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【番外編】好きなボカロPの良さを頑張って言語化するシリーズ 「ヨルシカ」編

不定期で続けている、「好きなボカロPの良さを頑張って言語化するシリーズ」。

ボカロPについて語るシリーズ↓

今回取り上げるのは、ボカロの枠を超えたとてつもない人気と、音楽性が高すぎることでおなじみの「ヨルシカ」

ただ、ヨルシカは厳密にいうとボカロじゃない気がするので、いちおう番外編とさせていただきました。

できれば、アルバムに収録されてる曲の話もしたいんですけど、聴けない人がいると困るので、YouTubeに公開されている曲だけに限定しようと思います。


ヨルシカ前期、ヨルシカ後期

私は勝手に、ロック調の曲が多かった初期の作品を「ヨルシカ前期」、いろんなジャンルの曲を作るようになってからを「ヨルシカ後期」と呼んでいます。

前期と後期の境目は、あえて言うなら『だから僕は音楽を辞めた』になるのかな、と思います。

初期~前期の曲がエレキギター中心だったのに対し、この曲はピアノの伴奏から始まり、長めのピアノソロがあるなど、今までのヨルシカにはなかった曲調となっています。

この曲を境に、初期のロックでアップテンポな感じから、ゆったりとメロディや伴奏を聴かせる曲にシフトするようになったんじゃないか、というのが私の勝手な解釈です。

まあ、この曲の詳しい話はあとでするので、いつも通り最初の曲から順番に見ていきましょう。

ヨルシカ前期

1: 靴の花火

初期の曲ということもあり、冒頭のギターのアルペジオが印象的です。

ヨルシカ前期の曲は、ほとんどこうした印象的なギターフレーズから始まります。

ただ、曲調はロックって感じではないんですよね。

サビにアコースティックギターが入ってるなど、ちょっと後期につながる雰囲気の曲だといえるでしょうか。

これはよく言われることですが、ヨルシカの曲って意外とシンプルなんです。

音楽的な話をすると、コード進行が分かりやすいっていうのが大きな理由ですが、初期はロック調のサウンドなので、テクニカルなフレーズが登場しにくいというのもあります。

シンプルというのは決して悪口ではなく、音楽として聴かせるための最低限の要素がしっかりと押さえているので、むしろ「サウンドとして洗練されている」というのが正しい表現かもしれません。

さらにシンプルなようでいて、細かく聴くと全てのパートがけっこう技巧的なんですが、それを感じさせないというのもヨルシカの凄さですね。

個人的には、ラスサビ前の逆再生が登場するところで鳥肌が立ちました(だいたい4分10秒ぐらい)。

2: 言って。

全ての曲が人気曲と言っていいヨルシカですが、『言って。』は中でも人気の高い曲です。

さっき紹介した『靴の花火』とは違い、この曲は典型的なJロック(軽音楽部が演奏してそうな曲)といった印象です。

冒頭のポップな効果音、そして「言って」というワンフレーズから、ギターソロにつなげる、こういうすごいことをサラッとやってしまうのが、ヨルシカというアーティストです。

「死」という重いテーマを扱っていながら、曲調はあえて軽めのロックにし、「いって」という言葉の意味を読み替えるなど、軽さと重さのバランス、遊びの入れ方が絶妙としか言いようがありません。

月並みな表現ですが、「ヒットするべくしてヒットした曲」という感じがします。

3: 準透明少年

この曲は、さっきの『言って』に比べると重めのガッツリしたロックサウンドです。

ドライブのかかったカッティングや、ディストーションのかかったベースなんかが、「これぞロック!」って感じがしますね。

この曲は、いい意味でsuisさんの優しい歌声が浮いています。

これも言ってしまえば音のバランスなんですが、激しめのサウンドに対してまるで弾き語りをしているかのような歌声が、この曲を単なるロックとは違う印象に仕上げています。

私はあまり、ロックを聴いて「ボーカルの綺麗な高音が印象的だった」、という感想を言ったことはないのですが、この曲ではそれが成立してしまうのが、なんとも不思議ですね。

