見出し画像

さくらブロードウェイは何処へ続くのか...

 さくらブロードウェイって何処からきて何処へ続くんだろう...

 そんな事をさっきから漠然と考えながら僕はいま北へ向かう在来線に揺られている。車窓の外で目まぐるしく過ぎて行く街のいろを感じながら、手元の携帯に目を落とし記憶の中のストーリーを紡いでいく。

 外の景色は先週よりもまた随分と秋めいたいろに変ってきた。

 季節が移ろう頃というのはどうも切ない気持ちを誘う。
四季・・・、それぞれ4つのいろが重なりそしてまた離れていく時どうしてこんなに切なくなるのだろう。

 目的地まではまだかなり遠い。


 昨夜僕は少々深酒をしてしまったのだけれど、奇跡的に朝早い時間帯に目が覚めた。アルコールのせいで睡眠が浅かったからなのか、それとも昨日からあの子の事が脳裏から離れないからなのか。
今日は天気も申し分ない程の秋晴れで、行かない理由を探す隙を与えてくれなかった。
 季節外れのさくらブロードウェイを探しに、胸の奥がずっとぐりぐりしっぱなしのこの気持ちを静める為に、あの子の辿った軌跡に少しでも触れていたくて少し気だるい身体をベッドからゆっくりと起こした。


「よし!会いに行こう」



 僕が今年結構な頻度で現場に通っている『アンスリューム』という4人組のアイドルグループがおりまして、そのアンスリュームのメンバーのうちの1人、黄色・黄緑色担当の黒木いろちゃんという子が僕のお気に入りなのです。ううん、大好きなのです。

画像8
黒木いろ

 その黒木いろちゃん(以下いろちゃん)が、この度2022年3月をもって卒業する運びとなりました。





 僕はこの卒業発表を受けて、これから先のこととか直接会って何を話そうかとか色々頭を過りました。その中でぱっとこの【卒業】というワードから連想して頭に浮かんだのが、「あそこに行かなきゃ!」でした。なんのこっちゃ!

 そう、今日僕が目指しているのはアンスリュームの楽曲のなかで唯一卒業ソング的な位置を担っている『さくらブロードウェイ』という楽曲のMVが撮影されたロケ地だ。



 季節モノということもあるのでしょうが、ライブではあまりクレジットされる曲じゃないので是非まずは1回聴いてみて欲しい。1回と言わずこすりまくって欲しい。
頼むからせめて1回は見てくれ!見て下さい!お願いします。


 卒業ソングらしい曲調やストレートな歌詞表現もさることながら、僕はMVを見ていてまずこの木造校舎の美しさと、そこにいるメンバー4人がとにかく綺麗で儚げで、それに目を奪われてしまった。
そこに何十年とじっとただじっと存在しつづける校舎(静)と一瞬の煌めきともいえるアイドル(動)というこの対比がそう感じさせているのかもしれない。


 そして、校舎に差し込む陽の光の撮り方なんかが凄く美しくて、ちょっと切なくなる。MV全体を通して光の使い方がとても効果的に使われていて、それぞれ個性の違うメンバーみんなを凄く綺麗に映し出しています。
僕自身が学生だった頃に、日が傾いて教室に西日が差し込んでいる記憶とこのMVの映像を重ね合わせたりして、やっぱりちょっと切なくなる。

「ここに行ってみたい!」

 この『さくらブロードウェイ』のMVが公式のyoutubeチャンネルで公開されてすぐに僕はここに行きたいなと思っていたのですが、どこかすれ違いながら季節だけが過ぎていました。そして今日に至るまで結局行かず仕舞いのままでした。いつでも行けてしまうというのは案外厄介な阻害要因でもあるんですよね。
しかしながら今回ばかりは僕の先延ばしグセという悪癖を一蹴し、こうして今めでたくテキストに起すことが出来ています。


 さて、前回の記事でも北海道の石狩地方にある弁華別(べんけべつ)小学校というこれまた木造の古めかしい校舎を見に行って、興奮している様子なんかを書いていますが、
僕は木造校舎とか古い建物全般に魅力を感じるし、特に校舎っていうのは子供時代の大半の時間をそこで過ごすわけです。

 たとえ自分とは全然関係のない場所にある学校だとしても、ふと思い出すんですあの頃の無邪気さを。つまり自分自身の小学校時代や中学校時代の思い出を投影し易いから惹かれやすいのかなって思います。

 僕の学生時代は卒業文集に学校での行事の思い出や、将来の夢とかそういうのをまったく書かずに、エヴァの考察をみっちり書いて提出して悦に浸ってたぐらいには天元突破してたんですけど、
それでもやはり例にもれず西日の差し込む教室とか、下校時刻の昇降口とか、放課後誰もいなくなった廊下とか、そういったものに凄くノスタルジックを感じるんですね。

