
好きなボカロPの良さを頑張って言語化するシリーズ 「DECO*27」編
なんだかんだ3回まで続いた「好きなボカロPの良さを頑張って言語化するシリーズ」。
前回↓
今回取り上げるのは、誇張抜きでずっとボカロ界を引っ張り続けている「DECO*27」。
ボカロが好きと言っていて、彼を知らない人は間違いなくモグリです。そう断言できるほどに、代表的なボカロPだと思います。
彼は、前回紹介した「ピノキオピー」と同じく、活動開始からずっと、初音ミクをメインとした楽曲を作り続けています(厳密にはGUMIやechoなども使っているので、初音ミクだけというわけではありませんが)。
初期からボカロを聞いているほど、「あの曲ってDECO*27さんが作ってたんだ!」と思うことは多いはずです。まさしくボカロ界のクリントイーストウッド。
彼のすごいところは、ヒット曲もそうですが、そもそもの楽曲自体がとても多いところです。書き下ろしなどが多いので、正確な数はわかりませんが、おそらく100曲近いのではないかと思います。
そんな量も質も人間離れしたボカロPの魅力を、今回も頑張って言語化していきましょう。
最初に 執筆中に気づいたこと
特徴的な曲名
核心的な部分に触れる前に、記事を書いていて初めて気づいたことを話させてください。
それは、オリジナルの造語がタイトルに使われていることが、とても多いということです。
『妄想感傷代償連盟』『ライアーダンス』『弱虫モンブラン』など、聞いたことのない単語の組み合わせが、ほとんどの曲のタイトルに使われています。
比較対象として、前回紹介したピノキオピーの楽曲を振り返ってみましょう。
『すろぉもぉしょん』『祭りだヘイカモン』『きみも悪い人でよかった』など、曲名である程度歌詞の内容が予測できるようなものが多いです。
それとは対照的に、DECO*27の楽曲は「なんだそりゃ?」と言いたくなるようなタイトルで溢れています。
彼の書く楽曲は、9割以上ラブソングです。しかし、決して単調さや飽きっぽさは感じず、毎回新鮮な驚きがあるのは、「愛」というありふれた事象を奇抜な言葉で表現し続けているからでしょう。
もちろん、内容が予測できるタイトルが悪いわけではありません。DECO*27もピノキオピーも、趣向を凝らした曲名を考え出しているという点では同じです。
サウンドの分析
複雑なバンドサウンド
余談はここまでにして、彼の楽曲のサウンドから分析してみたいと思います。
DECO*27の楽曲は、電子音があまり使われておらず、ギター、ベース、ドラムを主体としたゴリゴリのバンドサウンドで構成されています。
こうした部分は、第1回で取り上げたナユタン星人と共通していますが、彼の楽曲が、軽音部が演奏していそうなポップ寄りのロックだったのに対し、DECO*27はガッツリめの邦ロックである、という違いがあります。
どのパートも技巧が求められるフレーズばかりで、演奏難易度はかなり高いと言えるでしょう。
この動画を見れば、彼のサウンドの複雑さがある程度わかると思います。
そうしたこともあってか、彼の楽曲はスタジオミュージシャンが弾いているような、ある種の職人っぽさがあります。
こうした複雑なサウンドが使われているのは、スピーカーやヘッドホンなどが、どんどん高品質になっていることが関係しているのでしょう。
初期作品との比較
個人的な主観が多く入っているかもしれませんが、初期の楽曲は今と比べるとシンプルなサウンドであるように感じます。
アーティストとして成功したことで、打ち込みからプロミュージシャンの演奏に変わっていった、などの理由もあるのかもしれませんが、こうした専門的な分析は他の人に任せようと思います。
ただ一つ言えることは、どちらが良いとかではなく、時代と共に進化しているサウンドの凄さに注目するべき、ということでしょう。
幸運なことに、『モザイクロール』や『二息歩行』といった初期の楽曲が、最近になってリメイクされています。どちらもYouTubeに公開されているので、ぜひサウンドの比較をしてみてください。
リメイク版である『モザイクロール(Reloaded)』の方が、シャープで洗練された印象を受けます。新旧それぞれの良さがあって、「DECO*27さん、すげぇなー」と、ただただ感心してしまいます。
