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自由っていったいなんだい?

毎週末に商店街へテイクアウトのお弁当を買いに行くのが楽しみになって、早数週。

例年であればGWの土日は大道芸のお祭りがおこなわれていたり、子どもたちが参加できるような大規模なアートプロジェクトがあったりと楽しい季節だ。
この時期は人も大勢集うし、大人もビール片手に出歩いたりしてるし、それでなくても年中開放的で楽しい街である。

ここで暮らし始めて15年になる。

二十歳越えてそこそこで、好きな男を追っかけてそのまま住み着いてしまい、結婚して子どもまで授かってしまった。

息子は、この街の子としてすくすく育っている。
変なの。
あたしは半径100mには他に家がないような田舎で生まれ育ったし、あたしの好きな人は小学校まで5kmもあってバスに乗って通っていたってのに。

美味しいお弁当探しに精を出し、いくつかお気に入りのお店も見つけた。
飲み屋の多すぎる街なので、とてもじゃないけど気になるお店すべてに入ったことがあるわけでもなし、こんな時だからコスパのいいお弁当を買って、お店に飲みに行けるようになったらぜひ行こう!とチェックしているのだ。

だけどなんだか5月に入ったら、急に悲しくなってきた。
どのお店もどのお店も店先で総出でお弁当を売っている。
普段はお弁当なんか作ってないだろうに、お弁当なんかじゃ本当は売り上げ立たないだろうに、ズラっとおいしそうなお弁当並べて500~1,000円。

どのお店のお弁当も買ってあげたいけどうちは3人家族、そんなに余裕もないよ、3つしか買えなくってごめん。
だから、ようよう吟味して、なるべく3つとも別のお店で買うようにしている。
今日はどこのお弁当買おうかなって考えながら歩いてると、なんだか右からも左からもどうですかどうですか?って声をかけられてしまって、そしたら楽しいよりもプレッシャーになってしまった。
買わないお店に、ごめん、と思ったりもして。

お祭りはないのに、お祭りの時みたいに外で食べ物を売っていて、なんなら生ビールだって売っている。
土日なんかは特に、テイクアウトを求めて買い物に出てる人もいるから、人もそこそこ多い。

でも、お祭りなんかじゃない。
お祭りの時みたいに明るい気持ちじゃない。

それがこの街に全然合ってないことに気づき、悲しくなってしまった。

息子に留守番をさせて、夫と二人、今日はどこの店で買おうかなと、決めあぐねて歩いていたら、店先でお弁当を売りながらRAPのフリースタイルで客引きしているあんちゃんがいた。

コロナコロナそれがどうした!終わらねえ自粛たまったもんじゃねぇ!アベノマスク?まだ届かねえ!ここのおにぎりマジうめぇ!絶対に損はさせねぇ!ほら買ってって!ママの手作り!500円!

隣で、けっこう歳のいってるエプロンをしたママが、黙々と炊飯ジャーからおこわみたいなのをタッパーに移してる。

ラッパーは、通りすがる客に次々絡んでいく。

完全に空回りしている。
ほとんどの通行人はそそくさ行き過ぎる。

あたしは、「目があったら絶対なんか言われる...」と思いつつも好奇心を抑えられない。
ニヤニヤが止まらない。

たまたま、そのあんちゃんの隣の店のお弁当を買うことになり、お代を払って近くで待っていた。

その間もラッパーは、道行く人にアピールし続けている。

気付かれないようにチラチラ見ていると、

ほらそこのお姉さん!気になってるでしょ!こっちへおいでよ!カモンカモン!そっちもいいけど、こっちも来てよ!ママの手料理マジうめえ!

