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神奈川県松田町『もみほぐしの施術店Flat.』でフジロックの疲れを癒す

その日、通りには誰もいなかった

JR御殿場線松田駅から伸びるその商店街は、月曜の夕方、閑散としていた。「危険な暑さ」と表現される今年の夏。僕は疲れ切った体で、ある店に向かっていた。湿度が高く、自転車で進んでも、全身に高温多湿な日本の夏がまとわりつく、そんな不快な夕方だ。
商店街のちょうど中央辺り、小さなビルの2階で、その店は営業している。

「いらっしゃいませ。こんにちは」
店内は照明が程よく落とされ、涼しい。暑そうにしている僕に対し、すぐに扇子と一杯の冷たい水の入ったコップを差し出してくれる。嬉しい気遣い。不快指数が急激に減少していく。品のある落ち着いた優しい声で迎えてくれるのは、この店を営む大沼みどりさん。以前は近くのショッピングモールに併設された、もみほぐしのチェーン店に勤務していたそうだ。そこで10年以上働き、意を決して独立開業した。ここ、もみほぐしの施術店Flat.は、2024年8月で開店1年半を迎えた。
「開店が決まってから今まで、おかげさまで本当に楽しくて。毎日このお店に来るのがとても幸せです」と話す大沼さん。ポジティブな考えに触れるだけで、こちらまで元気になる。

僕が初めてこの店を訪れたのは、今年の春先のことだったと思う。持病の腰のヘルニアと坐骨神経痛があり、僕は長年、指圧、鍼灸、接骨院の類にお世話になり続けている。最近ではその回数も減ったが、以前は年に数回はぎっくり腰を発症し、その度に数日歩けなくなることも珍しくなかった。治療、または発症手前の予防。僕はこれら指圧や鍼灸に掛かる時間を、そう呼んでいた。
Flat.に来るまでは。

もみほぐしとよもぎ蒸し?

ルーティン化している週末早朝の、ランニングの最中にたまたま見つけたのが、この店だった。
あれ、こんなところにこんな店あったっけ?
日常と化しているせいで、この種の店舗はすぐにアンテナに引っ掛かる。中でも僕の興味を引いたのは「よもぎ蒸し」の文字だ。聞いたことはある。特に女性に有効とされる美容法の一種ではなかったか。他施術料金も、平均的か。
もう僕のライフワークと化している、治療と発症手前の予防のおかげで、こういった店を発見すると、反射的に行ってみたくなってしまう。この日も、ランニングを終え帰宅するとすぐに、ネットで検索した。ちょうど腰に張りを感じてきた頃だったので、すぐに予約しようと思ったのだ。しかし、予約ページを閲覧し、僕はえっ、と驚きの声を挙げてしまった。
この週末だけでなく、むこう一週間ほど、全て予約で埋まっていたのだ。
いやいや、さすがにそんなことあるはずないだろう、きっと予約システムが正常に作動していないのではないか、そう思って電話してみたが、応対した女性は申し訳なさそうに、空きがないことを告げた。
仕方ない、縁がなかったのだ。それにしても、この予約の入り方は、ただ事じゃない。きっと何か人気の秘密があるのではないか。僕は近いうちに、必ず訪れようと決心した。

Flat.初訪問

その願望は、翌日の日曜、ひょんなことから叶うことになる。キャンセルが一件出たことを、わざわざ電話で知らせてくれたのだ。すぐに予約し、店を訪れた。

僕はそこで、ただのもみほぐしではなく、心まで軽くなる様な気分爽快な体験をした。清潔で心地よい店内で、自然光の中、まどろみにも似た感覚の中、とても気持ちのいい時間を過ごすことができた。季節は春だったこともあり、店内の窓は大きく開けられ、鳥のさえずりが聞こえていた。
大沼さんのもみほぐしは、何といっても丁寧。これに尽きる。末端から中枢にかけ、適度にかけられた圧に、僕の体が反応を示す。その反応を見て、次の進むべき一手を決めている様に感じる。
まずここ、次にここを押して、その次はここ。といったマニュアル感がない(実際にはあるのかも知れないが、これが僕の素直な第一印象だ)。大沼さんは、まるで僕の身体と会話をしている様だ。そして、僕の疲労の溜まった身体も、よくぞこのポイントを見つけてくれた、ありがとうと歓びの声をあげている、そんな感覚に陥った。