 僕が大好きな漫画家、桜玉吉先生もトル玉かなんかで述懐しておりますが、船舶免許を合宿で取りに行く回で、尾道の船舶免許の合宿所の教室の机に一人座っていると、今にも当時好きだったあの子が息をはずませて教室に入って来るんじゃないかと錯覚する。と書いていて、僕も似た様な感覚を覚えるんです。


 古い校舎で卒業ソング、まあベタと言ってしまえばベタな演出なのかもしれません。ですが、ベタにはベタなりの訴求力みたいなものや広い共感が得られるとも思うのです。
ベタさの中にキラリと光るオリジナリティーだったり、工夫だったり、新進性だったり、寧ろベタだからこその美学、様式美みたいなものもそれはそれで見ている側の心をしっかりとガッチリ掴んで離さないとも思います。

画像5
アンスリューム(左から:ちぎら、月埜ヒスイ、天神・大天使・閻魔、黒木いろ)

 特にこの『さくらブロードウェイ』はベタだからこその様式美が随所に散りばめられていて、そこにアンスリュームというアバンギャルドで個性的な4人のメンバーが入ることで良い化学反応を起こし、楽曲そのものの良さのみならずこの映像美がより際立っているのではないでしょうか。


 楽曲のタイトルにもある「Broadway(ブロードウェイ)」とはマンハッタンの繁華街を南北に貫き、タイムズスクエア付近ではその周辺に劇場街が広がっているため、「ブロードウェイ」という単語は「ミュージカル」の代名詞ともなっています。

 特に日本人が想像するブロードウェイとは狭義の意味でミュージカル街やミュージカルそのものを指すことが大部分だと思いますが、そもそも「Broadway」という名前は 「broad=広い」「way=道」という英語からきたもので、街区の中心を貫くメインストリートを意味するそうです。

 そういった意味から想像を膨らませ、『さくらブロードウェイ』というタイトルの情景を脳裏に描いてみると、1つの印象的な桜並木を思い出しました。
数年前にNHKの『72時間』という番組だったかと思いますが、浜通り原発近くの帰宅困難区域に指定されている富岡町に夜の森地区という場所があるのですが、桜並木のトンネルができる真っすぐな閑静な住宅地の道路が番組内で取り上げられていて、それはそれは今でも印象に残っているぐらい綺麗な桜並木でした。
 きっと、そういう観光地化されてるわけではなく、本当に地域の人たちに長年愛され地元の人から親しみを込めて『さくらブロードウェイ』なんて呼ばれいている様な場所なのかな。桜の時期になると沿道はおそらく花びらの絨毯で敷き詰められ幻想的な景色を作り上げているのでしょう。

夜の森桜並木(福島県双葉郡富岡町)


 さくらが咲いては散り散り、その春という季節も相まってまさに出会いと別れを象徴するのが桜、そしてその儚さやある種妖艶さや神秘性は古来から日本人の心象に訴えかけ続け、愛でられ、畏怖の念を抱かれ、様々な意匠や紋様、数々の芸術作品の題材としても幅広く登場する。

 そうして生活の隅々に桜が行き渡り、長い年月毎年毎年うたかたのトキは延々と繰り返され、生と死を経巡るうちにそれは永遠のストーリーとなって今も尚日本人に愛され続けているのかもしれない。

 それだけ愛されている桜。きっと誰の記憶にも桜の心象風景というものを持っているのではないでしょうか。

 僕にとっての桜といえば、放映当時から20年以上経った今でもなんといっても『天地無用!魎皇鬼』の最終回を思い出します。最後の魎呼セリフめっちゃいいですよね、泣けます。
 この最終回の時にだけ流れた魎呼のCVをやられている折笠さんの『恋愛の時空』というメロディーも歌詞も最高の名曲があるのですが、あのシングルCDを同じクラスの岡田君に借りパクされたまま未だに戻ってきていません。いい加減CD返してほしい。


 在来線で片道2時間半以上かかる道のり、僕は観念して準備を進めることにしました。
昨日予め調べておいた目的地までのルート検索を見てみると、自宅の最寄り駅から予定の列車が出るまであとちょうど30分。間に合う!