と案の定絡まれた。完全に見せ物だ。
でも嫌いじゃない。
ニヤニヤしながら近寄っちゃうあたし。

結局、まったく買うつもりのなかった何かのカマの煮付けを買ってしまった。
チョロイ。

どうやらラッパーは店員ではなくて、ただのスナックの客で、ママを応援するために客引きを買って出たらしい。

どちらかというと営業に支障をきたしてるのでは...
ママも、わかっちゃいるだろう。
でも、ママ、きっとうれしいんだろうな。

ありがとうございました~、とお礼を言うママの隣で

「マジ二人お似合い!ナイスカップル!お幸せにっ!」

と、一応結婚して10年も経ってるあたしたち夫婦を冷やかすラッパーを
「バカなこと言ってんじゃないよ、まったく、なにがナイスカップルだよ!」とママがたしなめていた。 

でも、「お幸せに!」だなんて、うれしかった。
なんだか久しぶりに、楽しかった。

わけわからなくて楽しいことがいつも起きる、あたしの大好きな街。

いっつも明るいこの街が、頭のおかしな人ばっかり歩いてるこの街が、誰だって後ろ指差されないで歩けるこの街が、苦しんでるの見るのは、悲しい。

なんでもいいから、ちょっとだけでもテンション上げたかった。

買ったものを持って、一足先に夫に帰ってもらい、あたしはやっとこさ再開した古着屋を覗くことにした。

アロハシャツが欲しかった。

STAY HOME中に出歩いてるだけで自粛警察どっかから来るんかな。

消毒スプレーだって持ち歩いてるし、マスクもしてるよ、やっと開けてくれた古着屋でアロハシャツくらい見させてくれよなぁ?

古着屋がなんか悪いことしたかね。

何の権限があって2ヶ月も店閉めさすんかね。

悲しいよね。大変だよね。

そりゃ休業してる間のこと、申請すれば少しは補償があるんだろうけどさ。

でも開けたって、お客さん来ないよね。

もちろん狭い店内にはあたし一人。
玄関も開けっ放し。

そうだよね、お客さん来ないよね、あたし冷やかしみたいに見えるよね、って奥の方のラックで1枚1枚Tシャツ見てたら、

「ゆっくり見てってくださーい」

と、年季の入った店主(50代)が、レジのところに座ってアコースティックギターを弾き始めた。
たぶんオリジナルであろう、物悲しいフォークソングを歌い出した。

歌詞はよく覚えてない。

あたし、出るに出られなくって、ハンガーをガシャガシャ動かしてTシャツを見てる振りをしながら、勝手に悲しい気持ちになってごめん、と思ってちょっとだけ泣きました。

なんだよなー、けっこうみんな、強いよなー。

こんな時だってへこたれないんだから。

この街の人たち、変わらないんだな。
あたしが越してきた15年前から、ちっとも変わらない。

あとちょっと、あとちょっとって、

みんながへこたれないでがんばってる時に、
総理のお友だちの黒川東京高検事長の定年を解釈変更とかで半年間延長閣議決定しちゃって、どういう理屈なの?って突っ込まれたら議事録も残してないからっつって、じゃあどさくさに紛れて法改正しちゃおうつって、改正案の審議今やるとか言い出して。

桜を見る会も、河井夫妻の献金問題も、立件されたら捕まりますもんね。

それを避けるために、お友だちを検事長のままでいさせたり、あげく検事総長にさせたりするってことでしょ。

検察官の人事を内閣が握るってことは、

三権分立が成立しなくなるし、

一生懸命努力しないと手に入らない民主主義を尊重してないし、

悪いことしても権力あったら許されるんかよってことだし、なんなら安倍政権今までも全部全部許せないし、森友でだって加計でだってなんで捕まらないのか意味わかんないし、よくもまぁ誤魔化してきたよなと思うけど、さすがにここまで来たら、嘘でしょ、開いた口が塞がらないわ、そこまでやる?自分たちの保身のために、自分たちが捕まらないために、悪いことするために法律までねじ曲げる?ただの極悪じゃん!反社会的な人たちより怖いじゃん!あーホントに腹立たしい!胸糞わりい!ていうかまずこの事態に踏ん張ってる人たちの補償を先にしろよ!病院の態勢をサポートしてやれよ!医療用で必要なものマストで揃えろよ!緊急事態宣言解除するための数字をはっきり出せよ!マスク配ってる金あったら、自治体ごとにめちゃくちゃになってる教育現場フォローしてやれよ!って怒ってる。
希望があることに、けっこうたくさんの人が怒ってる。