それから、僕は月に一回のペースでFlat.に通うことになる。

公式HPより

僕が、365日で最も疲れている日

僕には身体の疲労が最高潮を迎える日がある。毎年たいてい、それは7月の終わりにやって来る。
フジロックから帰って来た日だ。
僕は毎年、フジロックフェスティバルに参加している。木曜日に新潟県の苗場入りし、その夜の前夜祭から日曜深夜まで、遊び尽くす。広大な会場を歩き回り(1日平均20km以上歩く)、各ステージで踊り続け、摂取する水分には、もれなくアルコールが含まれている(当然自ら進んで求めている)。食べ物はジャンクフードが多く、極度のビタミン不足に陥る。猛暑や雨風など、自然の気まぐれにも耐え、夜は蒸し暑いテントで泥の様に眠る。それを4泊繰り返すのだ。確実に50代の足音が近づいて来た今、帰宅すれば、気絶寸前の疲労感に包まれる。
そのため僕は毎年、フジロックから帰宅した時には、必ず指圧やマッサージなどの店に駆け込んでいる。当然その際、最も信頼のおける店に行くことにしている。
そして、今年からその店は、Flat.になった。要するに、今現在、僕にとっての最適解となる施術店であると言える。

公式HPより

Flat.の魅力とは

施術自体が僕の身体に合っているのはもちろんだが、僕がこの店に通う一番の理由は、なんといってもこの店の居心地の良さにある。独特の不思議な時間の流れを感じるほどだ。
指圧やマッサージといった、基本的にリラクゼーションを伴うサービスを受ける時は、時間は早く過ぎ去ってしまうのが常だ(何店か激痛を伴う施術を受け、時間よ早く過ぎてくれと願った経験があるが)。ああ、もう終わりか、と朦朧とする中、少し物足りなさと共にベッドから立ち上がることが多い。
しかし、Flat.では不思議とそういった思いになったことがない。大沼さんは、「もちろん、決められたお時間がありますが、例えば60分経過して、あと少しだけ施術を続けられればこのコリを解消できるのに、そんな思いが前に勤めていたチェーン店の時からありました。自分のお店を持てる様になった今、そんな場合はお時間を優先させるより疲労を効果的に解消させるため、私の方からもう少しだけもみほぐしても良いかを、お聞きすることもあります」と話す。
きっと、その思いが施術として、身体に伝わるのだろう。物足りなさを感じたことは、皆無だ。
「本当はお客様とお話しすることが楽しくて、時間を忘れてしまうこともあるんです」と優しく笑うが、この言葉、半分は大沼さんの、接客に対する真摯な思いへの照れ隠しではないか。
しかしもう半分は本当なのかも知れない。そう思うほど、大沼さんは話の聞き手上手でもある。話すこちらも楽しくなり、つい話し込んでしまうことが僕も何度かあった。そんなところも、大沼さんの魅力の一つであり、それはそのまま、僕がFlat.に通う楽しみの一つにもなっている。
僕にとって治療や予防だったこれらの施術が、純粋にこの店に通う「楽しみ」の要素も加わった。ここに通う人それぞれが、きっとその人に合った居心地の良さを見つけ、それを「楽しみ」にしているのだろう。きっとそう感じているのは、僕一人だけではないだろう。決して最高の立地とは言えない閑散とした商店街にあって、毎日予約でいっぱいの状態が、それを証明している。

「やはり、いつもよりだいぶ凝っていましたよ」
施術の後、先ほどまで、まるで自分の身体ではない様に重く感じていた肩や腰や足が、リセットされたかの様に軽くなっている。思考力が低下していた頭の中までスッキリと覚醒したかの様だ。

今日もまた、最高の時間を過ごさせて頂いた。感謝。
さて、完全に疲れもとれた。
この夏、まだまだ遊べそうだ。

※最初に気になった「よもぎ蒸しコース」は、まだ未体験。いつかのお楽しみ。

公式HPより

もみほぐしの施術店 Flat.
〒258-0003
神奈川県足柄上郡松田町松田惣領1249-5 第2ナカムラビル2階
TEL 070-1213-5533
受付時間 10:00~19:00
木曜定休/不定休

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