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好きなボカロPの良さを頑張って言語化するシリーズ 「いよわ」編

不定期で続けている、「好きなボカロPの良さを頑張って言語化するシリーズ」。

前回↓

今回取り上げるのは、現代ボカロ(?)を作り上げた人物の一人である「いよわ」。

ボカロ自体が現代の文化なので、変な言葉に感じるかもしれませんが、「初音ミク、鏡音リン・レン、巡音ルカ、KAITO、MEIKO」だけだったボカロ初期から、新たなボーカロイドが誕生し、「ボカロの多様化」が起こった時代を代表するボカロP、ということです。

今まで紹介してきたボカロP(ナユタン星人、ピノキオピー、DECO*27)は、基本的に初音ミクしか使っておらず、ボカロ初期を代表する人物、という印象が強いです。

しかし、今回紹介する「いよわ」は、flowerを中心に新しいボーカロイドを使った楽曲を多く投稿しており、新しい時代の到来を感じさせるボカロPです。

彼の代表曲を中心に論じていきますが、どんなボーカロイドが使われているのか、というのに注目するとより楽しめると思います。


flowerの独特な声質と、楽曲の世界観

まず、彼がよく使っている「flower」について。flowerは、いわゆるハスキーボイスです。公式では「女性歌声ライブラリ」とされていますが、声のイメージはどちらかというと少年的です。

私の主観になってしまいますが、初音ミクに比べて歌詞が聞き取りづらく、歌というより楽器に近い歌声、といった特徴があります。

言ってしまえば、クセのあるボーカロイド、ということになりますが、彼(いよわ)はflowerの独特な声質を活かし、独自の世界観を作り上げています。

彼の楽曲は、ピアノやストリングスが目立っており、オーケストラっぽさがあります。

ボカロでオーケストラといえば、「OSTER project」です。

しかし、彼女の楽曲と聞き比べてみると、全然違うことがわかると思います。

その理由は簡単で、OSTER projectとは違い、電子音をバリバリに使っているからです。全体的にテンポがかなり速いこともあり、RPGのボス戦のような、勢いと荘厳さが感じられます。

そのため、オーケストラ”っぽさ”と表現したわけです。

こうした楽曲に、flowerのハスキーで倍音っぽい声は、驚くほどぴったりとハマっています。

いよわサウンドは「現代の讃美歌」?

長らく、この独自の世界観を表現する言葉が見つからなかったのですが、彼の楽曲内にその答えを見つけました。

ぼやけていて分かりづらいですが、背景に描かれているのは「最後の晩餐」です。最後の晩餐は、言わずと知れた中世を代表する宗教画です。

聞きかじりの知識で申し訳ないのですが、中世のキリスト教は権威を高めるため、やたら豪華な教会を建てたり、大勢の聖歌隊に讃美歌を歌わせたりするなど、「なんかすごそうな感じ」を出すことに全力で取り組んでいました。

聖書が、一般人の読めないラテン語で書かれていたのも、神の教えの偉大さを損なわないためだったと言われています。

現代でいうところのヴォイニッチ手稿みたいな感じで、言葉がわからないからこそ、ミステリアスで神秘的なものになっている、というわけです。

話を戻して、彼の楽曲は「現代の讃美歌」だと私は考えています。

オーケストラっぽいサウンドなのに電子音をバリバリに使い、不協和音を織り交ぜ、歌詞が聞き取りづらいflowerを使っている・・・。幾重にも重なった解読困難な楽曲は、まさしく中世のキリスト教です。

flowerの声がハスキーで、倍音を含んでいるのも、聖歌隊っぽい感じがしませんか?しますよね!

初音ミクとの邂逅

ただ、この楽曲のあとflowerが単体で使われることはなく、初音ミクを中心に、足立レイや歌愛ユキなど、様々なボーカロイドが散発的で使われることが多くなります。

とはいえ、彼独特のふわふわとした調声は変わっていないので、楽曲の統一感みたいなものは崩れていません。

彼の代表的な楽曲は、ほとんど初音ミクが歌っています。

宗教改革で聖書がドイツ語に訳されたように、彼の楽曲も別のボーカロイドを用いることによって、新たなる発展を遂げたのかもしれません。

彼が初音ミクを使い始めてから、しばらく「初音ミク×flower」の楽曲が投稿されるのですが、これらの楽曲の安定感と耳なじみのよさは、MIMIの「初音ミク×可不」に通じるところがあります。

