『形骸』─ 文字が語りかけるオーディオビジュアライザー ─

 4月23日。九州大学の大橋キャンパスへと赴き、目当ての作品を見に行った。作品名は「形骸」。何とも仰々しいタイトルを冠しているその作品は、オーディオビジュアルタイポグラフィというジャンル(?)に属している。正直なところ、それだけでは如何なるものか判断しかねるので以下に解説していく。

 入口の厚い扉を開くと暗い部屋に独特の電子音が広がる。扉の取っ手を持つ観客の右側には椅子、左側には大きなディスプレイとその下に配置されたブラウン管があり、これのみのシンプルな構成だ。観客は椅子に腰掛け、正面に表示された2つの画面を見る。ディスプレイには、連続的に変化するパーティクルの背景と文章が映し出される。ブラウン管には、すぐ上のディスプレイの画面に表示された文章の文字を1つずつ、連続して映している他に「Windows95」を彷彿とさせるような様々なパラメータが表示されている。こうした視覚的表現の他に冒頭に記述した独特の電子音が鳴っている。この電子音も例に漏れず連続しており、連続して変化する画面・音を感じながらディスプレイに表された文章を読んでいく。

 とここまで書いてきたが、この「形骸」は一見すると暗い中で表示された文章と連続して変化する環境を見る映像作品のように思えるが、この作品の本質は別のところにある。表示された文章を読み進めていくと、最後に「果たして、あなたは気がついているだろうか。ディスプレイに表示されている映像、流れている音楽、矢継ぎ早に切り替わる字幕。これらのパフォーマンスを司っているのが個々の文字であるということに。」とある。実は、ディスプレイに表示された背景及び部屋に響き渡る電子音は、ブラウン管に映された文字のボックス内の充填率によってリアルタイムで制御されている。観客が見ていた映像は、人の手で意識的に合わせられたものではなく文字がその全てを司って表現されている。

 ここで、文字・タイポグラフィに関する話をしようと思う。私たちが文字、取り分け文章を読むというのは日常的に幾度となく繰り返してきたプロセスであるが、その一つ一つにフィーチャーすることは大多数の人にとって決して多いことではない。文章の中での文字は、意味を媒介する連続的な組み合わせの一要素でしない。故に、ただ1つの文字が私たちに直接的に語りかけることはなく、それは文字を区別するための形を有するのみとなる。そんな文字にあるただ唯一の「形骸」という要素によって、文章の中においても私たちに直接語りかけることができる、そうした可能性を見せてくれるのがこの「形骸」という作品だ。
 それに気付くと、この音も画面も全てが合理的で美しく、ブラウン管に映る白黒の文字が有機的にすら思えてくる。

 余談であるが、この作品を制作された1人である 涼光(@ Suzumi_Designs)氏はタイポグラフィに精通しており、自ら多くのフォントを制作されている。フォントを制作するというのは文字一つ一つに向き合うことだが、そんな彼だからこそ、文字の「形骸」から聞こえる声に向き合うことができたのだろう。

タイトル:「形骸」
制作者様:涼光(@ Suzumi_Designs)、Kamite yuki(@ u__u_____u)
開催場所:九州大学大橋キャンパス 芸術工学図書館1F 映像音響ラウンジ
開催期間:2024 4/23~4/26 (11:00 ~19:30)

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