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就労継続支援D型 第二十二話 青い竜のエンブレム
ヒロは、誰にも言わずにとある対戦ゲームの全国大会に出場していた。
そして順調に勝ち進み、決勝の4人の中に残るまでになっていた。
その決勝戦には、彼の永遠のライバルであるレイも勝ち残っていた。
青い竜のエンブレムを掲げるそのプレイヤーのレイは、ヒロにとって特別な存在だった。
しかし、決勝戦前日——。
ヒロは突然、「決勝には出ない」と言い出した。
勝ち負けに興味はないという。
その時、翔はヒロがウソをついているのがわかったが黙っていた。
翌日、決勝戦は異例の展開を迎えた。
4人の決勝進出者のうち、ヒロを含む2人が欠場。
そして、優勝者はまったく無名のプレイヤーだった。
大会後、佳奈が翔を呼び出した。
「翔くん……決勝を欠場したもう一人のプレイヤー、誰だと思う?」
「……まさか。」
「青い竜のエンブレムの選手、ヒロのライバル......」
翔は息をのんだ。
「実は、彼は親からの虐待を受けていて……決勝の前日に入院したらしいの。」
翔の胸に、鋭い痛みが走る。
——ヒロは、それを知っていたのか?
翔はすぐにヒロを探しに行ったが、その日はE型を休んでいた。
思い出したように、以前ヒロからもらったQRコードをスキャンし、ヴァーチャルの世界へとダイブする。
夕日が沈みかけた海の見える、小高い丘。
そこに、一人のいかつい戦士が旗を持って立っていた。
その後ろ姿は、まさしくヒロだった。
翔は静かに歩み寄り、口を開いた。
「仕事休んでゲームなんて、いけないなあ。」
ヒロは黙っている。
「なんで嘘をついた? 本当のことを言ってくれたらいいのに。」
ヒロは何も言わない。
「決勝で名前を売っておけば、スポンサーだってついたかもしれないよ?」
少ししてから、ヒロはぽつりと呟いた。
「ウソなんてついてないさ。勝ち負けなんて、くだらない。」
翔はぐっと歯を食いしばり、声を強めた。
「ウソだよ。」
静かに歩み寄り、ヒロが持つ旗を指差す。
「だって、その旗のエンブレムは青い竜じゃないか。」
ヒロは、背を向けたまま夕日を見つめていた。風に旗が揺らぎ、青い竜が猛々しく翻る。
翔はじっとヒロの背中を見つめていた。
その頃、氷室のもとに一本の電話がかかっていた。
「そちらにヒロさんって在籍していると思うのですが、ぜひスポンサー契約についてお話させていただきたいです。」
氷室は「本人に確認して折り返し連絡します。」と言い電話を切った。