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青春のエピローグ『第1回かりんカップ』開催

僕らはあの場所で、飲み干したグラスの数だけ夢を語り、揉み消したタバコの数だけ夢を諦めた。握りしめたマイクに向かって叫んでいたのは、流行りの曲なんかじゃなく、大人になることへの行き場のない不安だった。
スナック「かりん」で顔をしかめるほどの濃いウーロン割りを飲みながら、僕らは少しだけ、でも確実にオトナになった。
いつでも帰ることができると思っていた僕らの我が家が突然なくなってしまったのは、もう四半世紀前。僕らはその後、それぞれの人生を歩み、文字通りの「中年」になった。
もう行くことができないと思っていた「かりん」に、まさか、こんな形で帰って来ることができるとは。

きっかけはいつもマナミ


「ねえ、うちのママがね、スナックやってるんだ。今度そこで打ち上げしようよ」
クラスメイトのマナミから軽いノリで声を掛けられたのは確か高校2年生の時だったと思う。富士宮郵便局を下って、信号を右に曲がったすぐそばに、スナック「かりん」はあった。
すでに時効だから白状するが、高校卒業式の後も、成人式の2次会も、僕らは「かりん」で泥酔した。タカヤはずっと流しの吐瀉物を掃除し続けていたし、モリは失くした自らの財布を、隣の畑から奇跡的に掘り出した。オータはいつでもいじけていたし、ミホは8:2の殺人ウーロン割りを笑顔で作り続けた(もちろん焼酎が8だ)。
マナミの交友関係の広さで、多くの同級生が集まり、かりんで初めて話し仲良くなった連中も多い。
卒業後は、進学で富士宮を離れた同級生が多かった。僕もその1人だ。盆休みや年末に帰省すると、かりんは僕らが集まる場所となった。僕らはかりんで思い切り笑い、時に悩みを話しながら泣き、ひたすら焼酎の瓶を空にした。
マナミ抜きでも飲みに行くようになった僕らを、ママはいつでも優しく迎え入れてくれた。入ってすぐのボックス席が定番だったけど、カウンターに腰掛け、ママに人生相談することもあった。忘れることのできない大切な青春の思い出として、今でも「かりん」の店名は僕らの胸に刻まれている。

第一回かりんかりんカップ開催!


あれから約25年。
2024年10月21日(月)、第一回かりんカップが開催された。
マナミが企画した、ゴルフコンペだ。場所は、西富士ゴルフ倶楽部。
朝はかなり冷え込んだが、天気は快晴。絶好のゴルフ日和。
プレー前、前から歩いてきた女性を見て、一瞬不思議な感覚に襲われた。25年前にタイムスリップしてしまったかの様な錯覚。
ママだ。
きっと、マヌケ以外の何者でもない顔をしていたと思われる僕に、「タクロー?久しぶり!顔見てすぐにわかったよ」と笑顔で手を振って来た。本当に何も変わっていないママを見て、僕は気も効かず「お久しぶりです」としか返すことができなかった。

スタート前
今回のメンバーは、かりんでよく飲んだ同級生に、マナミの妹アキミとママを加えた8名で開催

今回のコンペ、ルールはシンプルに男性VS女性。相当のゴルフの腕前で知られるマナミ&アキミ姉妹が、男性と同じホワイトティから打つ、というハンディのみ(男性陣が情けないのか姉妹が凄すぎるのか)。その後、1番ホールのティーショットを見て、マナミとアキミのスイングの美しさや、弾道や飛距離を目の当たりにして、「ホワイトティから打ったって何のハンディにもならねーよ」と男性陣から声が挙がった。
その他のルールとしては、各ホールに設定された隠しハンディによる優勝者の選出、ニアピン、ドラコン賞の設定など。

誰もが確実に歳を取り、やれぎっくり腰だ首のヘルニアだ二日酔いだと、体調コンディションも整えられなくなってきたが、みんな驚くほどゴルフが上手かった。僕は15年振りのゴルフだということもあり、スコアは散々だったけど、仲の良い同級生と晴天のもと1日中外で遊び回り、楽しくない訳がなかった。朝は上着が必要だったが、ふたホール目には薄手のシャツ一枚で快適なほど、気温も上がった。
楽しい時間は、一瞬で過ぎ去ってしまう。まるで「かりん」で飲み明かした夜の様に。

マナミとアキミはこの企画だけでなく幹事まで担当してくれた

かりんカップ表彰式


今回のコンペを、企画、準備、段取り、幹事の役割全てを妹のアキミと共に担当してくれたマナミは「大切な人たちと、また一緒に楽しみたい思いで企画しました。かりんはなくなっちゃったけど、青春時代を共に過ごした仲間との絆の再確認の場を作れたらいいなって」と話してくれた。

ニアピン関連賞を3つもゲットしたアスカ
終始安定したゴルフで、今回のベストグロスだったヤスはドラコンもゲット
優勝者のマサトとブービーメーカーのトキ

今回、残念ながら最下位となったトキは「今回、人生初めてのコンペに臨むに当たって、今までで1番練習したかも。女性もいたし、本音は褒められたかったけど、結果は散々で残念だった。でも、次は上手くなったねー、飛ぶ様になったねー、とシンプルに褒められたい!ゴルフ始めて4年。もっと上達したい」と本音を話してくれた。
そして、第一回かりんカップ、見事優勝に輝いたのはマサト!「記念すべき第一回かりんカップ優勝できてうれしいです。30年前に偶然出会った同級生と、今だにくだらない話をしながらゴルフできるなんて最高の時間でした」と今回のイベントを振り返り、締め括った。実はこのコメント、最初マサトは30年前を20年前、と誤って発言した。そう。10年を簡単に吹き飛ばしてしまう程、あれから僕らは人生を長く重ねてきたのだ。

「かりん」は続くよどこまでも


スナック「かりん」は、もうない。
でも、そこで集った仲間たちは、これからもこうして会うことができる。これから、年に一回の恒例行事として、かりんカップを開催しよう、と決まった。
僕はその時、あの頃お世話になったママに対して、少しだけでもこのかりんカップを通じて恩返しができるかも知れない、そんなふうに考えていた。毎年続けることで、僕らの新しい居場所を作る。笑顔と、思い出と、まだまだこれからの人生を語り合う場。ママに感想を聞いてみると「久しぶりにみんなに会えて嬉しかったし、みんなあの頃と変わってなくてすごく楽しかったよー」と、ママ自体もあの頃と何も変わらぬ大きな笑い声で話してくれた。

次回の幹事は、マサトとトキに決まった。
次はどんな「再会」になるだろうか。
僕は今回、ブービー(ビリ2)だった。トキと一緒にコソ練しよ。

かりんカップが、長く続くことを祈って筆を置きます

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