お偉方の皆さまさ、街に出てごらんよ。

STAY HOMEは重々承知してるけどさ。

こんなにたくさんのあなた方の言うところの『国民』が苦しんでますよ。

見てよ見てよ見てよ。

医療機関の人たちが不眠不休で命を救おうとしてくれてるよ。

保健所の人も役所の人もだよね、本当に、世の中を進めてくれている皆さま、皆さまのおかげです、だよ。

議員の人も官僚の人もがんばってくれてる人はいっぱいいるよね。

ありがとうございます。

出社するの怖いけど電車に乗って外に働きに出なくてはならないたくさんの人たち、ありがとうございます。

子どもたち、学校始まらなくて不安だし寂しいよね。友達とも遊べなくて悲しいよね。
保護者の皆さん、毎日毎日仕事もあったりするのに、子どもの勉強まで見てあげて、なんとかしてやる気出させて叱咤して、叱咤しすぎて自己嫌悪になって、疲れるよね、なんとかしてほしいよね。
ちっちゃい子のお父さんお母さんなんてもっと大変だよね、遊び相手までやらなくちゃで、とてもじゃないけど仕事にならないよね。

家族みんなのご飯三食作るの、もう限界だよね!

ホント、全員!よくがんばってる!
(あたしなんか、Netflix見てるだけでなんもしてないけどさ!)

それにしたってわからないのはさー(検察庁法改正案の話)、63歳という年齢まで生きてきてさ、いっぱしの、まっとうな、検事という誰もがなれるわけじゃない職業を粉骨砕身して長い年月やってきてさ、それなのにそのあと、権力者の一存で権力の側に回るのか、そうでない人生を生きるのかという選択を、そんなすごい人ですら、自分の意思でもって決められないの?

もし、時の内閣に「定年延長でよろしくね」って言われたら、NOと言えないの?

それって全然、自由じゃないじゃん。

そんなに、『権力』って、いいものなのかなぁ。

あたしは、あのおじさんたちの顔見てても、『権力』がいいものだとは、全然思えない。
あのおじさんたちが自由だとも思えない。

「いい」と思ったところであたしごときに『権力』が手に入るわけでもないんだけれど、あたしは全然欲しくない。
そんなものよりは、自由の方が100倍いい。
路上で政権批判のラップをしたり、好きな歌を歌える自由の方がよっぽど欲しい。

寝る前に息子に、

「将来何になりたい?」と聞いたら、

「んー、普通でいいかなー」と言う。

「普通ってなによー。じゃあさ、お金持ちとかにはなりたくない?」

と聞くと、

「いや、別に、そんなにお金持ちにはなりたくない、普通でいい、今ぐらい。」

と言うので、

「これは普通じゃないよ!お金ないよ!だって海外旅行とか行けないんだよ!海外旅行行きたいじゃん!NYとかロンドンとかメキシコとか、スイスも行きたいしハワイも行きたいし!オーストラリアも、韓国も行きたいー!」

と言ったら、

「めーちゃん、それは欲しがりすぎ。そんなに欲しがってると疲れちゃうよ。」

と言われた。

けだし、的を得ている。

でも時にはガソリンとしての欲望も必要なのだ、息子よ。

まず、欲しがってみてくれ。

欲しがりません、勝つまでは

なんて国になってしまったら困るのだ。

欲しいものを欲しいと言えるのも、自由があればこそだよ。

君が、自由な風が吹いている場所で生きていけるように、まだ大声で、あたしは叫ぶ。

自由っていったいなんだい?
熱くなりたくはないかい?
自由っていったいなんだい?
思う様に生きたくはないかい?
自由っていったいなんだい?
どうすりゃ自由になるかい?
自由っていったいなんだい?
きみは思う様に生きているかい?
(尾崎豊『Scrambling Rockn' Roll』)

2020、まだ尾崎イズム忘れていませんよ、あたし。