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【出版後記・雑記】僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。

出版からもうすぐ3年になろうとしている本書ですが、5刷の連絡を頂きました。地道に売れ続けているのは嬉しいもので、折角なので本書を出したことを振り返ろうと思います。手に取って頂いた方には本当に感謝しています


1. 目指したもの

本書を書いた時は不安も大きかったのですが、案ずるより産むが易し。良いこと悪いこと含め、色々な方からコメントを頂けるのも醍醐味です。

単著は本書しかないので思い入れが深いのですが、最初の一冊は出し惜しみせず全力を注げと誰かが言っていたように、この本には相当力を注ぎました。

目標は『研修医当直御法度』のように定番書として長く読まれる本になることでした。流行りのトピックや時節とともにうつろいやすい内容ではなく、できるだけベーシックな部分を解説したい。そして、ある程度経験を経てから読み直すと「あ、これこれ。いいこと書いてあるじゃん」って思ってもらえる本にしたいと思っていました。

文献が新しくなっても、AI時代になっても本書のコアな部分はそう変化ないと思います。とはいえ改訂したい部分はあるので出版社に打診したのですが、時期尚早とのことでした。確かにちょっと改訂しただけでまた同じ本を買おうとは思わないか…でも色々追記したいな…という気持ちの狭間です。

誤解を招きそうなところの改訂とか、AI関連、RCT・データベース研究、トランスレーショナル研究周りを充実させたいので、読みたい人はぜひ羊土社さんに要望を笑。

2. いくら稼いだん?続編は?

この本が出た後、色々な方からコメントもらったんですが、しばらくすると内容よりも「結構売れたでしょ?車買える?」「単価4000円で、一万部ってことは大体**円くらい?」とかそんなコメントがほとんどでした笑

みんな論文よりそういう話の方が好き…(僕も好き)。

印税生活には程遠いですが、それなりのお小遣いが入り、年に一回くらいは欲しいキャラを天井することができました。印税はボーナスみたいなものなので、これくらい売れるのが保証されるなら確かにたくさん本を書きたくなるなとは思います。

実は本書が出た後、ありがたいことにいくつかの出版社から声をかけていただいたのですが、『これだ!』と思えるアイデアがなく、お断りしていました。自分の中で既存の書籍との差分を見つけられなかったのが大きいです。色々な出版社から同じような本をたくさん出してもなーって気持ちもありました(義理もあります)。

あと、本書は自分の困った経験から生まれているからこそ長く読まれていると思っていて、本を出すことが先行すると自分のナラティブが減って、本を書くために知識を仕入れたり、人の褌で相撲を取ることになってしまう感じがあり、そうなると実体験に基づかない薄っぺらいことしか書けないなというのが嫌でした。

そしてもっとwebなどフリーアクセスで知ってもらった方が良いと思っていたのが臨床研究論文作成マニュアルです。でもwebを充実させるよりも、本を出版した方がやっぱり広がる気はしています。Webの内容そのまま出版できなら楽ですが。

3. Amazonでの評価

出版したからには買ってもらいたいので、SNSでアピールしたり、内容を評価してくれそう&フォロワーの多そうな先生に献本したり、Amazonとかでぜひ感想書いてね!とかお願いしました(パワハラはありません)。

出版されて一ヶ月は、毎日一回はAmazonを見て順位をチェックしたり、レビューが気になりながら覗いていました。

特に嬉しいのは、僕が直接知らない読者が書いたと思われる高評価のレビュー。面白いことに、こういうニッチな世界だと、Amazonのレビューを誰が書いたか結構わかるんですよね。一方で星2とかが付くと「そうかー…」ってちょっと残念に思う反面、「いや、確かに後半は重くて理解が大変だし、自分の文章もこなれていない。全部星3以上というのも不自然だからこれでいい」なんて気を鎮めてました笑。

というか上記レビューなんかは実名だし、COI無しとか書いてあるけど、あなた思いっきり知り合いですよね???って思わず心の中でツッコミながら見ていました。確かに本書に関して何かをお願いした事は一切ないので、direct COIは無いですし、査読者としても私情を交えない先生なのでそこは信頼してください。コメントと星5評価ありがとうございます。

