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医者とキャリアとスタートアップ
ここ最近キャリアの相談に乗るというか悩みを聞くことが増えました。
多くの場合、医者のキャリアは下記のいずれかでしょうか。
・大学に残って教授を目指すあるいは研究・臨床を続ける
・市中病院の部長職などになる
・開業もしくは後継
・製薬など一般企業への転職
・起業やその他独立系、副業を頑張る
40過ぎるとそろそろみんな自分の人生の落とし所の一つを見つけているように感じます。変わらず臨床や研究を頑張っている人もいれば、地元で開業したり親の後を継ぐ人もいます。時には教授を目指すと言っていた先生が急に転職したり。何かしらの諦観というか虚無感的なものを感じる事も多く、いわばミッドライフクライシスなんでしょうか。一方で夢に向かい交差点を渡る途中の人は若々しくていいですね。
僕は企業にいながら研究に携わってきたからか、アカデミアと企業系のキャリアはよく話が入ってきます。他はあまり知りません。ただ、どこまで行っても隣の芝生は青いのだろうなとは思います。
あと、私の妻もそうですが、出産・育児などでキャリアが変わった女性の方も多くいらっしゃると思います。そこへのキャリア支援プログラムはもっと充実するといいなと思っています(本稿では割愛しています、すいません)。
医局に残るキャリアですが、僕は結構いいシステムだと思うんですけど、世間的には不評ですよね(特にSNSでは)。自分の人生を自分だけで決めるのは案外難しいので良い選択肢だと思うのですが。時事的・国際的な状況はともかく、最近の医局は昔と違ってだいぶ改善されている印象ですし、大学という身分保証は社会的にもありがたいと思います。
ポジションに拘らず自分の仕事を進める先生も多いと思いますが、キャリアの上で大学に残るということは、(任期付きではない)教授を目指すことになるかと思います。私は研究者との交わりが多いので、教授選の話はよく聞くようになりました。
教授選は話を聞く限り、意外なこともあれば妥当なこともある感じで、実績・教育・評判・政治・プレゼンの総合格闘技なんだろうなと。ただ、何のコネクションもないところでいきなり勝つのは相当大変そうです。
以前京大の福原先生や東大の康永先生が『教授になるなら45歳』的な事を話していました。それより前だと長いし若い、それより後だと歳だし時間が足りない的な話しだったかと。仮にそうだとすると、40歳にはもう自分が所属する大学でどうなるかがある程度見えてくる年齢になります。一方で40前など年齢が若過ぎるのは避けられがちです(やばい人だと辞めさせられないので)。
一人の教授が大体15年〜20年勤務と仮定すると、母校や所属先かつ専門領域で教授になれるチャンスは人生でほぼ1回しかありません。ましてや自分の学年近くに本命の先生がいると勝負するか外に出ないといけないので、その点では大学に残るキャリアは精神的に辛いような気がします。全国の教授選に出て、勝てたところに行ってようやく落ち着くという感じでしょうか。教授になったら優しくなったというのはよく聞きますから、それだけプレッシャーもあるんでしょうね。首都圏や旧帝大が人気なのは医学部受験でも教授選でも変わらないようです。
先に述べたように私は市中病院のポジションや開業に関しては明るくありませんが、自分の大学の同級生を見ても、市中病院の要職として臨床に携わっている人は多いです。研究者であれば研究機関の要職。
仕事をして、家を構えて、子どもの学業を手伝って…落ち着いた人が多いなという印象です。住むところが決まり仕事が安定しているからか、趣味に没頭したり、投資とか副業をしている人も多いです。たまにアカデミアに戻る人もいるのですが、それはやはり研究している人ですね。研究センター長とかも含めて。あとはそこからさらに病院長などの要職を目指す人もいます。ただその際には結局PhDが必要だったりする事もあり。。
