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好きなボカロPの良さを頑張って言語化するシリーズ 「カンザキイオリ」編
不定期で続けている、「好きなボカロPの良さを頑張って言語化するシリーズ」。
ボカロPについて語るシリーズ↓
今回取り上げるのは、生きることの苦しさをそのままぶつけた曲を作るボカロP、「カンザキイオリ」。
ヒット曲の『命に嫌われている』から、個人的にすごく大好きな『邂逅』など、その音楽的魅力を初期の作品から順番に解き明かしていければと思っています。
この2曲は、彼のチャンネルに最初に投稿されたものです。
パッと聴いた感想としては、古き良きロック系のボカロって感じですね。
特に『自信暗鬼』は、サウンドや歌詞からモロにNeruの『 ロストワンの号哭』に影響を受けていることを感じさせる曲です。
哀伝ティティは、サビ前に転調があるのですが、これもすごく当時のボカロらしい手法ですね。その後に転調を重ねているのも、当時の雰囲気が感じられます。
最近の曲は転調あってもほとんど1回(基本ラスサビだけ)なことが多いので、逆に新鮮です。
さっき影響を受けたであろうアーティストとしてNeruを挙げましたが、上げようと思えばwowaka、れるりりなんかも挙げれそうですね。
特にドラムの感じはwowakaっぽいです。
コメント欄の情報によると、哀伝ティティを書いたときは18歳だったそうですが、すでに聴きごたえのあるサウンドを作り、トレンドまで積極的に取り入れていたのには脱帽です。
彼が書く歌詞のテーマを一言で表すなら、「羨望」です。
憧れている誰かへの羨望、なりたかった自分への羨望、存在しない「完璧な人間」への羨望、絶望や冷笑という言葉も考えましたが、羨望が一番しっくりきました。
よくある曲だと、絶望的な現実を歌ったあとに、それでも前を向いていこうみたいな感じの流れにするのですが、彼の曲は絶望に始まって絶望に終わります。
例えるなら、一般的な曲が暗い部屋から外に飛び出そうと言うのに対し、彼の曲はずっと部屋の中でぶつぶつ独りごとを言って終わる、というイメージです。
話を戻して、「君の歌が好きだったんだ」は、ピアノが前に出る構成となっており、私の中のカンザキイオリのイメージに近い曲です。
いやぁ、本当にまっすぐな曲ですね。
サビは盛り上げ、それ以外の部分は落とす、悪く言えば予想がつく音、ということなのかもしれませんが、個人的にはけっこう好きです。
この曲を聴いたときすぐに思いました、「じん」だ!と。
アップテンポなロック、それ以上にメロディーがすごいそっくりですね。
影響を受けたであろうボカロPを挙げると、キリがなくなってしまいますが、あまりにも明確な影響を感じられたので思わず書いちゃいました。
ハネたリズムが特徴的な『アダルトチルドレン』。
この曲はすごいです。
突飛な音や展開がなく、素直な曲なのは今までと同じですが、そこに主人公の人生を淡々と描くことで、今までの人生を回想している、という表現になっています。
曲が進むたび成長したり、歌詞が左から右に流れたりするのは、時間の流れを表しているのでしょう。
似た曲だと、Neruの『テロル』ですが、こちらが例えやレトリック多めなのに対し、アダルトチルドレンは心からの叫びを歌っているのが対照的ですね。
では、そろそろ『命に嫌われている。』の話を。
命に嫌われている。は彼の代表曲の1つですが、個人的にはけっこう驚きの多い曲でした。
まず、ピアノがすごい打ち込みっぽいというか、固い音なんですよね。コード進行が極端にシンプルというのも関係していると思います。
さらに、2番のA~Bメロでボーカルのハモりがあるのですが、これが不安定、言ってしまえば音を外してるんですよね。コーラスとメインボーカルのバランスがほとんど同じという、あまり見られない形ですし。
ちなみに、「まふまふ」のカバーでは自然に聞こえるようにアレンジされています。
調声も独特で、ボーカルに初音ミクを使っているそうなのですが、どっちかというとMEIKOに近い声で、ほとんど別物です。
今までの曲とは違い、アコースティック調というのもビックリする部分ですね。
ただ、これらは悪い方向に作用しているかというと必ずしもそうではなく、「死」や「ナイフ」といった曲の世界観と上手いことマッチしています。
しかし、「命に嫌われている」という表現は本当にすごいと思います。
散々言われているでしょうが、死にたいという明確な気持ちではなく、「ああ、俺って命に嫌われているんだなぁ」という、ある意味で自分の人生を他人事として考えているこの表現は、彼の真髄です。
さて、このまま語っていても長くなるので、ここからはもう1つの軸である花譜のオリジナル曲に話を移します。
最初に出されたのは、この『糸』という曲ですが、命に嫌われている。にあったストリングスやピアノ、それに初期の曲に見られたギターやロック調のドラムが加わり、バランスの良い仕上がりとなっています。
メロディの美しさが彼の楽曲の特徴なので、花譜の儚い声とすごく合っていて、控えめに言って天才的なコラボレーションですね。
ただ、この頃にはかなりサウンドが完成されており、私の語彙力では「良い曲」としか言えないものが多いので、特に気になった曲を中心にピックアップしていきます。
この曲は、珍しくドラムに電子的な音が使われています。
さらに、「ドッツ タッツカ ドッツッ タッツカ」という、宇多田ヒカルやスチャダラパー的なリズムなので、少し他とは聴き味の違う曲です。
イントロがカッコいい!
