書評:『生物統計学の道標』(献本)
献本いただきました。お世話になっている先生方が書かれているのですが、できるだけ率直に書いていきます。
結論からいうと完全な入門書ではないため、タイトルに「より深く」とある通り、入門書の次に手に取るのが良いと思います。特に回帰分析をよく用いる先生は手に取って損はないでしょう。11-16が出色に思いました。最低限の因果推論の知識はあった方が良いです。
1. 手に取った感じ
まずサイズと薄さ。これはちょうど良いです。
というのも生物統計学というだけで結構本を買うのを躊躇したり、読みにくいだろうなという「身構え」が生じるのですが、A5判・240 pageほどで小ぶりなので、読めそうな気がします。
一方で、パッと開いた感じ、文字が小さめなのでこれを全部しっかり読むのはちょっとしんどいかもしれないというのが第一印象。出版までの経緯などを眺める限り、「きちんとした」本であるため、やむを得ない部分もあるのだろうと推察します(もちろん著者の方針もあると思います)。ただ、CONSORTチェックリストなどは老眼が始まっている自分には結構きつい。
そういう意味では巷の優しめの導入本をスタートとして、もう少し読みたいけど数式がたくさん出る本は嫌だな…という人に向いている印象。
2. はじめに・前書き・あとがき
僕はどの本でもこのセクションが非常に好きで、その人がなぜこの本を書いたのか?何を目指しているのか?が一番出る部分だと思っています。論文のイントロダクションで読ませるというのと同じで、共感できる部分があるかどうかなど、すごく大事にしています。
ごもっともです。
これは自分が「わかった気になってもらう」ための本を書いているので中々刺さる部分でした。数式を理解せずして正しく使うというのは本当は無理なのではないかなと思っている昨今ですが、臨床医がそこをちゃんとするのは難しく、フローチャートから脱出する一歩を踏み出す、あるいはなぜフローチャートがそうなっているかを理解するための一冊になるかなと。
3. 本文
図1の矢印が逆なような気はしますが、それはさておき、本文では重要な点に重み付け(太線などの強調)や要約がないため、淡々と読んでいくことになります。結構大事なこともサラッと書いてあるので、初見だと見落とすかもしれません。ただ重要なポイントは人によっても違うので、そういう意味では繰り返し読むというのは確かに大事。
1-5回:クリニカルクエスチョン〜研究デザイン
研究目的をどう分類するかは中々難しいと思っていますが、比較的オーセンティックなスタンスで書かれています。福原先生の臨床研究の道標を意識しているのか?どうかはわかりませんが、同書を読んでいる人にとっては素直に受け入れやすい形での記載です。
6-8回:生物統計の基礎
生物統計学主体の話になってきます。多分最初に詰まるのは7章の推測統計のところですが、ここをどれだけ理解しているかでここから後の理解度に影響が出ます。書いてあることは多分目にしたことある人が多いと思うのですが、中々ここの部分で躓く人が多いので、いわゆる入門書と照らしながらの方が良い人もいるでしょう。
9-10回:バイアス
個人的には生物統計家と疫学専門家で微妙にずれ?を感じる部分です。多分同じことを言っているはずなのですが、時々「あれ、そうなのか」と思う時もあります。本書は2章分で、重要だけど深い部分は専門書に譲る印象を受けました。
11-16回:回帰とハザード・解析における議論
ここまでの内容も総論として非常によくまとまっているのですが、ここからが本書の特徴があるように思いました。なぜ回帰モデルを使うのか?ここにしっかり踏み込んで解釈している入門書は多くありません。上記までがある程度入門書で分かっている方にとってこの部分での学びは大きいと思います。
17-24回:specific theme
急にRの使い方や文献検討などの個別の話になるので、後半はやや実戦向けな内容になります。メタアナリシスや記述研究など簡単にまとまっていますが、詳しくはそれぞれの書籍と合わせて読むのが良いと思います。
4. まとめ
ある程度研究経験がある人が読むと、普段自分の用いている解析部分への理解が深まると思います。あと、生物統計家と話をする上で、意思疎通が取れるようになるかと。改めて読んで、追記があれば都度更新したいと思います。