見出し画像

Liveの2部に間に合った?

https://editor.note.com/notes/nf9c3589a11a2/edit/https://editor.note.com/notes/nf9c3589a11a2/edit/https://editor.note.com/notes/nf9c3589a11a2/edit/

飛行機に乗り遅れて

私は予定の飛行機に乗り遅れ、空港カウンターで腰砕け状態になり泣き崩れた。何故なら目指す推しの彼のLiveは予定通りの飛行機に乗っても、会場に辿り着くのがLiveスタートから30分後だったから。最初の間違いは、せっかく早めに職場を出たにもかかわらず、汗だくの制服とお弁当箱を自宅まで持ち帰った事だったのか、たった一泊だから空港の駐車場に停めれば良かった車を、それはルール違反かと、お金を払って停める駐車場の入口に車を停めると、いつもと違って誰も出て来ない。じっと見ると張紙に「水曜定休」とあり、「え?」と焦って別の駐車場を探して入ったが、建物は閑散としていて、やっと会えた駐車場のお兄さんが「あ〜、はい〜、どこでもいいので〜空いてる所に停めて下さ〜い、お願いしま〜す」「自分で、停めるんですか?」「はい〜、そうです~お願いしま〜す。その後で、こちらでサイン、お願いしま〜す」と言う、まったりとしたやり取りをしていたのがトドメを刺したのか、手続き中お兄さんに「あの、この時間の飛行機に乗るつもりなんです」とは言ったが、お兄さんがノーリアクションだったので、そこで「間に合うのか、」と思った私もいけなかったかも知れないが、とにもかくにも空港で「お客様、7分前にゲートが閉まりましたので、申し訳御座いませんが、この飛行機にはお乗りになれません」と言われた私が「駄目です、駄目なんです~どうしても、この飛行機じゃないと、駄目なんです~」と、カウンターで泣いた話をすると、友達は「それ、見たかったな~」と笑いながら言ったが。急激に痛み出した脇腹を押さえ、一旦抜けた腰にやっとチカラを入れられるようになった私はヨロヨロと立ち上がり、二十年来のファンである推しの彼のLINEに「ごめんなさい。飛行機に乗り遅れたので、顔だけ見に行く事になりそうです」と送り、私は仕方なく1時間遅れの飛行機にチケットを切り替えた。目も眩むような美しい夕日に照らされ、空を往く飛行機の中でLiveスタートの7時を過ぎ「あぁ1曲目始まったか、2曲目はまだかな…」と思っていた。ところが、その飛行機は通常1時間5分の所、何故か45分ほどで到着予定の空港に着いてしまった。「嘘、奇跡が起きた?」と、勿論私はスーツケースを引き摺り、バス乗り場を目指して親子連れやカップルを追い越し、空港内をダッシュで駆け抜け、走りに走って外へ出た。電車が無く、到着したほとんどの人が乗る、そのバス乗り場には男の人が二人で立ち話をしていたが、バスに乗ろうとする私に片方の人が「チケットを買って下さい」と言う、見ると直ぐ傍にカウンターが。「ここか」と急いでチケットを買っていたが、バスから「申し訳ありません、定刻になりましたので発車いたします」と言うアナウンス。「え、いや、待って下さい、今、買ってます!」と大きな声で言ったたったその数秒間に、無情にも「定刻になりましたので、申し訳ありません」と言い残し逃げるようにバスは去り、勿論私は「エーーーー!!!」と右手をパーにして叫んだ。残ったもう片方の人は、ちょっと嬉しそうな顔をしながら「次のバスは15分後です、チケットは払い戻し出来ますよ、お客様、もし余裕がありましたら、あちらにタクシー乗り場も御座いますが…」と宣った。「余裕」と言える程の大金は持っていなかったが、次のバスを待つその間の15分を「えっ、15分、15分?」と私は惜しんだ。勿論、再びスーツケースを引き摺り、50メートルほどダッシュし、タクシー乗り場で立ち話する運転手さんに聞くと「市内迄の料金?一万三千円ぐらいかねぇ、バスは1時間以上かかるけど、車でも40分はかかるよ」と言われ、にゃに~と一瞬視界が歪んだが、もう口は勝手に「乗ります」と言っていた。またスーツケースをガラガラ引き摺り50mダッシュし戻って、たった今買ったばかりのバスチケットを払い戻し、さすれば当然50mを取って返して、そりゃもうアンタあたしゃ膝ガクガク状態のままタクシーに乗り込んだわさ。確かその時、時刻は7時半をほんの少し過ぎていたはずだと思う。走り出したタクシーの運転手さんに、私はそのLiveの為だけに来たけれど、そのステージはもう既に始まっており、バスにも乗り遅れてしまったのだと話すと、運転手さんは、あと少し待てばちゃんとバスが来るのに、街までの距離をタクシーに乗る客が珍しいのか「ふーんまあ大丈夫、大丈夫、私はね、30年近く運転しているけど、スピード違反で捕まった事はないんですよ…」などと自慢気に言い、車線変更を繰り返しながら、あれよあれよと言う間もなくタクシーはぐんぐんスピードを上げて行く。