コメント欄には、広告で惹きつけられたという人が多数いますが、大成功していますね。
私は、ボカロじゃないのにこのシリーズで取り上げたぐらいヨルシカが好きなので、このアップテンポで爽快なロックサウンドは激刺さりです。
今までが落ち着いたサウンドだっただけに、その衝撃も大きかったですね。
花譜の代表曲の1つである『不可解』。
曲の中に語りを入れる、ポエトリーリーディングが使われており、『邂逅』と繋がる部分も多い曲です。
繰り返される冒頭のピアノのフレーズ(とリズム)、歌詞の内容からカンザキイオリ節を大量に摂取することができます。
やはり落ち着いた曲の方が、彼のフレーズの美しさが感じ取れて良いですね。
エレキギターのクリーンなサウンドで始まるのが特徴的な1曲。
この弾き語り調のAメロとBメロ、ギター1本と歌声だけで聴かせるのはさすがだなと思います。
この曲を聴いたとき、何かに似ているなーと思ったのですが、「タマシイレボリューション」でした。
これ以前の曲にも言えることですが、売れた曲のサウンドに固執せずこうやって新しい音楽性で曲を作っているのは、素直にすごいと思います。
「UNISON SQUARE GARDEN」的な少しジャジーで手数の多いピアノ、そこからミュージカル調に展開していくのが面白い曲です。
不可解もそうでしたが、ちょくちょく入るドラムのマーチングバンドっぽいスネアのリズムが、自然と盛り上がりを感じれてけっこう好きです。
この曲のAメロのリズムは、邂逅とかなり似ています。
落ち着いた雰囲気、命に嫌われていると同じくアコースティック調の曲なので、かなりエンディング感があります。
この曲を出した数曲後に、邂逅で花譜への曲作りはやめてしまうのですが、最後に原点回帰していてすごく好きです。
ただ、歌詞は「好きなことを好きにやっていいんだよ」という、命に嫌われているとは対照的な明るいものとなっており、変化も感じる1曲となっています。
さて、少し駆け足になりましたがようやく邂逅にたどり着けました。
サウンドは、どちらかというとロック調ですが、テンポはそこまで速くなく、ピアノやアコギの音も入っているので、しっかり聴かせる曲、という印象ですね。長さも5分以上ですし。
ただ、この曲の良さはやはり歌詞にあるでしょう。
個人的に、あまり歌詞だけを取り上げて議論するのは好きではないですが、この曲はちょっと別格すぎます。
「湿気だとかささくれとか夕焼けとか イライラする事ばかり蘇る」
「さながらナイフのように拡声器を持った」
など、誌的な表現が多いのも特徴的です。
夕焼けがイライラするというのは、一見するとよく分からないですが、感動的な場面でことさらに夕焼けが使われていたり、一日の終わりを感じさせるものであったりすることを考えると、すごく納得できる気がします。
「なんで皆一緒に生きていけないんだ 肌の色で性別で恐れ合うんだ いつか変わるからって何年続けてるんだ 時代ごとに違う差別同じ憎しみ 世界平和なんて嘘だ 皆一人ぼっちだ」
今は公開されていませんが、期間限定で見れたライブ映像では、この部分を叫ぶように(少し音程を無視して)歌っており、鳥肌が立ったのを覚えています。
最後の方にある、「せめて僕らだけは優しくなろうよ」という歌詞は、本当に心に刺さります。
初期の曲にあった絶望感と、花譜の楽曲の中で描かれてきた希望、それが最終的に「世の中がどうであっても、自分は大切なものを見失わず生きていこう」という、諦めと生きる強さを両方含んだ内容の歌詞に繋がっていて、まさしく集大成だな、と感じました。
実をいうと最近のカンザキイオリの活動はあまり追えていないのですが、これを機に、新しい曲も聴いてみようと思います。