病院規模やアカデミア色の強い病院かそうでないかでも違いますが、友人の中には「俺はあと子育て終えるだけや」と言ってる先生もいれば、地域医療に身を置きつつ、学会とのコネクションを持って活躍されている先生もいます。そういう先生はすごくパワフルだなと思って見ています。
開業に関しては俗に言うウハクリや大きな病院・施設を持つ人からそうでない人、表には出てこないけど集客に苦しんでいる人まで様々で、開業医のコミュニティで活動されてる印象です。お金持ちはとことんお金持ち過ぎて引きます笑。以前、とある医者の資産運用系のオフ会に紛れ込んだことがあるのですが、ほとんどが開業医の先生でした(もしくは資産運用を知りたい若い先生)。
最近は直美だけでなく20代で開業も珍しくないですし、実際に行動に移している人たちも何名か知っていますが、行動力が半端じゃないですね。普通の人にはその選択肢はなかなか取れません。そのぶん金銭的リターンも得られている気がします。あとはSNSブランディングなどとの相性が良いため、若い人がSNSのキラキラした世界だけ見て判断してしまわないといいなと思う時はあります(おじさん)。
昔は製薬や企業に行く医者はなんとなく見下されていた風潮があると思うのですが、最近はむしろ競争が激化していて、医者だからという理由だけでは良いポジションを取れなくなっています。会社にもよりますが、重視されるのは臨床研究系の能力でしょうか。
ただ、ヘルスケア系は異業種が続々参入しているので、うまくハマれば良い待遇のホワイトカラーで働けるため、特に研究をしていた先生からの人気は高いです。僕とかも多分相性いいのかな?と思いますが、オファーが来たのは帰国時だけです笑
それでも年収数千万でした。
ただ個人的な経験からすると、一企業人になると、やはり臨床を離れた一企業人として扱われる、ということは間違いないです。当たり前ですが、医師免許を持つ社員であって、病院勤務の医者とみなされることはあまりないです。そこへの風当たりの違いは割とあると思っています。
ちなみに私が企業に行くと決めた際には、UCLAの某先生に『企業に行ったらアカデミアに戻るのは難しくなるよ』と言われたのは覚えています。研究キャリアの途絶、利益相反、コネクションの減少など様々な要因があると思いますが。
あと医者の感覚でいると、ビジネスの現場で結構戸惑うと思います。コミュ力と英語力大事。
最後に起業・スタートアップ系。若い人からはこの相談がかなり多いのですが、最近X上で面白いポストを見ました。これ自体はよくある意見だと思いますが、僕も賛成です。
学歴捨ててわけわからんベンチャーに入社した人です。
— かのさん (@kanosan0529) February 9, 2025
コンサルでも何でもいいから、デカい会社に入りましょう。マジで後悔してます。 https://t.co/65rflcrpH9
特に大学卒業して専門医を取らずにスタートアップは、共同創業とか株式をたくさんもらっているとか、あるいはCXOじゃないと後々困ると思います。と言うか困った人を見てきました。そしてみんなそんなに高待遇で入っているわけでは無いんですよね。なんとなく興味で入ってみたけど、その後どうしよう、的な。
「あなた企業側ですよね?」と思うかもしれませんが、基本的に中小企業・スタートアップというのは株主(多くは経営者)の総取りです。
芸は身を助くと言いますが、自分の場合は専門医を取る程度の臨床経験、研究の業績、肩書き、人脈、副業・投資の掛け算に何度も助けられました。そういった下地もない単なる医学部卒は非医学部と変わりません。医師という経験を掛け算する事なく、JTCなど企業の優秀な人と同じ舞台に上がって戦って勝つのは相当厳しいと思います。
もちろん東大医学部在学中に起業して売却した人とかAmazonにいった人とかゴリゴリ研究成果出してる人とかもいますが、自分がどっちかは自分が一番わかると思いますし、多分相談に来ない。
大学病院など普段の主ポジションが明確で手伝える範囲から手伝うとか、あるいはその企業に魅力があるから一緒やりたいとかじゃないと、ただスタートアップにジョインするのは相当な茨の道であり、それなら自分で起業してsmall startする方が良いのではと思うことはよくあります。