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キャスレーディープ: 機密データ分散保存技術を開発、日本発Web3サービスを世界へ
数年前まで、Web3.0 (Web3)やメタバース(インターネット上の仮想世界)が未来を開く革新的なテクノロジーとしてもてはやされていたのをご記憶の方も多いかと思う。ところが、ここ最近、Web3界隈にかつての勢いは見られない。ゲームや画像コンテンツといった主にコンシューマー、エンタメ向けでの利用に留まっているのが現状だ。そうした中、分散型といったWeb3の強みを生かし、官公庁・産業・アカデミア向けの「ハイパー・セキュア・ストレージ」技術で世界に打って出ようとしている日本企業がある。話題の生成人工知能(AI)をはじめ、デジタル技術では海外の後追いを余儀なくされている日本勢だが、Web3のアプリケーションで一矢報いることができるかどうか。
情報漏洩や改竄「不可能」のハイパー・セキュア・ストレージ
「中央集権型のサーバーを全く使わない我々の技術は堅固なセキュリティーの領域で使われ、市場としても伸び代がある。Web2では海外勢に散々やられたが、メイド・イン・ジャパンのWeb3サービスで海外市場を取りに行く」。
こう力を込めるのは、キャスレーディープイノベーションズ(東京都渋谷区)の砂川和雅社長。IT企業であるキャスレーホールディングス(同)の100%子会社として、2023年4月に設立された。「東京大学ブロックチェーンイノベーション寄付講座」の第3期スポンサー6者にも名を連ね、他にはトヨタ自動車、三井住友フィナンシャルグループ、それにWeb3の先駆者でありパブリックブロックチェーンの開発などで知られる起業家の渡辺創太氏などが含まれる。
キャスレーディープが開発した独自の機密データ分散保存サービスは、「furehako(フレハコ)」と名付けられ、2023年9月開催の「経済安全保障対策会議・展示会(ECONOSEC JAPAN2023)」で全貌が公開された。
その仕組みはこうだ。対象とする文書や動画などのデータファイルを断片化し、それら一つひとつを暗号化した上でユーザーのネットワーク端末に分散して保存。所定のファイルをダウンロードする場合は、そのハッシュ値(復元できない変換データ)を指定することで、ネットワークに分散された断片を集約・復号化できる。
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中央集権型のサーバーは全く使わず、ファイルの更新履歴がブロックチェーン(分散型台帳)上に記録されるため、「情報漏洩や改竄もほぼ不可能でセキュリティーレベルが極めて高い」(砂川社長)特徴を持つという。
ちなみにfurehakoの名前は「文箱(ふみはこ、ふばこ、ふみばこ)」に由来する。文箱はかつて大名や幕府、皇族などが極めて重要かつ機密性の高い文書や書状を入れて使者が持ち運んだという日本古来の歴史的資産で、「セキュリティーについて世界で一番信頼できる国家・日本のストレージサービス」をイメージして付けられた。断片化(fragment: フラグメント)と暗号化(encrypt: エンクリプト)の音の響きも取り入れたという。
大学や法律・金融・警察関係など採用
実はデータの秘密分散保存サービスはこれまでにもあるにはあるが、中央集権型のサーバーを持つWeb2でのサービスが中心だった。また、Web2の世界ではGAFAなどのプラットフォーマーが個人情報のプライバシーを独占し、サイバー攻撃による情報漏洩や、特定のサーバーにアクセスが集中して負荷が増大するといった課題もある。その点、furehakoは分散型なのでアクセスの過度な集中を防ぎつつ、大容量データを無限に近い形でネットワークに保存できる。
ユースケースでは、重要な研究データを保管し、関係者間で共有する仕組みとして国内の4大学で採用実績があるほか、法律・金融・警察関係、大手小売りチェーンでの店内動画保存などにも活用されているという。
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furehakoについては現在まで3本の国際特許を申請中。非中央集権型の機密データ保管技術は世界でもあまり例がなく、「確認した限り、特許や先行論文も出てきていない」(砂川社長)とする。
1月の「CES2025」で米国進出
こうした利点を生かし、キャスレーディープでは2025年からこうした「日本発のWeb3サービス」の海外展開に乗り出す。そのための事業資金として10億円規模を想定したシリーズAの資金調達ラウンドに入っており、国内の複数の事業会社を中心に交渉中。2024年内にクローズの見通しだ。
さらに、米国でのブランド認知度の向上と代理店網の構築を狙いに2025年1月には米ラスベガスで開催される世界最大級のデジタル技術見本市「CES2025」にも出展する。代理店だけでなく、近い将来には現地の大手ストレージベンダーやAI顔認識システムの開発会社とも販売面で連携する方針で、これに加え、豪州やニュージーランド、インドでの代理店契約も進めている。
企業や行政の情報システムをめぐっては、オンプレミス(IT機器やリソースの自社保有システム)かクラウドかの古くて新しい議論がある。クラウドサービスはITインフラを自社で所有することなく、運用コストを押さえながら、最新のITサービスが使えるメリットを持つ。セキュリティー関連のソフトウェアも素早くアップデートされる。ただ、7月にはサイバーセキュリティー大手である米クラウドストライクのソフトのアップデートにより、顧客のウィンドウズPCの機能が停止し、世界の金融機関や航空会社、テレビ局などが大規模システム障害に見舞われたのも記憶に新しい。
クラウド・オンプレミスの穴埋める
他社や海外企業が運用するクラウドサービスに機密情報を預けることに懸念を持つ国内事業者もあり、現在では社内で運用・管理するオンプレミスへの回帰現象も起こっている。
それに対し、砂川社長はオンプレミスでもサイバー攻撃や情報漏洩のリスクは防げないと指摘する。「結局、中心にサーバーがあるオンプレミスでもセキュリティーやコストの点で課題がある。Web3での分散コンピューティングの方がデータ主権を担保でき、サーバーがそもそもないのでセキュリティーレベルも高く、コスト的にも安くなる可能性がある」
キャスレーディープの初年度となる2024年3月期の売上高実績は13億5000万円。今後、海外市場を開拓することで4年後の2028年3月期には国内100億円、海外45億円の売上高目標を掲げる。
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