最近はSNSで初動が大きく変わるし、ネットで本を買う時代なので、SNSマーケティングは必須です。反面、Amazonの初期評価は大体執筆者の身近な人なので、他の先生の本を買う時にも初動や初期レビューでの評価が難しくなったという印象はあります。

献本を頂いた場合も、出版から数週間はSNSがその関連投稿で埋まり、自分が投稿するまでもなくお腹いっぱいだったりするので、しばらくしてから投稿したりすることもあります。

4. 初心者向けではあるけれど

本書は「初心者向け」とのコメントやレビューを頂くことが多いですが、そう思っていただけたなら良かったなと思う反面、そんなに初心者向けかなーと思う気持ちも実はちょっとあったりします。

中後半はかなり内容が重たいと思っていて、途中で挫折したというコメントの方が真に近いと思って見ていました。ある程度意図的に重ための内容を入れていますので。

本書に書いてあることを本当に理解して実践できている人は臨床研究者でもそんなに多くないと思っています。SPHのMasterを出たくらいでも…どうでしょうか。この話は次のassociation studyにも関連します。

5. Association studyに関して

因果推論界隈では死ぬほど嫌われている関連性の探索、いわゆるリスクファクター研究ですが、これはどうしても本書に入れたかった部分です。なぜなら今でも数多く出版され、読者が理解に困るから。本書は疫学や研究デザインの本ではなく、あくまで論文を読むための本なので、これを入れないと訳がわからなくなります。

でも出版後にある先生から、『先生の書籍で関連性の探索が、記述・因果推論・予測と独立して4つ目にあるから、それが正しいと思われてしまう』とコメントを頂きました。研究する側としてはよく分かります。

記述・因果推論・予測のフレームワークはHarvardの、今はMiguelらの主張としてメインにあるものですが、関連性の探索は突き詰めれば因果推論か予測に行き着きます。本書で独立して扱っているのは、僕個人として、この3つに分けるのが本当に正しいのかという点に対してやや懐疑的なこともあるかもしれません(というかどっちでもいいと思っている)。

出版前に本書を読んで頂いた耒田先生に教えていただきましたが、リスクファクター研究がどこから生まれたかというと、1961年のフラミンガム研究と言われています。

元々はfactors of riskという用語で、これまで判別分析モデル(連続変数しか入れれない)だったところに、ロジステック回帰モデルがフラミンガム研究から使われはじめて binaryなども入れれるようになり多くのrisk factorがわかるようになってきた大きな金字塔的研究です。

SNSでも議論されていましたが、本論文におけるrisk factorの扱いは
・別の因子を条件付けたときでも発症リスクの増加に関連しているか?
・関連していてもその因子に介入したら発症リスクが良い方向に変化するかどうかはやってみないと分からないといういわば因果推論の文脈での解釈になっています。

本稿ではこれ以上深入りしませんが、興味のある人は下記論文もどうぞ。

6. 自分なりの反省点

本書はかなり広範囲の臨床研究を扱っているのですが、正直RCTのところは薄いなと思っていました。これは当時実際にRCTを行っておらず、実体験としての課題感や問題意識が無かったためです。

所謂RCTの読み方とかそういうものは巷に沢山ありますが、実際にRCTを行った人が書いているかそうでないかで結構差があると思っています。今ではいくつかのRCTに参画しており、何がどう大変で、実際の問題点を実感しているので、そこに中身が入るだろうなと。

あとはバイアス周りや統計解析のあたりもちょっと改善したいなと思うところがあります。間違った事は書いていませんが、この辺もちょっと自分の知識の深みが足りなかった部分。

とまあ色々思ったところを書きましたが、本書が売れたおかげて収入だけでなく、業績や人脈にも繋がったので、出して良かったなと思っています。

もう一冊くらいは書きたいテーマがあったので羊土社さんに提案しましたが、あまり反応良くなかったので、また練ってみます笑。

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