転移と逆転移について
経営者とエンジニアの属性をもつ私が、精神分析を独学で学ぶ中で難解だった言葉や概念を書いていきます。
転移・逆転移はまさに臨床の場の言葉で、患者と治療する人(医師やカウンセラー)の関係を前提にしている。扱っている事象としては投影・投影同一化と近い。患者が過去の経験や感情、人間関係を相手に投影するのが転移、その逆でカウンセラーなどが患者に対して転移するのが逆転移である。
投影・投影同一化は現象を記述しているだけだが、転移・逆転移は臨床から見ての「立場」とか「姿勢」を含んだ言葉と思っている。数学的にいうと、投影・投影同一化を変数とした関数のようなイメージを私は持っている。
この関数が働く仕組みを支えているのは、治療者の訓練された無意識(もちろん意識的に行うこともある)だ。
患者は、慣れていくに従って昔の人間関係(問題を感じている)をカウンセラーに投影する。父親だったり、昔の先生だったり、会社の上司だったり。
転移を感じながらカウンセラーは意識・無意識に関わらず専門家として治療を目指して対応する。プロ意識もあるし、訓練の結果でもあるし、お金をもらっているから、という様々な思いが患者が社会に適応するための対応として相手を包み込んでいく。その対応にはなんらかの逆転移は避けられないだろう。
流派によっては逆転移に対して否定的な考え方もあるようだが、転移・逆転移は不可避に起こってしまうことであり、メリット・デメリットを含めても、治療に利用されていることは間違いないと思う。
このように自分の無意識を道具のように扱う学問分野が他にあるだろうか。
独学で学ぶ上では臨床は行わないが、理解を深めていくにつれ自分の無意識さえ道具にする「精神分析」の特殊性に驚き、惹かれる。独学している理由の80パーセントくらいはこの驚きである。
人の心を扱った別分野を考えてみよう。
例えば哲学の知識やフレームワークは大変魅力的だ。アリストテレスから現代まで積み上げられた考え方があり、理論があり整合性があり、人はその美しさに惹かれる。しかし、それが故に「精神分析」的に言えばこれはエディプス期以降の話なのである。その理論が生まれる前の萌芽のような混沌状態を記述できるのが「精神分析」なのだ。
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