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《MOTH by Zoogosit》火いる蛾

Zoologist Perfumes "MOTH" はガのポートレート、宵闇のなかでスパイスがごうごうと焼け散ってスモーキー&パウダリーが幕を引く香り、火にいる虫をみて感傷と感動がぶつかるような香水です𖦸𖦸

稲葉智夫氏による調香で、2018年に発表されました。
スモーキーでパウダリーな香水を作りたかった稲葉氏は【飛んで火にいる夏の虫】にヒントを得てMOTHを調香したそうです。

Zoologistでは2016年にNIGHTINGALE"を手掛けており、MOTHにも共通のレッドローズアコードを使っているそうです。

ちなみに彼は日本在住の日本人で、日本語で読めるたくさんの香水レビューを書いており、フレグランスポータルサイトprofice.jpの運営をしています。

MOTH

TOP 𖡻 野の蜜に浸したようなスパイシー、レモンの飛沫、煮詰まって辛いくらいのシナモン、オリエンタルな舌ざわりの甘さ…最初の数分、スパイスがめまぐるしく開いて閉じる。散らずに厚みを増していくので、神秘的な迫力を感じる。花火が次々打ち上がって黒い空に硝煙が残され、夜風に運ばれてくる熱エネルギーと煙たさを頬で感じるような。

HEART 𖡻 ハニーノートが水位を上げてフローラルノートを呑み、火の粉も花粉も巻き上げ、柱のように束ねられる。花を蜜で固めた枝、鼈甲の花細工のイメージ。かわいらしい甘さではなく、ずしっとくる重めのオリエンタル。
甘重いハニーアコードはBEEにもあるが、あちらはもっとこってりと喉に絡むような黄金色の蜂蜜、こちらはさらさら流れて花の香りを巻き込んだ蜂蜜。

BASE 𖡻 段階的に変化していたはずだが、気付かないうちにすっかり蜜様の甘さが消えて、コクのある柔らかなアニマリックに変わっていて驚く。
アンバーグリスがいい塩梅でムスクに熱を与え、夜のしじまを思わせる暗いスモーキーアーシー、木屑と灰と土のまざったようなウッディが燃え残った甘味を吸っていく。
スッと線を引くような涼しい香りが、蛾の飛跡のように細やかに働き、ひっそり静まろうとする獣臭や土草の輪郭を揺らながら消えていく。

TOP: Black Pepper, Cinnamon, Clove, Cumin, Lemon, Nutmeg, Saffron
HEART: Heliotrope, Iris, Jasmine, Mimosa, Muguet, Rose
BASE: Ambergris, Honey, Resins, Guaiac Wood, Musk, Nagarmotha, Oud, Patchouli, Smoke, Vetiver


🔥 💫

MOTHのプロトタイプは、大中臣能宣が詠んだ【御垣守(みかきもり)衛士(ゑじ)の焚く火の夜は燃え 昼は消えつつものをこそ思へ】からインスピレーションを得てつくられた、稲葉智夫氏オリジナルの「篝火」という香りでした。ラブダナム、パチョリ、ローズ、スパイスのアコードで表現したそうです。
この暗くて神秘的で少しパウダリックなスパイスアコードは、インドのスパイスを多く使っていたこともあり、当初はブラックパンサーとして提案されました。

闇に紛れるハンターではなく闇に燃え散るひむしの香りとなるために、スパイスアコードにフローラル、パウダリー、スモーキーの要素を加えて、組み上げられたそうです。

こういう製作秘話って本当に面白いですね…!


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