新旧の良さを同時に楽しめる楽曲として、スマホゲーム用に書き下ろした『needle』があります。
作品内の設定では、高校生バンドが演奏していることになっているので、それを意識してか、技巧的な要素は抑えられています。こうした調整もできるというところに、彼の音楽性の高さが垣間見えますね。
ストーリー性の重視
楽曲を越えた繋がり
サウンドの話はここまでにして、次はもう少し視点を広げ、楽曲の作りというか、スタンス的な部分を考察していきたいと思います。
先に言ってしまうと、「楽曲同士の繋がりやストーリーがある」というのが、彼の一番の特徴です。
総数から考えると、そうした特徴を持っているのは一部の楽曲ですが、この視点はDECO*27について語る上では避けて通れません。
分かりやすいところだと、『愛言葉』『愛言葉Ⅱ』『愛言葉Ⅲ』『愛言葉Ⅳ』という「楽曲名+ローマ数字」のシリーズです。愛言葉以外だと、『おじゃま虫』もⅡが作られています。
このシリーズは、それぞれが別の楽曲というわけではなく、歌詞やリズムなどがとても似通っています。ざっくり言ってしまえば、『愛言葉Ⅱ』『愛言葉Ⅲ』『愛言葉Ⅳ』は、『愛言葉』のリメイク版です。
これだけ聞くと、ヒット曲を擦り続けているように思われるかもしれませんが、そういうわけではなく、明確な意図があります(少なくとも、私はそう考えています)。
曲ごとのストーリー
元々、彼の楽曲は一つのストーリーとなっていることが多いです。サウンドの部分で取り上げた『モザイクロール』や、『アンドロイドガール』『ストリーミングハート』などが分かりやすいでしょうか。
こうしたストーリーは、考察要素が多分に含まれたとても複雑なものです。
正直、私は具体的なストーリーを考察することには興味がないのですが、『東京大学「ボーカロイド音楽論」講義』という本で、壮大な考察が行われているので、気になる人はこの本を読んでください。
とにかく、彼の楽曲ではストーリーがかなり重視されています。それを突き詰めていった結果として、楽曲の垣根を超えた、長いストーリーが作られるようになったのだと思います。
「マネキン」シリーズから見る作家性
初音ミクのキャラクターソング
楽曲の垣根を越えた繋がりとして、もう一つ挙げられるのが、「マネキン」と呼ばれるシリーズです。
簡単に言うと、初音ミクの見た目をベースにして、楽曲ごとに異なるキャラクターを登場させるシリーズです。いうなれば、初音ミクのキャラクターソングですね。歌詞の一部分と共に、いくつか例を挙げてみます。
あたしヴァンパイア
いいの?吸っちゃっていいの?
「もう無理もう無理」なんて 悪い子だね
試したいな いっぱいで吐きたい まだ絶対いけるよ
あ...えと、いや...なんでもない 言いたいこと言えたことないや 目と目 止められないの 逸らしちゃって まーた自己嫌悪
剥がれ落ちたメイク すっぴんのアニマル 醜くてもやっちゃうのよ おすわりとかできない だって待てもできない 喉鳴らして いっちゃうまで
こうした一連のシリーズは、公式のアンソロジーコミックにもなっており、かなり力を入れて作られていることがわかります。その集大成として、『マネキン』というタイトルの楽曲も作られています。
初期設定を踏まえたアイデア
このシリーズは、アイデアとしても面白いのですが、初音ミクの初期設定などを知っていると、より深く理解することができます。
初音ミクの初期設定については、Wikipediaに書かれている文章が分かりやすいので、そのまま引用します。
初音ミクのメディア展開では企業・団体との公式コラボ展開が行われているが、ユーザーによる創作物において「好きなイメージの初音ミク」がそれぞれ存在しているという状況があり、クリプトン側はミクのイメージを収束させてしまうことを懸念していた。
ミクは年齢・身長・体重以外が設定されておらず、クリエイターの中で様々な衣装やストーリー、キャラクター性が創造された結果、多様な色を持つミクが誕生するに至っている。
これらの記述からわかる通り、初音ミクは制作の段階で、意図的に見た目以外の設定がほとんどなされておらず、そうした部分をクリエイターに任せています。
つまり、初音ミクのキャラクターソングを作るという取り組みは、新しいものでありながら、初音ミクを作ったクリプトン社の方針、初音ミクの”哲学”に忠実であるとも言えるわけです。
