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お礼のコラム:「外差し」と「前崩れ」の際のねらい馬
「外差し」と「前崩れ」は、直線外を通った差し馬が先行馬を差し切るという形は同様ですが、発生時のねらい方は違います。
例えば、前走の成績が次のような2頭は、それぞれどちらでねらうのがよいでしょうか。
●競走馬A 12-11-9-6着(上がり3F3位)
●競走馬B 16-16-15-6着(上がり3F1位)
私は、「外差し」のときにAの馬を、「前崩れ」のときにはBの馬をねらうようにしています。この違いは、「外差し」と「前崩れ」の発生するメカニズムに起因しています。
まず、競馬における「外差し」とはどのような現象でしょうか。
人によって定義は様々だと思いますが、多くの場合、以下のようなレース展開を「外差し」と呼んでいるように思います。
ローカル競馬場を中心に、開催後半において馬場のよいところを走った外枠の馬が差してくるようなレース展開
また、そのときの直線内目が荒れている馬場を「外差し馬場」と呼んでいます。
レース質マトリックスにおいても、「外差し」とは、内荒れ馬場において発生する外枠差し有利の強いバイアスとして捉えています。
例えば、2021年3月28日(日)の高松宮記念は、明らかな外差し決着となりました。雨の降る重馬場の芝、かつ前週、前々週の開催も雨に祟られ、ロングラン開催を見込まれて硬く造られていた中京芝コースも、いよいよ内目に限界がきていました。
結果はご存じのとおり、逃げたモズスーパーフレアを除いた、1~7番枠の馬は全て二桁着順に大敗。上位に入線した馬は全て外枠から発走して、道中7番手以下を追走した馬たちという決着になりました。
このレースは、前半3F34.1→後半3F35.1で、テン1F12.2。上位勢は加速ラップを刻んでいるので、重馬場を差し引いてもGⅠでは決してハイペース消耗戦ではありません。モズはベストに近いラップを刻んだと思いますし、それでも粘り切ることができませんでした。
ここでポイントなのは、各馬の上がり3F。高松宮記念では、最内で半端に先行した2頭を除き、全馬の上がり3Fは34.3~35.6の範囲に収まっています。全馬止まっているわけではないにもかかわらず、外枠勢が上位を独占したことになります。これが「外差し」のバイアスが強く出たときのオーソドックスな決着パターンです。
基本的に「外差し」には以下のような特徴があります。
・3~4角→直線入口の区間で、差し馬が馬群の外を押し上げることで発生する
・直線入り口時点での馬群の形は、前後に凝縮し、前部が横に大きく広がった逆三角形型になる
・直線では、内の集団と外の集団が入れ替わる形で差してくる
・能力差がある馬は内からでも好走できる
「外差し」発生のための重要な要素は、直線の馬場の良し悪しではなく、3~4角で先行馬が差を縮められやすいバイアスが発生していることです。また、外差しの流れで間に合わない差し馬は、直線入り口で間に合う位置まで押し上げられていないことがほとんどです。
実際に、高松宮記念後の騎手コメントで、モズスーパーフレアの鞍上である松若騎手は以下のようにコメントしていました。
内枠から質の良いスタートが切れました。リズム良く運べましたが、4コーナーでは内の悪い馬場に滑りながら加速することになりました。それでもよく頑張っています。
直線の馬場差ではなく、4角で滑って加速しきれず、後続勢に十分なポジション差を築くことができなかったのが敗因だということです。
一方で、「前崩れ」には次のような特徴があります。
・直線で先行馬の脚が上がり、急激に失速することで発生する
・直線入り口では先行馬が加速しているので、馬群は縦長のままで逃げ馬を頂点にした三角形型になる
・後方で我慢して、脚を残した馬だけが差してくる
・能力差がある馬でも先行すると潰れる
これらの特徴を基に、「外差し」同様に「前崩れ」を定義をするとすれば、以下のようになるでしょうか。
ハイペース戦やタフな馬場状態のときに、先行馬がオーバーペースで失速し、内が詰まることで、直線外目を通した差し・追い込み馬が差し届くレース展開
したがって、直線入り口時点では届かない位置にいる馬が、差し切るようなシーンが見られます。また、馬単体で差してくることから、「追い込み→追い込み→逃げ」のような極端な脚質同士の決着パターンも増えてきます。
なお、ダートの差し競馬は多くがこの「前崩れ」により発生するので、波乱になることが多くなります。
以上のことから、「外差し」と「前崩れ」のそれぞれにおいて、求められる能力を以下のように分類できます。
・上がりの速さの要求度 「外差し<前崩れ」
・操縦性や追走力の要求度 「外差し>前崩れ」
したがって、冒頭の2頭は、このように捉えられます。
●競走馬A 12-11-9-6着(上がり3F3位)=外差し向き
●競走馬B 16-16-15-6着(上がり3F1位)=前崩れ向き
例年どおり、福島開催があるとこの確認がしやすいのですが、今年は地震の影響で新潟代替開催となります。実は、新潟競馬場の外回り芝コースと東京芝コースは、直線が長いことから別の原理で「直線外を通った馬が走りやすい現象」が発生します。そちらについては単行本で触れているので、併せてご参考ください。