4: ヒッチコック

この曲は、『準透明少年』よりはっきりと「ロックサウンドと優しい歌声」の対比を感じることができ、力強いのにむしろ優しさを感じる曲となっています。

歌詞の内容は、人生の理不尽さを歌っているのですが、表現がとにかくおしゃれですね。

サビで話しかける相手を「先生」と呼ぶのは、どことなく「シャーロック・ホームズ」などの探偵小説に出てくる助手を思わせますし(私だけでしょうか?)、

哲学や精神分析学の大家でありながら、一般にも(たいてい間違った印象で)知られているニーチェやフロイトを持ってくるところや、

名前は知ってるけど、作品を見たことがない人が多そうな「ヒッチコック」をタイトルにするなど、

私みたいに「意識だけが高い」人たちの琴線を知り尽くしていないと書けない歌詞だと思います。

Aメロの落ち着いた感じから、サビへの盛り上げ方も見事で、歌詞だけでなくしっかりと曲調やメロディでも感動させる作りになっているのが、とにかく最高すぎます。

5: ただ君に晴れ

この曲はヨルシカの代表曲ですが、今まで言ってきた要素が全て含まれている、とんでもない曲です。

やっぱり、一番印象的なのは冒頭のギターフレーズ(リフ)ですね。

音自体はシンプルなんですが、一度聴くとなぜか忘れられないのが本当にすごいです。

この曲は、冒頭だけでなくイントロのギターソロ、Aメロ後半の合いの手、サビの高音アルペジオ、あえてジャズっぽいクリーンな音から始まるギターソロなど、これでもかというぐらい、ギターが強調されています。

基本的にはロックで、ギターを強調し、歌詞の内容は切なく、ジャンルをまたいだ外しがある、ヨルシカというアーティストを語るのに、これ以上ぴったりな曲はないでしょう。

ヨルシカ後期

6: だから僕は音楽を辞めた

この曲は、ヨルシカ前期と後期の境目になっていると言いましたが、前期とは違う良さが感じられる名曲です。

最も大きいのは、今までメジャーな曲には入っていなかったピアノが曲の中心となっているところですね。

『君に晴れ』ではあんなに前に出ていたギターも、この曲では補助的な役割となっています。

アコースティックギターが思ったより目立っているというのも、今までの曲にはなかった特徴です。

もう一つ特徴的なのは、曲の中に

「辞めた筈のピアノ、机を弾く癖が抜けない」
「ねぇ、将来何してるだろうね 音楽はしてないといいね 困らないでよ」「音楽とか儲からないし 歌詞とか適当でもいいよ」

といった、メタ的な歌詞が多く登場するところです。

それに加えて、今までの曲は「独り言」というか、生きることの辛さをつぶやいているような感じだったのに対し、『だから僕は音楽を辞めた』は自分の思いを力強く語りかけてくる感じがします。

サウンドが穏やかになったら、歌声が力強くなるというのは、面白い対比ですね。

曲の印象としては、弾き語りに近づいたという感じでしょうか。

あまりにもピアノのフレーズが美しすぎるので、ヨルシカのアーティストとしての底力をじっくり味わうことができます。

こうしたところに気づきやすいのが、アコースティック調のサウンドの魅力だと言えます。

イントロのメロディを、サビでギターとピアノがユニゾン(同時に弾く)するなど、フレーズ感というか、音の厚みが感じられるというのも、今までの作品には見られなかった魅力です。

7: 雨とカプチーノ

『だから僕は音楽を辞めた』ほど大胆なことをやっていない分、初期との比較対象としては、この曲のほうが適しているかもしれません。

ピアノが加わったことで、パッと聞いてだけでも音の厚みが増していることが感じられると思います。

ギターのサウンドが全体的にクリーンになったり、サビでライドシンバルが使われていたりするなど、曲調の変化が見られます。

ただ、よく聞くとベースにディストーションがしっかりかかっているというのが、一言でまとめることを許さない、ヨルシカのニクいところです。

ラスサビのあとにもう一つ展開を持ってくるというのは、意外と今までの曲に見られなかったので、そこも注目するべきポイントですね。

共感してくれる人がいるかは分かりませんが、私はラスサビでのボーカルが「どうか(どうか)」などの掛け合いをする部分(3分20秒から)が本当に好きです。

8: 花に亡霊

この曲はけっこう王道というか、意識して聴かないとヨルシカの曲だと分からない、そんな珍しい雰囲気の曲です。

『だから僕は音楽を辞めた』と同じように、ピアノとアコースティックギターが中心となっているのですが、音の動きが少なく、ヨルシカ独特の、メロディアスなフレーズはあまり見られません。