このような活動を、初期から初音ミクを使い続けているDECO*27が行っているというのは、どことなく感慨深いものがあります。
意外な「下ネタ」の多さ
名曲に隠されたエロス
最後に、意外と彼の楽曲には「下ネタ」が入っている、という話をしたいと思います。表現としては、「エロス」の方が適切かもしれません。
隠れミッキーのように、あらゆる楽曲に下ネタが挿入されているのですが、それが最も顕著なのは『乙女解剖』と『ラビットホール』です。
まず、『乙女解剖』から見ていきましょう。
女の子が服をたくし上げているサムネの時点で、すでにエロスの香りがしています。乙女解剖というタイトルも、そういう意味に捉えられる気がします。
乙女解剖であそぼうよ ドキドキしたいじゃんか誰だって 恥をしたい 痛いくらいが良いんだって知った あの夜から
これは冒頭の歌詞ですが、明らかに性行為を思わせる内容となっています。
それ以外にも、
乙女解剖であそぼうよ 本当の名前でほら呼び合って 「いきたくない」 そう言えばいいんだった 楽になれるかな
乙女解剖であそぼうよ 身を焦がす感情をヌき合って もうバカみたい 「嫌嫌」がたまんないの 誤解は解けるかな
乙女解剖であそぼうよ 涎をバケットの上に塗って 確かめよう 期待外れ最高潮だった あの夜から
など、サビの歌詞を中心に、かなり婉曲的ではありますが、エロスの表現がされています。特に、「涎をバケットの上に塗って」という歌詞は、かなり強烈です。
『ラビットホール』の歌詞も見てみましょう。
この曲は、さっきよりもタイトルとサムネが直接的です。歌詞の内容も、それに比例して過激になっているので、さっそく見ていきましょう。
もうやっぱアピってラビったらいいじゃん POPな愛撫 謳ったらいいじゃん みっともないから嫉妬仕舞いな 発火しちゃうとかくっそだせえな
淋しくなったら誰でもいいじゃん 埋まればいいじゃん 嫌嫌愛して生きたくなって 死ぬまでピュアピュアやってんのん?
やっぱアピってラビったらいいじゃん BADなダンス 腫魔(はま)ったらいいじゃん
バーストからインスタントラヴァー 頭+身体がばかに絡まらあ ゴーストならアンデッドマナー 嗚呼未だ淫ら 今際火花散らばそれがアンサー、だ
やあやあ 悪い子さん まあまあ お愛顧じゃん さあさあ 始めるよ もっとこの穴を愛してよ
特に最後の歌詞は、ほとんど言ってしまっています。
この曲は、最近になってものすごく評価が上がっているのですが、歌詞だけなら『ギガンティックO.T.N』や『くるみぽ〇ちお』(自主規制)に匹敵する内容なので、初めて聴いたときはかなり衝撃的でした。
私の考えすぎ・・・ではない!
ただ、DECO*27は「見方によってはそうとれるかも・・・?」みたいな感じでぶっこんでくるので、そのように解釈する私に問題があるんじゃないか、と思わせてきます。
こういうところも、彼の巧さであり、同時にズルさでもあります。
他の例も挙げておくと、『アニマル』の
がぶっとしよっか 高まるビート 良いも悪いも全然しよ ハマってみよっか 突破するゲート 愛に期待は禁物だよ ねえ止まれないほどに狂いたい 心真っ赤にしてどうしちゃったの 痛みすらもし愛せたら あたしは幸せです
いやいや喰らい甲斐なくてつまんない せめてちょっと拒んでほしかったな
といった歌詞もそう捉えられます。
この動画についていたコメントで、「アがっちゃってよ クるっちゃってよ メぐっちゃってよ」という歌詞の頭文字をとると、「アクメ」になるという「てんぷら」さんの素晴らしい考察がありました。
それぞれの歌詞の冒頭がカタカナになっていますが、これは私が意図的にそうしたわけではなく、公式の歌詞なので、おそらく確信犯です。
これに関しては、挙げると本当にキリがないので、ファミ通よろしく「この先はキミの目で確かめてくれ!」と言っておくことにします。
まとめ
さて、今回はDECO*27の魅力について迫ってみました。
私が最も好きなボカロPであるということもあり、過去最長になってしまいましたが、ある程度良さは語れたのではないかと思っています。
本人のチャンネルに投稿されている曲以外にも、多数の書き下ろし楽曲があるので、「なんかこの曲、DECO*27さんっぽくない?」と思ったら、ぜひクレジットをチェックしてみてください。