コーチの無関心
ハーロックの実験をご存知でしょうか?アメリカの発達心理学者エリザベス・.ハーロック氏が行った実験なのですが、まず9〜11歳の子供たちを3つのグループに分けます。
集められた子供達には算数のテストを5日間1回ずつ行います。その際、前回の答案用紙を子供達に返す時に、先生からの言葉がけや態度を各々3つの方法に分けて行います。
そこでは、どんな点数結果であろうが、
Aグループ・・・・・出来た解答を褒める
Bグループ・・・・・出来なかった解答を叱る
Cグループ・・・・・一切何も言わない
の3方法に分けました。
そして、その5回のテスト結果の変化を調べていきます。結果は、
Aグループ・・・・・70%以上の子供の点数が大幅に伸び続けた。
Bグループ・・・・・2日目には、約20%の子供の点数が伸びたがその後低下した。
Cグループ・・・・2日目に約5%の子供の点数が伸びたが、その後低下し変化がなかった。
どうでしょうか?こうして褒めることの効果が可視化されることで、子供の能力を伸ばすために褒めたくなりますよね。
これをエンハンシング効果(Enhancing Effect)といい、「自分以外の外部から与えられる刺激(外的動機付け)を行うことにより内的動機(報酬のためでもなく、怒られないためでもなく、その活動をしたくなる。または楽しい気分になり、もっと楽しくなりたいと思い行動をする)が高まり、やる気のスイッチが入る心理状態のことを言います。
逆に、ここでのCグループでわかるようにコーチの選手に対する「無関心」「無視」が一番選手の成長を妨げることも理解できます。
人は、好きだから、楽しいから、自分のためにという内的動機で行動をとることが本来望まれるのですが、成長するにつれて、「期待に応えたい」「良いところを見せたい」「チームに貢献しなければ」といった外的動機付けの傾向が高まっていきます。
一流アスリートになるには、これら内的動機付け、外的動機付けの二つの動機が必要となります。そして、これらのバランスを保つことが重要となるのです。
ところが、アスリートとしてレベルが高くなればなるほど、外的動機の方が内的動機を大きく上回ってしまい、結果自らにプレッシャーをかけ過ぎることになってしまいます。その逆で内的動機が上回る人もいて、その場合は楽しければ良いと自発的にハードワークを行うことが難しくなってしまいます。
と、いうことで、選手のやる気を常に高いレベルで保つためには、指導者は選手の動機のバランスをしっかり把握し、声がけを考えます。外的動機が高くなってしまっている選手には、「そもそも何故このスポーツをしているのか?」を考えさせて、「楽しいから、しているんだろ?」「だったら楽しまなきゃ」のような声がけで、内的動機の意識を高めさせます。
一方、内的動機が高くなってしまっている選手には、チームでの勝つための役割を話し合い、そして、その役割を果たすための課題を一緒に考え、声がけは、「課題はどれくらいクリア出来ているか?」と外的動機を高めるように意識させます。
いずれにしても一番避けるべきは「無関心」です。コーチは選手たちに常に自発的に努力出来るようにという観点から、選手に関心を持ち、内的外的動機のバランスをしっかり把握し、声の掛け方を変えていくのです。
好きだからこの競技を行なっているという動機と、勝ちたい、他者から評価を受けたい、成績を上げたいという動機はどちらも大切です。
そもそも私が思うに、我が国のスポーツは本来あるべきナショナルパスタイム(国家的娯楽)としてのスタートではなく、人間形成や精神修行としての位置づけで始まった経緯が色濃く根付いてしまいました。
その影響を今に至るまで引きずった結果、暴力やパワハワが横行してしまったのです。こうした現状から考えれば、日本のコーチたちは、もっと「内的動機付け」に重きを置いて、その方法を学ばなければならないと思うのです。
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