![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/155480368/rectangle_large_type_2_284300e94393df64373f28e979d8fe89.jpeg?width=1200)
映画『エイリアン:ロムルス』公開、シリーズ通じて例の完全生物より怖いアレ
9月6日に封切られたSFスリラー映画『エイリアン:ロムルス (Alien: Romulus) 』が人気を博している。1979年にシリーズ第1作の『エイリアン (Alien) 』が世に出て以降、おぞましくも凶暴な地球外生命体が見る者を恐怖のどん底に突き落としてきたわけだが、今回の新作も掛け値なしに、怖い。
とはいえ、シリーズを通して繰り広げられる惨劇の直接的な原因は、生存本能に従って行動するこの完全生物より、むしろウェイランド・ユタニ社 (Wayland-Yutani Corporation) という超巨大多国籍企業にあるのではないかと思う。エイリアンを軍事兵器や人体改造に応用して新たな収益源とすべく、その捕獲や研究に血道を上げる同社の思惑が裏目に出るのが毎回お決まりの展開で、そこでは同社が作り出した人間そっくりのアンドロイドが重要な役回りを演じる。
今やSFスリラーの金字塔となった、シリーズ第1作の舞台は2122年。詳細は映画の中で明らかにされないものの、2099年に英国のウェイランド社 (Wayland Industries) と日本のユタニ株式会社 (Yutani Corporation) が合併して誕生したウェイランド・ユタニ社は、太陽系外惑星のテラフォーミング(惑星の地球化)から、系外惑星での資源の採掘と精製・運搬、さらに前出のアンドロイドの開発・製造などまで、まさに宇宙規模の事業を手がける。
そして、第1作と同じくリドリー・スコットがメガホンを取り、『エイリアン』の前日譚として2012年公開された『プロメテウス (Prometheus) 』 。この作品では、2089年に探査船プロメテウス号が地球を旅立ち、目的とする惑星に到着したのが2093年とされていた。つまり、ウェイランド・ユタニという統合会社ができる前の物語であり、8世代目のアンドロイド「デヴィッド (David) =David8」と、その創造主で会社の創設者でもあるピーター・ウェイランド (Sir Peter Weyland) が初めて登場する。
![](https://assets.st-note.com/img/1727183303-Cn4WeTYx1fkcOmHENulD6P0p.jpg)
『プロメテウス』公開当時、プロモーションとして俳優のガイ・ピアース演じるピーター・ウェイランドの架空のTEDトークの動画がネットに公開されたのも記憶に新しい。同作では老いさらばえた姿を晒したピーターだが、2023年とされるTEDカンファレンスの動画では、若々しく傲岸不遜な青年実業家として壇上に現れ、「我々は今や神である」と会場を埋め尽くした聴衆に語りかけた。
彼が人類を、いや自らを「神」とみなしたのも無理はない。講演によると、ウェイランド社は2023年の時点で、その10年前には発見されていなかった惑星に人間が住めるようテラフォーミングに着手する段階に入り、すでに98%のがんの治療法を確立、見た目も動きも言葉のやりとりも人間と区別が付かないアンドロイドの数年後の完成も見据えているというのだから。
参考まで同シリーズでアンドロイドの試作第1号となる「David1」が完成したのは2025年1月のこと。このあたりは、米国や中国でヒューマノイドロボットの開発ブームが起きている現在と時間軸が近いこともあり、興味深く感じられる。
今年出版された『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』(橘玲著、文春新書)という本によれば、イーロン・マスクやピーター・ティール、サム・アルトマンといった巨万の富を持つ天才起業家が、「よりよい世界」「よりよい未来」を作ろうと「テクノロジーをエクスポネンシャル(指数関数的)に“加速”させて社会を大きく改造する時代」に我々は生きているのだという。かたやピーター・ウェイランドも「私は世界を変えたい」という言葉で講演を締めくくり、会場から万雷の拍手を浴びている。
確かに、私利私欲を優先し、人命やコンプライアンス完全無視の人物として描かれるピーター・ウェイランドと、実世界でイノベーションを次々に生み出すテクノ・リバタリアンと言われる人たちとでは、倫理観も含めて大きな隔たりがあるように思う。しかし、SFのような世界を実現すべくテクノロジーを加速的に発展させ、世界を変えていこうという方向性は両者で共通する。
ピーター・ウェイランドは前出の講演の中で、ギリシャ神話で人類の創造主とも言われ、天界の火を盗んで人間に与えたプロメテウスにちなんでか、火に関する蘊蓄を傾けてみせた。
ウェイランド社からウェイランド・ユタニ社に引き継がれ、ロゴマークにも刻まれた企業ミッションは「Building Better Worlds (より良い世界の構築) 」。これが誰にとっての「より良い世界」を示すのかは、火を見るより明らかだろう。¶