 身支度を整え、適当に荷物をリュックに詰め玄関を出ようとしたんだけれど、ふと少しだけ寂しくなってしまい、部屋に引き返していろちゃんとの思い出がパンパンに詰まったチェキ帳をリュックに放り込み、ついでにいろちゃんのアクキーもコートのポケットに突っ込んで家を飛び出した。


 最寄りの駅から東武スカイツリーラインに乗り換えるため北千住まで移動する。北千住からはしばらく北上する。僕のイヤフォンからは丁度さくらブロードウェイのメロディーが流れていた。


 朝の通勤時間帯は外しているので、座席に腰掛けることはできたが車内はまあまあ混み合っていた。みんな何処に向かっているのだろうか…。
僕の耳にはアンスリュームのサマーソング『かがやけ!サンシャインマスカット』が流れている。
 このMVのいろちゃんも死ぬほど可愛い。衣装の部屋着風パーカー姿が最強。サンシャインマスカットのMVが公開された直後の特典会でいろちゃんとパーカー姿が如何に似合っているかについて熱く語ったことを鮮明に思い出した。


 そんな思い出に浸っているといつの間にか列車は新越谷駅に到着していた。新越谷は大きい駅で結構人が乗ってくる。車内は少しノイズが多くなってきているが、僕の耳には依然としてアンスリュームのごきげんなナンバーだけが届いている、『あんすではぴはぴ』。
 僕はいろちゃんに初めて会ったあの日にあっという間に本当にあっという間に侵略されちゃったよ。あんすではぴはぴでいろちゃんではぴはぴな毎日だよ。
 曲の振りで両手でウサギさんの耳を作ってぴょんぴょんする振付があるのですが、文字通り心がぴょんぴょんする最高にはぴはぴな楽曲。ライブでは序盤~中盤にかけてクレジットされる事が多く、ぶち上がる曲の1つ。

 周りの乗客にバレないように、曲に合わせて指先だけで微かに振りコピをしているうちにせんげん台を過ぎた。このあたりで車内が肌寒くなってきた。あれ、もしかして服装間違えたか?車内は換気の為に窓が半分程度空いており、そこから外気が凄い勢いでびゅうびゅうと入ってくるので、何もしないで外に佇んでいるよりも体感温度がかなり低い。
 そんなときは『恋せよ!ぱらぱら半ちゃーはん』でもっともっと強火にしてしまおう。対バンでもみんな大好きちゃーはんは、序盤、中盤、終盤スキがないオールマイティなぶち上げ曲!そして、
「うーん、、いろな、、カレーが食べたいねん・・・」、はい優勝!

画像1


 実は明日、卒業発表後最初のアンスリュームの現場が予定されていた。行こうと思えばスケジュールも空いているしチケットもまだ残っていたし全然駆けつけることは可能だった。
 だけどいざ会いに行ってどんな顔でどんな言葉をかければいいのかまだ定まっていなかったし、元々行く予定の無かったイベントにこういうことになったからって急遽行くという自分の行動が好きになれなそうだったから。

 なんだか、自分に酔っているみたいで好きじゃないと思った。恰好つけているといえばそれまでなんだけれど、昔からそんな性分なので仕方ない。
どちらにせよ、一日だけ我慢すれば元々行く予定でチケットを取ってある現場があり、そこでちゃんと会える。
 それまでに気持ちを整理するなり、手紙を書くなりする時間に充てればいいと思った。

 南栗橋で20分ほど接続待ち。日向に出ればまだマシなんだろうけれど、陽の当たらないホームがアホみたいに寒くて20分が途方もなく長く感じる。おまけにホームに併設してある扉付きの待合室も、感染予防の為に扉が開け放たれていて、暖を取る術がない。
 君臨君臨くりりり~ん、『アンスデーム』のサビに合わせて指をくりくりする。ダメだ寒い、おうちかえったら鍋食べたい。

画像2

 ここから更に東武日光線で宇都宮行きの列車に乗って北上する。扉脇に「あける」と「しめる」のボタン付きの車両に久し振りに乗った。今年の夏の札幌遠征以来かも。例に漏れずこの車内も窓が開けられていて、外気がガンガン入ってくる。
 僕はいろちゃん卒業発表からずっとざわざわしっぱなしだった気持ちを吹っ切りたくて、ちょうど前日に髪の毛を切りに行ったばかりでした。なので、首筋を通り抜ける風の冷たいこと冷たいこと。

 南栗橋を過ぎた辺りから野焼きの様な臭いが外気とともにひっきりなしに外から入ってきて、遠くまで来たんだなと改めて実感する。


 程なくして樅山(もみやま)という無人駅で下車した。身体が冷え切ってしまっていて、構内のトイレに駆け込む。
僕以外にこの駅で降りたのは10人にも満たなかったと思う。僕がトイレから出てきたときには、駅舎には僕だけがぽつねんと取り残されていた。まるでキツネにつままれたような気持ちだ。いろぎつねだったら大歓迎だ。

画像3

 【入場】と【出場】2つのIC読み取り機が駅の入り口に設置してあり、【出場】の方にスマホをかざしてから駅を出る。ここからは目的地の近くまでローカルバスで20分ほど移動することになる。


