部分が分離しており、黒挿入を光源のオフにより実行した場合においては画面表示に関わる液晶部分の構成はそのまま保持されるからである。
一方、OLEDはピクセルが自発光するため、黒挿入の際には点灯だけでなく一旦画面表示に関わる構成もオフにする必要がある。その後改めて表示を行うため、この間が遅延に繋がる。
一つ疑問なのが、復帰後の表示は消灯中本来表示されるはずだったものなのであろうか。もしそうならPWM調光に伴う消灯は一秒間に数百回と繰り返されるため、時間を経るごとにラグは堆積していくのではないか。しかし、それでは実使用時にも支障が出るはずであるから、実際にそんな仕様になっているとは思えない。どこかでズレが修正されていると考えるのが自然である。
あるいは、復帰後の表示は消灯時間を考慮した上で、通常の推移ではそうなっているはずの表示を計算しているのか。そして、それでもラグが起きるなら原因は計算か表示メカニズムかの不十分さにあると考えられる。
これを踏まえてPWM周波数と遅延の関係について考える。デューティ比が同じ50%であると仮定して、PWM周波数がそれぞれ200Hzと400Hzである端末A,Bをケースにとる。
点滅回数 A 200回/秒 B 400回/秒
オフになっている合計時間は双方とも全体の1/2だが、一回辺りの時間ではAが1/400秒でBは1/800秒である。
仮にラグのメカニズムが「消灯から復帰後消灯時の表示になる」パターンであるなら、オフになっている時間が長い端末Aがより遅延しやすいことが予想できる。もう一つのパターンの場合、ラグは表示の修正機構が原因で起こるためどちらがより遅延するかは分からない。
そして、Galaxyなどのサムスン製品はPWM周波数が低く端末Aに近い仕様になっている。最初のパターンが正しければサムスン製(≠SDC製)OLED端末でラグが起きやすいと言えるかもしれない。
上の考察は全て体系化された学術的知識に基づいたものではなく、ニュース記事や公開論文といったネット上の情報を集め、多少の自己検証と聞きかじりの知識をもとにして組み立てられたものであり、どこか決定的な誤りを犯している可能性は否定できない、ということを前提にして捉えることを推奨する。