【工作機械】ものづくり太郎氏ゲキ推しの中国・北京精雕、JIMTOF2022に初出展、微細加工機が人気集める
「単なる中国の安い工作機械ではない驚異的な技術。一部の日本の工作機械企業はゲームオーバーかもしれない」
人気YouTuberのものづくり太郎氏が「ものづくり太郎チャンネル」でこうゲキ推しする中国の大手工作機械メーカー、北京精雕科技集団(北京市、Beijing Jingdiao Group Co., Ltd.)。そんな同社が開発した微細加工機が11月8~13日まで東京ビッグサイトで開催中の第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)に初出展され、来場者の注目を浴びている。
デモ展示されたのは5軸マシニングセンター(MC)の「JDGR200T」。真下を向いた切削回転工具の先端を3次元空間(X/Y/Z軸)内で連続的に移動させる3軸制御に加え、金属など加工される素材を載せたテーブルが2つの軸方向(B/C軸)に回転する。これら合計5つの加工軸を同時制御しながら、素材に対して複雑な曲線・曲面加工が行える高性能の工作機械だ。
デモで生たまご表面に文字・絵柄を加工
とはいえ、5軸MCは日本の工作機械業界ではごく一般的。来場者が北京精雕のデモに見入ったのは、そもそも工業製品ではない、形状が不ぞろいな生たまごの形を一個一個認識し、ヒビ一つ入れずにその表面に文字や絵柄を綺麗に加工していったことだ。
その際、微細加工機の中では次のような作業が行われている。①生たまごを工作機械の中で計測し3次元形状を認識②機械のCNC装置(コンピューター数値制御装置)に組み込まれたCAMソフト(実際の加工プログラムを作るソフト)が自動で再計算し、工具パス(工具の速度や軌跡)をそのつど調整③テーブルにエアで吸着・固定された生たまご表面に文字を加工ーーというプロセスだ。
こうすることで、不規則な表面形状を持つ金属部品でも、被加工物表面の粗さやうねり、キズといった「面粗さSa(面の算出平均高さ)」をナノメートル(ナノは10億分の1)台に抑えられ、高精度加工かつ高いレベルでの品質管理が行えるという。
CNCやCAMまで内製、ソフトでハード補う新コンセプト
兼松系機械商社の兼松KGKでは2020年に総販売代理店契約を結んだものの、コロナ禍のため今回が日本で初の北京精雕製品のお披露目となる。同社によれば、「従来の安かろうの中国製工作機械と違い、北京精雕のマシンの高い性能を支えるのは、ハードウエア、ソフトウエアの大半を内製している点にある」という。
熱変位を抑える本体の構造設計はもちろん、CNC装置からCAMなどのソフトウエア、スピンドル、集塵機、タンクまで自社で製造。JIMTOFに併せて来日した樊一鳴(David Fan)副社長によると「従業員は4,800人。うち1,800人のエンジニアを抱え、約200人がソフトウエア関連」という。
高い加工精度を出すにはハードウエアの剛性や精度が大事になるが、同社では内製率の高さを生かしてハードウエアの足りない部分をソフトウエアで補い、両者の総合的なアプローチにより性能向上を実現している。さらに「1994年の会社設立以来、中国市場で累計15万台の出荷実績」(樊副社長)をもとにした膨大なトラブルデータを、精度向上や不具合防止対策に役立てているという。
高精度で堅牢なハードウエアを土台に、職人気質なものづくりで世界に市場を広げてきた日本の工作機械メーカーとはコンセプトがまったく異なる。あえて言えば、自動車メーカーとしては後発ながら徹底的に電気自動車(EV)部品の内製化を進め、大手IT企業(ビッグテック)のようにソフトウエアを通じて顧客に新しい価値を提供する米テスラと似たような設計思想かもしれない。
大量の半導体在庫で半導体不足乗り切る
日本市場でまず売り込むのが微細加工分野。半導体やプラスチック金型、自動車部品、光学部品などの鏡面加工・微細加工用として5軸・3軸の加工機を兼松KGKが販売する。北京精雕は国際展開も進め、すでに米国とドイツには現地法人を持つ。今年9月に米シカゴで開催された国際製造技術展(IMTS)にも出展し、米国ではこれまで60台の販売実績があるという。
内製率の高さを生かし、納期についても5軸タイプで3カ月、3軸で75日としている。そこで納期について樊副社長に半導体不足の影響を尋ねたところ、「半導体不足を見越して米国から大量に買い付けた在庫があり、生産には問題ない」との答えが返ってきた。
兼松KGKでは国内での販売価格を公開していないが、競合ひしめく日本での市場開拓へ戦略的な価格を提示してくるものと思われる。これまでの中国製工作機械とは設計コンセプトが全く違う高性能マシンが、どれだけ日本そして世界の市場で受け入れられるか、引き続き注目したい。
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