ただ、音の入れ方が絶妙で、決して音数が多くないにもかかわらず、物足りなさを全く感じないのがすごいところです。

特にラスサビの盛り上がりが分かりやすいですが、曲の緩急が本当に上手く設計されています。

教科書に乗せるべきなんじゃないかというぐらい、緻密に計算された曲だと言えますね。

9: 思想犯

一見すると、前期の疾走感あるロックサウンドに近いのですが、メロディがあえてキャッチ—さを感じさせないように作られているのが特徴的です。

言語化するのが難しいのですが、今までだったらもっと短くまとめていたフレーズを、少し引き伸ばしてるといった感じですね。

そのせいで音楽にノリきれないところが、この歌のテーマである空虚さや苦悩を表している気がして、「上手いことやってるなー」と思わず感心してしまった曲です。

10: 春泥棒

あまりこの表現は使いたくないのですが、この曲はサビがとにかく最高です。

抑えめだったAメロ、Bメロから、「はらり、僕らもう息”も忘れて”」で盛り上がる部分は、聴くたびに鳥肌が立ちます。

メロディも、低いところから一気に高音へと移動するので、明らかにサビが目立つように作られているのですが、それが完璧にはまっています。

落ちサビでアコースティックギターだけになるなど、ヨルシカにしては珍しいぐらい素直なこともやっているのですが、このサビ、メロディを聴いたら納得せざるをえないですね。

この曲が作れるんだったら、そりゃヨルシカ有名になるよな、って思わせる説得力を持った曲です。

11: ブレーメン

この曲はそこまで有名な方ではないですが、個人的には「好きなヨルシカの曲ランキング」の1位に入れてもいいぐらい好きな曲です。

おんなじことばっかり言っている気がしますが、曲の構成や音の入れ方が本当に完璧で感動します。

特に作り手の目線で聴くと、簡単なようでいて思いつかない仕掛けがいくつも取り入れられていて、本当に参考になります。

ギターのアルペジオを中心に、ドラムやピアノの裏拍でノリを出しているのが、まず最高に気持ちいいです。

Bメロの「さぁ息を吸って”早く吐いて”」という部分、長めの音を入れて溜めたあと、ブレイクで一気に解放する感じもたまらないですね。本当に音が呼吸しているように感じます。

サビでメロディの頭にブラスを入れたり、ラスサビの最後で一小節繰り返しを入れるなど、細かな工夫がいくつも見られます。

歌詞はけっこう暗いというか、空虚さを歌っているのですが、それをあえて明るくノリがある感じで歌うという演出も、最高にクールです。

12: Rubato

比較的最近の曲と言うこともあり、さらにマイナーにはなってしまいますが、最後は『Rubato』の話をして終わろうと思います。

この曲も、さっきの『ブレーメン』と同じく、聴いているだけで楽しい気分になる曲です。

ところどころにジャズを思わせるアレンジがあり、ピアノやブラスの音が前に出ているのが面白いポイントですね。

音楽の用語を使った遊びが歌詞に多く入っており、メタ的というか、記号論的なことをしてるのも、後期ヨルシカって感じがして好きです。

初期の『言って。』や『準透明少年』と比べると、同じアーティストとは思えないほどの違いがありますが、そうした音楽的な幅の広さこそが、ヨルシカの魅力なんじゃないかと私は思っています。

まとめ

というわけで今回は、「ヨルシカ」の魅力について話しました。

個人的に好きなアーティストなので、かなり熱を入れて語ってしまいましたが、ここまで語れるほどの魅力があるというのは、改めて本当にすごいアーティストだな、と感じました。


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