 僕が乗る予定のバス、口粟野車庫行きの路線は1日に6本しか走っておらず、MJ(みうらじゅん)氏が言うところのこれは地獄表だ。普段なかなかバスに乗る機会もないし、こんなスッカスカな時刻表(地獄表)にも当たらないので妙に感激してしまった(そのほかの2路線の方が強い!)。
これは反対方面の帰りのバスの時刻表を確認しておかないと詰むやつ。乗り過ごしたら、帰りは駅までの道のり1時間半を歩く羽目になる。

画像4


 予定では12時14分発のバスに乗るのだが、予定時刻より5分以上遅れていてなおもバスの来る気配がない。
こういうとき既に通過してしまったのか、ただ定刻より遅れているだけなのかの判別がつかずめちゃくちゃ不安になる。手遅れになる前に道を変えるなら今なんだろう・・・。

 結局10分近く遅れて到着。まあ、とりあえず無事目当てのバスに乗れたので一安心。こういうのもローカルの良さだよなと思いながら、整理券を取って一番後方の座席に座った。

 車内もお年寄りが3人程乗っているだけで、そのなかの1人のおばあちゃんが下車する停留所に差し掛かった時に、車内の降車ボタンを押さずに、運転手さんに「ここでおります~」って口頭で話しかけていて、運転手さんも慣れてる感じで応対していて、もうこの時点で少しタイムスリップしたような錯覚を覚えたし、東京の忙しなさから解放された気がした。

画像6

 僕も目的地最寄りの旧粟野町役場という停留所で下車。覚悟はしていたが交通系ICカードの類は使えなかった。
普段東京みたいなろくでもないコンクリートジャングルに引きこもっていると感覚がマヒしてくるのだが、ちょっと地方に出たら実際まだまだ電子マネーだけじゃ生活できないよ。


 ここからは徒歩で10分程北西へ進むことになる。この粟野町というところは町を東西に抜ける国道と足尾山地の谷筋に挟まれた様な場所に開けていて、とても静かで長閑なところでした。そして町名にもなっている粟野川という川がその谷筋側から町を縦断するように流れていて、途中で思川(おもいがわ)という川と合流している。
 その思川は県内を蛇行するようにくねくねと南下してゆき、最後は利根川と合流する。つまり、この粟野川は利根川の支流のなかの一つみたいだ。

 桜の季節にはもしかしたらこの川一面に桜の花びらが流れていて、それこそさくらブロードウェイが川面に出現するんじゃないかな。MVの撮影に向かうとき、みんなもロケ車でこの橋を渡ったんだろうな。ケータリングなに食べたのかな。

画像7

 橋の写真を撮った後、スマホを裏返して透明ケースに挟んであるいろちゃんのチェキを見る。
僕はいろちゃんの事が朝からずっと頭から離れないでいる。コートのポケットに放り込んだままのいろちゃんのアクキーをギュッと握ってみる。温かみはないけれど、ざわざわしっぱなしの心が幾分か落ち着く。ううん、違う、ざわざわがときめきのドキドキに変換されるだけだ。
思川(おもいがわ)っていう名前が余計に感情をそっち側に引き寄せてしまう。ダメだこりゃ。

 こんな調子じゃ、卒業が近づくにつれて限界オタク化しているんじゃなかろうか・・・。いや、でも少なくともこの記事がこうして無事投稿されているということは、きっと僕の中である程度心の整理がついているという証跡でもあるのかもしれない。翻って、今まさにこうやって記事を書いている行為自体が、心のたな卸しをしている作業に他ならないのだ。


 加えて、僕は古いオタクなので諸先輩方がアイドルや声優現場のイベントレポートとかを狂ったようにWeb上にテキストで書きなぐっていた時代に影響を受けてきているので、とてもじゃないけれどTwitterの文字数では到底収まらんのですわ。みんなこういうときどうやって気持ちを消化しているのだろうか。
 僕はやはりこうやって無軌道にテキストを打ち込みながら頭の中にパンパンに詰まったものを放出することで、限界オタク化したり病み堕ちしたりせずにこの年齢までオタクをやってこれているとも思っている。

 橋を渡って程なく進むと、前方に学校のグラウンドが見えてきた。後方の山が今にも校舎を飲み込みそうに迫ってきているが、野球用のバックネットがまだ張られたままで、一見して廃校とは思わない佇まいだ。

画像9

 もう視界の先にはあのMVの校舎が確認できる。

「そのまんまだ・・・」

とか当たり前のことを呟きながら半ば興奮気味に歩みを進めます。まるで校舎に行けばメンバーがそこで待っているかの様な、
僕はあたかも制服姿のいろちゃんに手を引かれるようにして、
急かされるような気持ちで足早に昇降口の方へと向かいます。