「あ…あの、いや、運転手さんごめんなさい、私の田舎は島で、だから私、こんな早い車に乗った事なくて、そこまでしなくても、いや、すみません本当に、嬉しいんですけれど、安全運転で大丈夫ですから、本当に、安全運転で…」と何度も言ったが、運転手さんは「大丈夫、大丈夫、今まで一度も捕まった事ないから」と繰り返し、大型トラックや、バスを追い越し、え、バス?と、私は後方に遠ざかるバスを振り返り、私を乗せたタクシーはメーター120キロで高速をぶっ飛ばして走り続けた。運転手さんが「捕まった事はない」と言う度、私にはどうしても『捕まった事はないけど、危なかった事はある』と言っているようにしか聞こえず、「イヤっ、お願いっ、私Live見に来ただけよ、Liveも見れずにこのオッチャンと此処で死にたくないッ…」と、激しい恐怖と振動に揺さぶられながら私はシートベルトを強く締め、前の座席の首にしがみつきながらスマートフォンでLive会場のお店をナビゲートしていた。お店の辺りは一方通行が多いとの事で、近くの大通りのどちらから入った方が良いのか、その場合、運転手さんがそれと判る目印はその道のどちら側に在るのか、目印の場所をやりとりしている間に、車はようやく料金所を抜け無事に高速を下りた。ヤットカット怖くないスピードになったタクシーは、五叉路ぐらいの交差点を通過し、平和そのもののスピードで滑るように街中を走って行った。やがてタクシーは大通りから、歩行者が自由に歩いているような人通りの多い、狭い道に入って進んだ。気がつくと、私が予約した小さなビジネスホテルが目の前の向こうに見え「あっ」と驚いて「すみません、お店すぐ近くなんですが、通り過ぎたみたいです」と言うと、運転手さんは「じゃあ、Uターンしますね〜」と言う。「いやいや、直ぐそこなので此処で降ろして下さい、此処で降ります!」と、ほんの少しだけ多めにお金を払い、運転手さんに御礼を言って、タクシーで今来た道を逆に私は走り始めた。勿論スーツケースを引き摺り、繁華街を楽し気に歩く人をかきわけながら、「確か二階…」と前方左手にLive会場の黄色い看板を認めると、ガラガラガラとその角を曲がって、ビルの横の御稲荷さんの階段の下のベンチに、推しの彼が座って煙草を吸っているのを発見した。思わず私が「えっ、なんで、居るんですか、なんでいるの〜」と言うと、彼は驚き、少し微笑みながら「休憩だよ!」と言った。が、一瞬意味がわからず、「えっ、私2部に間に合ったの?間に合ったんですか?」と聞くと笑みを浮かべたまま「…そうだよ!」と彼は応えた。ナビをしていて、近視の私はまったく時間に気づかなかったが、空港からものの30分程で、なんと8時過ぎに私はLive会場に辿り着いていたのだった。「…飛行機に、乗り遅れたんじゃなかったの?」と彼に言われ「そうです、そうなんですけど、何か、本当に嘘みたい…」と言い、休憩中の彼に「すみません、先に上がりますね…」とエレベーターで上がって店に入ると、Live会場の狭い店内は思いのほか満席で、お店のご主人は「駄目、駄目、もう三人ぐらい断ったんだから…」と両手でバツを作り、最初は怖い顔でそう言ったが、「ごめんなさい、じゃあドアの外でも良いです…」と私が出て行こうとすると、彼の相方のボーカルのエリさんが「え、ダメなの?」と言ってくれ、別に居た主催の女性が「あの、ちょっと待って下さい、ここで良かったら…」と私を追いかけて折畳み椅子を持って来てくれたので、私は晴れて、ガラスのドアの内側で無事にLiveの2部を堪能するという幸栄に与った。その場所は、推しの彼のピアノの真横で彼から2メートルと離れず、ピアノの向こうにエリさんが居て、満席のお客様からは死角になって私が見えないと言う、金輪際有り得ない絶好のポジションだったので、ノリの良い曲では踊り、バラードでくつろぎ、私は自由そのものだった。その後、打ち上げにも誘っていただき、CDもちゃっかり3枚ゲットして、お店のご主人は「飲み放題だからもっと飲んで良いんだよ」と優しくなり、オードブルの様な料理が多かった打ち上げ後「何かもうちょっと食べたいなぁ、行かない?」と言われ「いや、もう」とエリさん達は帰ってしまわれ、結果私は推しの彼とたった二人きりでキャー「みその屋」のラーメンを食べる、という夢か幻か嘘のようなオマケまでついていたのだった。勿論、あまりに舞い上がり過ぎ、ラーメンの味や何を話したのかまるで、ちっとも、サッパリ、覚えてはいないが、別れ際の握手は勿論シカと永久保存致しましたの。Liveの途中で立ったまま、わーい、わーいと踊っている最中「アレ?、そういえば、アタシ確かに、夕方、あの空港カウンターでお腹押さえて泣いてたよなァ…」と思ったが、人間万事塞翁が馬ってこゆこと?、まあ、何があったかはどうでも良い、結末さえ良ければって話だと思うわ、もちろん。



黄金の夕日
















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?