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好きなボカロPの良さを頑張って言語化するシリーズ 「稲葉曇」編

不定期で続けている、「好きなボカロPの良さを頑張って言語化するシリーズ」。

ボカロPについて語るシリーズ↓

今回取り上げるのは、ダークなロックサウンドが最高にかっこいい「稲葉曇」。

曲の冒頭3秒を聴くだけで、「稲葉曇の曲だ!」と分かってしまうほど個性的な彼のサウンドの魅力を、さっそく解き明かしていきましょう。


不安定なロックサウンド

『秘密音楽』は、彼の初投稿作品ですが、すでに音楽性の一部が完成されていたことを感じさせる曲となっています。

具体的には、ボーカルに歌愛ユキを使っていること、エレキギターのカッティングが印象的なロックサウンド、などですね。

それに加えて、この曲ではイントロからピッチが不安定なシンセが入っていたり、不協和音や、ギターリフに半音階が使われていたりします。

少しかすれた声の歌愛ユキと、上記のようなサウンドを組み合わせることで、この曲はロックでありながら、爽やかさより複雑さを感じさせる曲となっているのが特徴的です。

間奏のギターソロも、チョーキングやオクターブの移動で構成されているので、いわゆるロック的なエモいギターソロとは全く違う印象を受けますね。

2曲目の『クーラーガール』も、『秘密音楽』と同じように半音階のカッティングを使うことで、不安定な印象の曲になっています。

今どこにいるのか分からなくなるほど、複雑なコード進行ですが、それを2曲目にして使いこなしてるところに、彼の実力が感じられます。

また半音階、また半音階だ!

さらに、調を外れたギターのフレーズも相まって、今までの曲で一番不安定さを感じるイントロとなっています。

とはいえ、イントロ以外はけっこう普通なコード進行なので、割と王道よりって感じがしますね。

ギターやベースもメロディアスになっており、だいぶノリやすい感じの曲、という印象です。

この曲で特徴的なのは、やはりBメロでしょう。

「テンパったってイイことないし」「考えたって選られない(原文ママ)よ」

の部分で、ボーカルに合わせて後ろの楽器がリズムを刻みます。いわゆる「キメ」ってやつですね。

ただ、ここでもお得意の半音階が使われているので、得体の知れない何者かに迫られるような不安を感じる部分となっています。

その不安感をサビで一気に解放し、間奏でまた不安定に戻す、『ループスピナ』というタイトル通り、不安と解放のループを上手く使った曲だといえます。

サウンドの多様化

『ナミダ電波』で特徴的なのは、サビや2番、間奏などの随所にピアノを使っていることですね。

ピアノが加わったことで、曲全体に安定感というか、厚みが出来ているのが今までの曲とは違うところです。

それ以外にも、逆再生したシンセや、ハンドクラップ、ディレイやディストーションのかかったベースなど、今までの曲にはなかった飛び道具的なものも多く使われています。

この曲以降、曲のアクセントとしてシンセなどが使われることが増えていきます。

少し飛ばして、次に紹介するのは初期のヒット曲である『ロストアンブレラ』です。

ここから、MVは稲葉曇ではなく、「ぬくぬくにぎりめし」に変わっています。

この曲は、テンポが今までの曲より速く、カッティングを前面に押し出しているので、かなりの疾走感があります。

半音階や細かい転調などがあるものの、全体としては割とすっきりしているというか、クリアなサウンドという印象です。

この曲のかっこいい部分は、やはりAメロ冒頭のカッティングでしょう。

1種類のコードしか使わず、キメとブラッシングでリズムを刻むのは、シンプルながら「これぞロック!」と言いたくなるかっこよさです。

それに続くBメロは、メジャーセブンスを使って浮遊感を演出し、疾走感のあるサビにつなげる、という流れです。

このサビも、実はブレイクを挟んで2小節短くなっているので、曲全体のスピード感を早める役割を果たしています。

次に紹介するのは『ノンユース』です。

少しコーラス(オートチューン?)のかかったボーカル、少し乾いた感じのリズムに、「wowaka」へのリスペクトを感じますね。

細かいところだと、「むりやり荷造りをして笑い飛ばしたかった」でテンポが遅くなるところなんかは、アンノウンマザーグースっぽさがあります。

ただ、全体としてはwowakaリスペクトよりも稲葉曇らしさが目立つ曲調となっており、尊敬する人の要素を取り入れつつも自分らしさは崩さないという、彼のボカロPとしての底力のようなものが感じられる曲だといえるでしょう。

