粗品の「ソシーゲーム」の問題点を、ダン・アリエリーから考える
粗品といえば、今では知らない人の方が珍しいぐらい有名な芸人である。YouTube ではコンビとしての「しもふりチューブ」の他に、個人で「粗品 official channel」を運営しており、その登録者は100万人を超えている。
かくいう私も彼のチャンネルのファンなのだが、中でも後輩芸人3人と「ソシー」を賭けたゲームで対戦する動画が気に入っている。
ちなみに「ソシー」というのは粗品 official channel内でしか使うことのできない通貨のことである。なので当然、ゲームの勝敗を決める以外に役立つことはないのだが、彼らはまるでそれが本物のお金であるかのようなリアクションをとる。
ゲームの内容はチンチロや麻雀など、ギャンブル性の高いものが採用されている。特に勝敗がすぐに決まるチンチロの動画が多く、1本の長さが20分を超えるにも関わらず、今までに10本以上の動画が投稿されている。
先に言ったように、彼らはお金ではなくソシーを賭けているため、Youtubeの規約には一切抵触していない。内容としては、ただ4人のおじさんが楽しく遊んでいるだけである。
しかし、もしこのソシーが現実のお金に交換できるとしたらどうだろうか。もちろんこれは思考実験の域を出ないが、そうした状況を仮定した上で今回の記事を読んでいただきたい。
行動経済学者のダン・アリエリーは著書「予想通りに不合理」(早川書房, 2013, 熊谷淳子訳)の第14章において、代用貨幣を使うことの危険性について言及している。
実験の内容は省略するが、問題を解いた報酬を現金ではなく引換券(交換所に持っていくことで貨幣と替えることができる)に変えることで、不正行為が増加することが確認された。
直接他人の財布からお金を取ることは躊躇うが、それがモノであったり貨幣の代替物(ストックオプションや経費の申告など)の場合には不正を働きやすくなるというのが、この章の結論である。
少々乱暴だが、ここから私は貨幣の代替物は本物のお金にくらべて、それがお金であるという意識が薄れるのではないか、と考えた。
これをソシーを賭けたゲームに当てはめてみよう。
ソシーをお金に替えることができると仮定すれば、ソシーは貨幣の代替物となる。チンチロの動画では、最初は1万ソシーが上限となっていた。1ソシー=1円で計算すれば、1万円である。
私は彼らの金銭感覚を知らないが、たいていの人にとって(おそらく彼らにとっても)1万円は大金だろう。しかし彼らは、それに相当するソシーをほとんど躊躇いなく賭けていた。
そしてゲームが白熱すると、やがてその1万ソシーという上限は取り払われ、その何倍ものソシーが次々に賭けられるようになる。最終的には100万を超えるソシーが賭けられていた。だがこれがもしソシーでなかったら、つまり現金で会ったら同じ現象は起こっただろうか?(もう一度言っておくが、彼らが賭けているのはあくまで仮想のお金であり、実際には何の価値もないものである。そのため私の考察は全く価値のないものだ。)
動画内の発言で印象的だったのが、ダブルヒガシ大東の「借ソシ(ソシーを借りること)すんのはええんやけどさ、ちゃんと返せる見込みあるん?返せへん額借りてやってもおもんないやん」という発言だ。ゲームの勝ち負けでしか使わないソシーを返済するというのはよくわからないが、もしそれがお金に替えられるとすると、数万ソシーは簡単に返すことはできない額だ。そんな額ですら、ソシーという通貨を介することによって、彼らは簡単に賭けてしまう。
しかし裏を返せば、このシステムは非常に良くできていると言える。もしソシーではなく現金を使っていたら、なにわスワンキーズ前田の賭け方が霞んでしまうほどに、みなお金を賭けることに慎重になってしまうだろう。だがソシーを使うことで、それがお金であるという意識が薄れ、ゲームとしても動画としても面白い展開を作ることに成功しているのだ。(念のためもう一度言っておこう。彼らは1円も賭けていない。これはあくまで仮定の話だ。)
このことを知ってか知らずか、ほとんどのカジノや雀荘では現金の代わりにチップを使っている。客同士のトラブルを防いだり、摘発を防ぐという意味合いもあるだろうが、このシステムがより多くの儲けを生み出しているのは間違いない。
現金そのものを扱う場合において、私たちは十分その扱いに気を配る。しかしそれが別の形をとってしまった場合、私たちの警戒心は一気に薄れてしまう。ギャンブルで多くのお金を失う前に、しっかりと彼らの動画を見て自分を戒める必要があるだろう。
粗品のチンチロ動画のURL↓
https://www.youtube.com/watch?v=XheM_F6MlZw
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