画像42

 よくよく冷静になって考えてみると変な話しなのですが、ライブに行って特典会に参加すれば実際に本人たちと間近でお話ししたり一緒にチェキを撮ったりできるのに、
わざわざこうして聖地巡礼みたいなことをして実際にその場にたどり着くと得も言われぬ興奮と達成感を得るんですよね。聖地巡礼というだけあって、効く人にとってはパワースポットなのかもしれません。

 校舎の中に入ろうと昇降口の手前まで行ったところで、右手側の建物にも既視感を覚えた。

画像10

 いろちゃん・・・・。いろちゃんがなんともいえない表情で佇んでいた校舎脇の建物じゃないですか・・・。はあ、可愛い。ちぬ。

スクリーンショット 2021-11-18 122535

 なるべく似たアングルで撮り直しているので見て見ましょう。

画像12

 もっと近くから撮りたいんですが、奥の方にあるピンクの花をつけた背の低い木にですね、大量のハチが住み着いてまして1mぐらいまで近づくと木から一斉に飛び出してくるんですよ。まじで。ホントなんだってば!
「今日からオマエも眷属だー!」とか言われていろちゃんに噛まれるなら本望ですけど、ハチは嫌だよ。

画像13

 ほらね!ハチ注意の張り紙あるでしょ!少しでも近づこうものなら木全体がブンブン音立てるんです!

画像14

 この写真を撮った位置はもう相手のキルゾーンに足を踏み入れている間合いでして、右のピンクの花の木全体から一斉にハチが襲い掛かってきまして、写真撮った後にダッシュで昇降口の方まで逃げました。
MVを見ている限りだと、卒業式の後に告白されるんじゃないかと連想されるドキムネシーンなのですが、実際校庭から丸見えだしそういうのには向かない場所ですね。ハチも襲ってくるし。
とりあえずいろちゃんの撮影ポイント1げっとです。

 校舎に入る前に先に校舎周りをぐるっと見ておきたかったので、昇降口を素通りして向かって左手側にある体育館に向かいます。体育館に差し掛かる途中、とても物騒な掲示を見つけて少し尻込みをしてしまいました。ちょっとだけ怯んだものの、踏み出した一歩は軽く弾んでいた。

画像15

 まさかこんな真昼間からクマさん降りてはこないだろうと自分に言い聞かせながら、校舎裏の半分潰れかけた宿直室だったであろう家屋や、部活棟か体育倉庫であったであろう建物を見て回ります。

画像43

 写真は屋根付きの資材置き場?(薪とかそういうの積んでたのかな・・・。)なのですが、校舎から渡り廊下で繋がっている宿直室だったであろう家屋は朽ち果て方がとても良く、更に室内の落書きもとても香ばしく、廃屋に来たな~って感じで僕はとても好きな趣でした。

 さて、校舎をぐるっと回ってふたたび正面の来賓用昇降口まで戻ってきました。いよいよMVの撮影ポイントがひしめき合っている校舎内に潜入ていきます。
 昇降口を上がりスリッパに履き替えて校内を奥へ進むと左右対称に廊下が伸びています。この木造校舎は杉材を使っており、床板や天井、窓枠などとても綺麗でいて温もりがあり、思わずため息が漏れます。特にこのタイプの張り方をしている天井は僕はあまり見た記憶がないです。
蛍光灯を取っ払って上下反転させたらだまし絵みたいになるんじゃなかろうか。

画像16

 そして床と天井と壁の板材の方向が同じなので、奥がめちゃくちゃ遠く感じるんですよね。奥の方を見ていると吸い込まれる感じがしてとても不思議でした。
今だとどうしてもボードやクロスを張っちゃったりコンクリ打ちだったりだからこうはならないですよね。とても綺麗です。

 この印象的な廊下もちゃんと撮影シーンで使われています。こちらです。

スクリーンショット 2021-11-23 004342

 これとか

スクリーンショット 2021-11-23 004532

 この青色・水色担当の月埜ヒスイちゃん(以下月ちゃん)の一連のシーンは、この1階の廊下で撮られています。僕が撮った写真のアングルもほぼ同じ場所から撮ってるハズなのですが、廊下の蛍光灯が点いているのでMVの雰囲気にはならないですね。
 蛍光灯を落として外光を入れるだけでこんなにグッと雰囲気が締まって、ただでさえ造形の綺麗な月ちゃんのお顔が更に際立っていると思います。本当に綺麗です。冒頭でも言いましたが、このMVは光の使い方が上手だと思います。
 それに、この2枚目の月ちゃんのペタンこ座り?可愛いのは勿論なんですが、ちゃんと指定っぽい上履き履いているのがめちゃくちゃポイント高いと思ってます。可愛い!