譜割りの異質さが目立つ2曲

この曲は、彼がいつも使っているボーカル、歌愛ユキをテーマにした曲です。

曲調がシンプルな分、目立つのは譜割りの独特さです。

例えば冒頭の「ゆめから覚めた小学生」という歌詞は、

「ゆめか / らさめ / た / しょう / がく / せい」

という感じで分かれています。

「ゆめから」ではなく、「ゆめか」で切り、「さめた」を「さめ / (ぇ)た」に分けるなど、かなり変わった譜割りです。

私の勝手な考察ですが、歌愛ユキというキャラクターは小学生なので、あえて拙い感じを出すために、こうした不自然な切り方にしたのではないでしょうか。

譜割りに注目すると、「あなたの声と声を切り取って 切り取っていく」という歌詞が自己言及的なものに思えてきて面白いです。

ポリリズミックなイントロと、刻みや動きのあるギターが特徴的な『カゼマチグサ』。

鳴花ヒメ・ミコト1周年企画の書き下ろし楽曲ということで、珍しく歌愛ユキ以外のボーカルを使っています。

全体的に軽快なサウンドですが、独特な譜割りにより、なかなか着地点を見つけることができない、不思議な浮遊感を持った曲です。

『ラグトレイン』という曲がり角

さて、いよいよ彼の最大のヒット曲、「ラグトレイン」にたどり着きました。

もちろん、神曲であることは言うまでもないのですが、今までの作品を踏まえると少し異質な感じのする曲でもあります。

そう、稲葉曇にしてはあまりにもサウンドが素直すぎるんです。

不協和音や半音階、独特な譜割りといったものは、この曲にはほとんど見られません。

曲を聴きながら、表のリズムで乗ることのできる珍しい曲です。

リズムも全体的に落ち着いてますし、音数も多く、汽笛っぽい音のシンセを入れるという遊び心もあります。

MVに動きが多いと言うのも、今までの曲に見られなかった特徴ですね。

ところどころに稲葉曇らしさを残しつつも、大胆にポップソングらしくアレンジするという、ある意味挑戦的な楽曲であるといえるでしょう。

『レイニーブーツ』は、ステップを踏むような軽快なベースラインが特徴的な曲です。

『ラグトレイン』以降、ダークなロックサウンドから、Jロック的なノリのあるサウンドに変わっていった印象があります。

ただ、ラスサビ前の「溜まった涙が跳ねる音のリズムに乗ろう」の部分など、勢いのある激しめのサウンドはしっかりと残っています。

まさかのピアノソロから始まる『ポストシェルター』。

一瞬、「あれ、稲葉曇さん曲調変えた?」と思ってしまいますが、そのあとのドライブのかかったベースや重めのブラッシングでいつもの稲葉調に戻ります。

興味深いのは、サビで16ビートが登場することですね。

これにより、サビが一気に明るくなって、またしても稲葉曇っぽさがなくなります。

個人的には、「神聖かまってちゃん」の曲にすごく似ているな、と感じました。

特にこの曲、っていうのがイメージできるわけではないですが、ピアノの使い方がすごく似ていますね。

強いて言うならこの曲かな?↓

いつもの稲葉曇の曲は「どしゃぶりの雨」ですが、この曲は「少しまぶしい雨上がりの空」、というイメージです。

『シンクタンク』は、いつもの歌愛ユキではなく音楽的同位体の裏命が歌っています。

いやぁ、ボーカルが違うと普段の曲とは印象がガラリと変わるんですね。驚きました。

歌愛ユキの声はハスキー寄りで、少しこもったような感じです。

それに対し、裏命は落ち着いた中音域の声で、発音もはっきりしています。

そのため、ミステリアスな感じよりかは、胸の内を歌った切ない曲に聞こえます。

音楽に溶け込むような歌愛ユキの歌声もいいですが、他の楽器を引っ張っていくような力強い裏命の歌声も、また違った印象で良いな、と思わせてくれる曲です。

稲葉曇サウンドの集大成『電気予報』

長くなってきたので、最後に私が一番好きな曲を紹介して終わりにします。

『電気予報』は、「ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs」に書き下ろされた楽曲です。

そのため、ボーカルは初音ミクになっています。

この曲の素晴らしさは、サビの「でんげきが はしる!」の部分に詰まっています。

この部分でいきなりCからGに転調するのですが、それが本当にかっこいいです。

歌詞の通り、そこを聴くたびに毎回脳に電撃が走って鳥肌がたってしまいます。

しかも、最初に持ってくるのがDなどのメジャーコードではなくBmという、稲葉曇らしさ全開としか言いようのないコード進行です。

イントロではおなじみの半音階も登場しますし、初期の楽曲に特有だった重めのロックサウンド、『ナミダ電波』から見られるようになった音数の増加や、『ラグトレイン』から始まった軽快さと疾走感、この1曲で稲葉曇のすごさを知ることができます。

まとめ

というわけで、今回は稲葉曇の魅力について話していきました。

ダークでかっこいいロックサウンドが印象的ですが、それに留まらない彼の音楽性を見ていけたのではないかと思っています。

字数の関係で詳しく紹介できませんでしたが、最新曲の『私は雨』も、今までにない新しいサウンドに挑戦しており、非常に興味深く、素晴らしい曲でした。


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