心なしか、やさしい曲調も似ている気がします。

MIMIも大好きなボカロPなので、いつか取り上げたいですね。

「きゅうくらりん」はなぜ流行ったのか

彼(いよわ)の代表曲といえば、「きゅうくらりん」です。

初期の楽曲のラスボス感と比べると、だいぶポップになっていることがわかると思います。

この曲では可不が使われていますが、可不を一躍有名にした「フォニイ」が投稿されたのが2~3ヶ月前なので、意図しているかは別として、可不ブームの後押しがあったことも、この楽曲の人気に関係しているのでしょう。

あとは、色々な意味で有名なノベルゲームの「DDLC(ドキドキ文芸部!)」に登場するサヨリを思わせる歌詞だったというのも、この曲が流行った要因かもしれません。

あと、MVのミーム性が高いことも大きな要因だったと思う。

「1000年生きてる」の凄さ

この曲も好きなのですが、個人的にはもう1つの代表曲である「1000年生きてる」の方が好きです。

というか、正直この曲の話がしたくて「いよわ」編を執筆しました。

この曲は、時期的には「たぶん終わり」(初音ミク・flower)と「きゅうくらりん」の間に投稿されています。

(そんな単純な図式ではないと思いますが、)彼の初期の禍々しさと、ポップさの間に位置する曲です。

テンポもかなり落ち着いた感じですし、彼の楽曲では珍しく、まるで人が歌うことを想定したかのように、早口や高音のパートも抑えられています。

ですので、この曲は「歌ってみた」も聴いてほしいです。

とりあえず、私の推しである「ヰ世界情緒」の動画を載せておきます。

人が歌うと、初音ミクとは違った良さが出るのも、この曲の魅力ですね。

この曲でも、不協和音気ぎみの重厚なピアノと、暴れまくるベースラインは健在ですが、細かく刻んだりリズムをずらしたりといったことは少なく、ボーカルが際立つ伴奏となっています。

そして、この曲はラスサビで「転調+メロディが変わる」という、最高過ぎる盛り上がりの演出があります。

曲を聴いているときもそうですが、自分で歌ってみると、この部分でどんな曲よりもテンションが上がります。ちょっとがなり声を混ぜてみたりすると、もう最高です。良かったら、カラオケなどで試してみてください。

存在する言葉から、存在しない言葉を作る

この曲は、もちろん歌詞も素晴らしいです。

彼の楽曲の歌詞は、「存在する言葉を組み合わせて、存在しない言葉を作る」という特徴があります。

「きゅうくらりん」だと、

きっときっと鏡越し8時過ぎのにおい

思い出西日越し うつるこまかなヒビが こんなにも恐ろしい

焦がれては逃げれないこと みんなにはくだらないこと

などが、分かりやすい例です。

部分的に取り出しただけでも、彼のセンスが光っていることが十分にわかると思います。

個人的には、歌詞に明確な意味は必要なく、むしろ「それっぽい雰囲気をどれだけ演出するか」が大事だと思っています。

その点で、「1000年生きてる」の歌詞は完璧に近いです。

知らない偉い人が石に文字彫って祈って 気の狂った誰かがホワイトを塗りたくった

これはイントロ終わりの歌詞です。

めっちゃそれっぽいですが、よく見ると全然意味がわかりません。

でも、曲の中で聞くとめっちゃオシャレなんですよね。「真っ白に塗った」とかじゃなくて、「ホワイトを塗りたくった」と持って回った表現をしているところが好きです。

こんな短い文章で、静かな狂気を表現できるところに脱帽です。

「転調+メロディが変わる」部分の始まりである、

一生このまま尻尾の皮一枚で繋がれた奴隷か? 喉元に噛み付く牙はまだあるかい?

という歌詞も気に入っています。

「尻尾」や「牙」という、人間にない部位を持ってくることで、自分ではない何者かに変身したような、強烈な非現実感を味わえます。歌っていて、一番気持ちいいところです。

間違いなく、この曲は1000年後も聴き続けられるでしょう。

「いよわサウンド」は、おそらく「きゅうくらりん」によって完成したと思われますが、私はそれ以前のアクの強いサウンドも好きです。

イラスト描けちゃう系のボカロP

言い忘れていましたが、彼は前に紹介した「ピノキオピー」と同じく、MVのイラストやアニメーションも全部作っちゃう系のパワフルクリエイターです。

私が好きなのは「一千光年」のアニメーションですが、どのMVに登場するキャラクターも可愛くて、選びきれません。

この曲以外だと、「ゆめみるうろこ」や「ももいろの鍵」のMVが、めちゃくちゃかわいいのでオススメです。

楽曲だけでなく、MVまでいよわ成分たっぷりなので、視覚と聴覚をフルに使って、彼の楽曲を楽しんでください。


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