 続きまして、廊下をずんずんと進んで2階へと続く階段の手前まで来ますと、また僕のアンテナに引っ掛かる部屋を見つけました。今回一番行ってみたかった場所がこの部屋です。

画像17

 向かって右手側奥の長机の上に立ててある、小さな黒いボードには白い塗料で『理科室』と書かれているんですけれど、こんな小さい部屋が理科室?と思いまして、どちらかというと理科準備室的な部屋なんじゃないかなっていう印象です。物品棚みたいなのもありますし。


 そして、この部屋がMVで使われているシーンがこちらです。

スクリーンショット 2021-11-19 215642

 これとか、

スクリーンショット 2021-11-18 122234

 あ~~!可愛い!ちっちゃいお口一生懸命開けててかわいい!かわいい!可愛いいいいいんんn!!!あががががががg!!ちぬ。


 ふう、、、。この理科準備室のいろちゃんのシーンだけで3万文字ぐらいなら余裕で書けます。
とにもかくにも、この部屋の写真を撮ったあと何分そのままいたのか分かりませんが、しばらくぼーっと突っ立っていました。

 一旦仕切り直して、このまま2階へと続く階段を上がって行きたいのですが、まだまだ一階には撮影ポイントが控えています。

画像22

 この2階への階段の脇を抜けて行くと、先程もちょろっと話題に出ましたが宿直室だったであろう家屋へと続く渡り廊下があるのです。
渡り廊下側から撮ったアングルがあるのでどうぞ。

画像23

 そしてこの渡り廊下へと続くアルミサッシの引き戸の前で華麗に舞い踊っているのが赤色・白色担当の天神・大天使・閻魔ちゃん(以下閻魔ちゃん)です。

スクリーンショット 2021-11-23 011044

 このシーンとても短いカットなのですが、やはり光の入り方と閻魔ちゃんがくるりと舞って髪の毛とスカートが綺麗にふわっと広がっている姿がとても印象的で綺麗で好きなシーンです。さらに、やはりというか紺色の指定ソックスと指定上履き・・・、ポイント高い!
 後でまた書きますが、MV全編を通して閻魔ちゃんを撮っているシーンの光の使い方が僕は一番好きですね。印象的なシーンが多いです。

 さて、階段を上がって2階へと進みます。

 2階も基本的には1階と同じ作りとなっているのですが、雰囲気がまたガラッと変わります。

画像25

 教室の窓からちょうど日差しが差し込むので、それがそのまま廊下を明るく照らしています。1階の廊下と違うのは2階の廊下には蛍光灯が点いていないということです。つまり、それで事足りるだけ明かりが取れているということだと思います。

スクリーンショット 2021-11-25 145800

 今にも月ちゃんがひょこっと教室から飛び出してきそうです。

スクリーンショット 2021-11-25 145653

 2階に上がると今この瞬間世界に僕だけがここに取り残されているような感覚になってちょっと焦るのと、廊下と教室に差し込む光に照らされた空間の美しさにちょっとくらくらしてしまいます。

 教室の中もとても素晴らしかったです。

画像27

 何といってもこの窓の大きさは特筆すべきものだと思います。その中でも特徴的なのが、ひざ下辺りにある窓だと思います。この一番下の窓部分にだけカーテンが届いていないことからも、明かりを最大限取り入れる為に設けられている窓なのかなと思います。
 教室の大きな黒板を見ると、低学年の頃担任の先生がすいすいと黒板消しを使っている姿に憧れて僕も背伸びして真似してみる、だけど少し届かない。そんな一コマを思い出す。

 あと、よく見ると窓全体の上半分は透明なのに対して下半分は擦りガラスになっているのもおしゃれです。

 教室内では様々なシーンが撮られているのですが、やはり閻魔ちゃんのカットが特に印象的です。

スクリーンショット 2021-11-18 122115

 これとか

スクリーンショット 2021-11-23 221236

 これも2階の教室と思いきや恐らく1階の教室なんですけど、この2枚目とか、日差しの入り方が芸術的だと思うんですよね。閻魔ちゃんってこんな表情するんだって、ちょっとドキッとするような、それでいて美しく、まるでフェルメールの絵画みたいな印象を僕は受けました。芸術性が高いんですよなんか。

スクリーンショット 2021-11-23 221612

 この黒板に顔をつけて目線をこちらに向ける表情もヤバいですよね、さすが顔面が大天使閻魔ちゃん。そしてやはりこういう表情の閻魔ちゃんにはドキッとさせられます。しかも最後にウインクしてくれるんすよ。嬉死確定ですよ。

