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vol.12 ショートボブの女③
ティンダーで初めて会ったAさん。
アポ初日は有楽町のガード下で飲み、意気投合したのでそのままAさん宅へ凸。
東京タワーの麓のマンションの3階。
夜と早朝に1回ずつセックスをした。
ただ夜のセックスについては泥酔のため、全く記憶がない。翌朝目が覚めると、Aさんの下着(カルバンクライン)がフローリング上に散乱していた。混じり気のないカルバンクラインのTバック、一方で僕はAさんの下着姿を全く覚えていない大失態を犯す。
あの頃の僕はAさんの虜だった。
2回、3回と逢瀬を重ねるにつれ、日に日に好きになっていく。
Aさんは絵に描いたようなキャリアウーマンだった。
外見はクール、でも酔うと弱音を吐いたり乙女な一面もあり、とても可愛らしい女性だった。
学生の頃の夢、本気で海外で通訳として活動したかったこと。でも志半ばで諦めてしまった過去。潤んだ瞳で昔話をするAさんはとても魅力的だった。
Aさんと会う時は決まって「仕事終わった」来るLINEに、僕は「これから会える?」と返すのだった。
Aさん宅の最寄駅で乾杯し、ほろ酔いで切り上げAさん宅でセックスをするのが、お決まりのコース。
僕はAさんと会う度、息を吐くように妻に嘘をつきセックスに溺れた。
Aさんは手マンが嫌いだった、きっと過去にガシマンされたのだろう。
頼むからこの世からガシマンが無くなりますように。
それとAさんはアザラシが大好きだった、わざわざ北海道紋別まで行ってしまうほど、好きらしい。
僕も可能なかぎりアザラシが好きになりたかったので、Aさんからアザラシの本を借りたのであった。
とある日、Aさんから突然「今週の日曜日、某水族館でアザラシの赤ちゃんが産まれたみたいだから一緒に行かない?」とLINEがきた。
僕のスケジュールの都合上、その日の日曜日は娘の習いごとの送り迎えもあり、とても水族館に行けるような時間をつくることが難しかった。
ただ今思えば強行はできたはずだった。僕は娘とAさんを天秤にかけ、ノータイムで娘を選んだのだった。
Aさんへ適当な嘘をつき、水族館デートのリスケをお願いした。
その後、AさんからLINEが返ってくることはなかった。
最後に僕からLINEを送ったのは1ヶ月前、
「アザラシの本を返したいのだけど、会えないかな?」
その後、既読すらつかないまま現在まで1ヶ月が経過している。
今も僕の自宅本棚にあるAさんのアザラシの本、ページをパラパラとめくると、Aさんの部屋の香りがほのかに香る。
僕は時折、この本を手にとりページをめくり、あの狂ったようにセックスに溺れたAさんのことを思いだすのだった。
あたたかい光を放つ東京タワーと、カルバンクライン姿のAさんを重ねながら。