 続きましてそのまま廊下を進んで反対側にある階段まで行きます。そうすると、また見覚えのある場所が出てきます。

スクリーンショット 2021-11-23 222310

 紫色・ピンク色担当のちぎらちゃん(以下ちぎちゃん)のシーンはほぼほぼこの階段周りで撮影されていると思います。このシーンすごくちぎちゃんらしく可愛い構図で撮られているし、なんといっても場面全体が他の3人とはまた違った柔らかい光の使い方をしていて、とてもちぎちゃんぽい優しい雰囲気のシーンが出来上がっていると思いました。
 カメラの動かし方も右から左にゆっくりと動いていくのですが、ずっとちぎちゃんと目線が合っているように撮っていて、思わず見入ってしまいます。

画像32

 この階段周りと踊り場付近がちぎちゃんのちぎちぎスポットです。

スクリーンショット 2021-11-23 223121

 このショットは階段をほぼ降りきって1階の廊下の手前になります。

画像34

 ちなみにこの『さくらブロードウェイ』の歌詞はちぎちゃんが手掛けています。ちぎちゃんはこの『さくらブロードウェイ』のみならず、アンスリュームの楽曲のおおよそ3分の1の歌詞を担当しています。この可愛いルックスで作詞が出来てダンスもキレッキレで天は二物を与えすぎの凄いタレント性です。

スクリーンショット 2021-11-23 223345

 これはほぼ写真と似た様な位置からのアングルです。ちぎちゃん、制服が似合い過ぎていて黙ってれば現役JKで通せるんじゃないだろうか。
それにしてもちぎちゃんの雰囲気というのは周りを朗らかにする気がします。画面からもそれが伝わってくるのではないでしょうか。そして実際に特典会で話してみるとより分かると思います。

 あと、僕は学生時代の友達にちぎら姓の人がいるので、当初から勝手に親近感があります。

 ちぎちゃんの撮影スポットを過ぎるとぱっと目の前に見えてくるのが学生用の下駄箱が併設されている昇降口があります。

画像39

 ここでは、いろちゃんの印象的なカットが撮影されています。MVのなかでは非常に短いカットだし表情があまり窺えないのですが、とても良いシーンなので僕は大好きです。

スクリーンショット 2021-11-19 220145

 もう既に好きだから当たり前っちゃ当たり前なんですけど、学生時代同級生にこんな子いたら夢中になってたんだろうな。いや、2つぐらい学年下の方がいいな。


 こうして校舎内を一通り見て回って、やっと気持ちが落ち着いてきました。ここに来る前はMVの場所が実際に何処かに存在しているというのは頭では分かっていても、こうやって自分の足で実際に立って目で見てみてようやく実感が沸くんですよね。

「みんな数か月前に本当にここに居たんだな」って。

 一つ言えるのはたとえ普段特典会でしょっちゅう顔を合わせていたとしても、こういう立ち入れない仕事の場所に行くっていうのが楽しいんだろうなとは思う。
それに、今はもう廃れてしまった表現『追っかけ』という言葉がとてもしっくりくるような気もする。

 僕はこんなに必死になって何を追っていて、何を捕まえたいのだろうか。
そして、僕は依然としてさくらブロードウェイの行く先を見つけられていない。

 少しだけ外の空気が吸いたくなって、中央の昇降口から校庭に出る。ここに来た時よりほんの少しだけ太陽が傾いている。右の方に視線を移すと、MVの中で4人が円を作って振りを撮っている辺りに目が留まった。

 急にまたいろちゃんの顔を思い出して、寂しくなってしまった。その寂しさを振り払うようにまた昇降口から中に入り、最後にもう一度だけ理科準備室を見に行くことにした。

画像41


 しばらくそこに立ってただぼーっと室内を眺めては制服姿のいろちゃんを脳内で再生する。なんでこんなにドキドキするのだろう。
いま僕の目の前の部屋には確実に僕以外だれもいないのだけれど、
どうしてこんなにぐりぐりするのだろう。



 駆け足で校舎の中をぐるっと見てきました。細かい部分を1つ1つ挙げていけばまだまだ見どころや発見は随所にあるのですが、そこは実際に皆さんが足を運んで発見してみるのが良いと思います。前回の記事のように僕がここでいちいちMVの全カットの比較を載せるのも野暮かなと思いました。

画像36

 帰りのバスの時間が迫っていたのですが、最後に校舎脇の桜の木を見にいきました。きっと春にはMVに写っているような綺麗な桜の花が満開になるのでしょう。
 そしてその花びらは春風に乗り、あの校舎の窓から春の足音を告げるのでしょう。そんな風景がきっと毎年繰り返され、それは永遠に繰り返される様でいて、同じ時は決して繰り返されないまるでうたかたの夢...。

 名残惜しいけどもう帰らなきゃ。

 後ろ髪を引かれるように僕はグラウンドを抜け、
 最後にもう一度だけ校舎を振り返って、
 すこしだけ見慣れた景色にサヨナラを告げていた。

 満開の桜を見てみたいな。

 開花の頃になると桜の木の下に自然と人々が集うように、僕らはアイドルに何かを求めて現場に通っています。人それぞれ理由は違えど、アイドルに会いに行きます。
生で楽曲を聴きたい、パフォーマンスを間近で見てみたい。日頃のストレスを発散する為であったり、好きなアイドルと会話をしたい、チェキが撮りたい、現場が終わった後に仲間とお酒を飲むのが楽しみ。だったり様々だと思います。


 大まかにくくると『体験』をしに行っているのですが、そこに通底している価値というのは『儚さ』や『時間の残酷さ』だと僕は思うのです。言い換えれば『希少性』とも『不可逆性』とも表現できるかもしれません。

 
そういったことも踏まえ、やはり僕はアイドルが放つ一瞬の煌めきみたいものを桜にも感じるのです。
桜の花は確かに綺麗だし、何気なく道を歩いている時に満開の桜の木を見つけたら思わず立ち止まって見上げてしまった。そんな経験あるのではないでしょうか。


 ですが、仮にこの桜の木が通年花を付けていたらどうでしょうか。きっと最初の数年間は物珍しく冬の桜でお花見しよう!みたいな流行があるかもしれませんが、そのうち日常に溶け込んでしまい春にだけ咲く桜ほどの価値は無くなってしまうのではないでしょうか。
 1ヵ月も経たずに儚く散っていってしまうからこそ、これだけ人を魅了し続けられている。そして散り際の美しさというものも僕たちの心情に訴えかけるものがあるのだと思います。 

 同じくアイドル(偶像)として誕生した瞬間にいつか必ず終わりの時が訪れます。終わりが決定づけられているからこそ、尊い存在なのかもしれません。ただ、普段はその終わり(卒業)を見ないようにしているだけで、真昼間でも満天の星がそこに在るのと同じように常に眼前に広がっている。


 そしてそんな存在だからこそやはり最後の散り際(卒業の所作)が重要なのです。
僕は今回の黒木いろちゃんの卒業発表はとてもありがたいと思いました。
なぜならば、僕たちオタクの事を考えてくれて卒業までの猶予をたっぷりと取ってくれたからです。

 黒木いろという一片の桜の花びらがアンスリュームという枝から離れて行く最後の最後の瞬間までしっかり見届ける事ができるように考えてくれたからです。そのいろちゃんの心遣いが本当に嬉しかったです。

 
 アイドル黒木いろの最後の一番綺麗な瞬間を僕たちオタクは見ることが出来るんです。アイドルを推していてこんなに幸せなことってないんじゃないでしょうか。

 散り際の美学、それは花のみならずアイドルにもあると僕は信じています。
卒業発表から数日経ち、僕はいろちゃんを推していて良かったなって、いろちゃんのオタクで良かったなって心から思っています。

 
 僕は口下手な方なので、特典会ではいつもいろちゃんにしょーもない事ばっかり話して、肝心な事をちゃんと面と向かって話せたことがほとんどありません。

 なので、せめてこうやってテキストに想いや願いを込め、流し雛の様に広大なWEBに放流しているのかもしれません。

さくら散り散り さよならの足音が
近付いてくるふわり 忘れないよ

さくら散り散り 僕らの願いは永遠の
メロディー ストーリー 
今、君に届け



 今回の表題の【さくらブロードウェイは何処へ続くのか】 ですが、
言わずもがなそれはきっと自分自身の心へと続いてるんですね。

 誰もが今まで生きてきて大小様々な出会いと別れを経験してきたと思います。運命的な出会い、悲しい別れ、その記憶の1つ1つが桜の花びらとなって自分の心に積もり時間の経過とともにそれは道となります。


 これまでどのような出会いと別れを経て、どのような生き方をしてきたかは後ろを振り返ってみればわかるのではないでしょうか。
いま立っている場所を確認するためにも、そこにどういうさくらブロードウェイが広がっているのかを一旦立ち止まり振り返って確認するというのも、人生において時には大切だと思います。

 そしてキミはこれから先の未来にどういう道を作り、後ろにどんないろの花びらを敷き詰めていくのだろうか・・・。

来年、桜が咲くころに僕はまたこの校舎を訪れようと思います。



 最後まで読んでいただきありがとうございました。


たこまりね🐙


アンスリュームのロケ地ネタはまだ幾つかストックがあるので、気が向いたら改めてまたnote上でまとめようと思います。

 『さくらブロードウェイ』のロケ地となった校舎の情報を貼っておきます。

#アンスリューム #アンス #さくらブロードウェイ #黒木いろ #聖地巡礼 #アイドル #地下アイドル #卒業 #廃校 #木造校舎 #桜

万が一サポートして頂けるような神がいらっしゃいましたら、取材費としてありがたく使わせていただきます。