【ボカロ小説感想】『噓つきウサギと銀の檻』(著:西台もか/原案:骨盤P)
※サムネイルは、小説『噓つきウサギと銀の檻』bookwalker販売ページの表紙画像よりお借りしております。何か問題がございましたらご指摘・お申しつけのほどお願いいたします
はじめましての人ははじめまして。海鮮焼きそばと申します。いわゆる合成音声楽曲がだいすきです。魚田羊(うおたひつじ)の名前で小説を書いているときもあります。
結局今年もさつまいもを買おうと思って買わないまま秋が終わっていきました。手軽でおいしいさつまいもレシピを知ってたら誰か教えてください。
どういうつかみやねん。
ところでこれは、obscure.さん主催企画『ボカロリスナーアドベントカレンダー2024』(1枠目)への参加記事です。12/12担当なのに9日も過ぎててごめんなさい🙇
すっかり毎年恒例になっててなんだかわたしまでうれしいですね。obscure.さんと参加者の皆様に敬礼!!!
1枠目
2枠目
さて、突然ですがわたしのだいすきな曲をどん。
いつ聴いても本当にカッコいい、硬質な疾走感にあふれたボカロック。骨盤P『噓つきウサギと銀の檻』です。
もう全部好きなんですけど特に間奏が最高で……たっぷりと40秒ほどを費やして、溜め→解放のカタルシスを味わわせてくれます。いっちばん気持ちいいラスサビへの入り方だと思う。
もしよかったら、この曲を聴きながらnoteの続きを読むというのはどうでしょうか、なんて。
なにしろ今日の本題は、この曲を原案とした小説『噓つきウサギと銀の檻』(著:西台もか)――に関連するお話なので!
※ややこしいので先に説明しますが、以下の文中ではアリス=デスゲーム内での配役のひとつ、アリサ=主人公(の本名)を指しています
あらすじの通り、小説『不思議の国のアリス』を模した世界でのデスゲームものです。
2015年刊行の本で、存在はわりと前から知っていたんですけど。
いわゆる『ボカロ小説』――合成音声楽曲を原案にノベライズ(小説化)した本の中でもちょっと珍しいことに、少女小説メインのレーベルから刊行されていて。当時あんまり触れたことがなかったジャンルだからとうだうだしている間に絶版になり、中古品もプレミア価格がつき(今webで検索したら唯一あった中古品が3万円だった)、読めないままになってしまって。
しかし時は過ぎて2024年。焼きそばさんは電子書籍版の存在に気がつくのであった――。
というわけで、無事に読むことができました。もっと早く気づきなさいよというのは置いといて
面白かったのでわーっと詳しく語りたい……と思ったんですけど、今回はミニサイズの感想と、『いわゆるボカロ小説としてどう思ったか』に絞ってお話しします。今ちょっと作品の感想がうまく書けなそうというか、話したいことはいっぱいあるのにいざ書き始めたら物語の設定をだらだら綴りすぎてすごく淡々とした文章になっちゃったので……。ごめんなさい。
まずミニサイズの感想から言うと、全体を通して面白いうえで、中盤~クライマックス直前までの盛り上がりがすごい。わりとすぐに回収される細かい謎と、回収されたときにちゃんと納得がいく形で前半にさりげなく伏線を撒いたうえで明かされる、驚きの事実。このふたつが連打、連打で襲いかかってきたうえに心が熱くなる展開や感動的なサブストーリーもあって、満足感が高かったです。
あとねー、141ページのとこがめっちゃよかった。自分の気持ちをちゃんと持ってるのに今までそれをうまく表せなかった女の子が、勇気出して自らの意思で動くシーンが大好物なわたしもにっこり。
若干気になったところも挙げると、ストーリーの着地でちょっとだけつまづいた感じはあります。ラスボスとの対峙~決着~エピローグまでのシーンですね。ちゃんと盛り上がるようにはなっているんだけど、唐突に出てきた○○(ネタバレ回避のため伏字)要素にあまり必要性が感じられなかったり、(物語を通して得たものをぶつける意味では)ラスボスの前座と対峙するシーンのほうが主人公にとってより大きな戦いのように見えたりなど、思うところはややありました。
あとなぜとは言えませんが、絶対エピローグには主人公がお母さんと会話するシーンがあったほうがよかったって~~~。
それと、少女小説のレーベルであることや主人公以外の主な登場人物がみんな男性なことから恋愛要素を期待して読む方もいると思いますが、このお話にラブはないです。少なくともわたしは感じなかった。主人公アリサと相手役『白ウサギ』の純粋な友情はあるし、それ自体はバディものとしてめっちゃよかった。
改めて言いますが、ひとつの物語としてすごく楽しめました。頭脳戦・デスゲームもの要素も、タイムリミットや(アリスを除く)参加者に授けられた『能力』と『ルール』を巡る駆け引きなどが緊迫感あって面白かったんだけど、どちらかと言えば主人公の成長物語として読んだかな。
単純なお話の感想としてはここまで。このあとは、ボカロ小説としてどう感じたの? について書いていきます。もうちょっとだけ続くんじゃ。
ボカロ小説としての感想
結論から言うと、うまく意味を持たせて丁寧に、かつできるだけ多くの原曲要素を拾おうと努力されているのがわかるし、その試みの半分くらいは成功していると思う。でもそこまで無理して拾わなくてもよかったんじゃないかなー……という感じです。
ボカロ小説としても間違いなくよかったのはよかった。けど言いたいこともある、みたいな。
原案・骨盤Pのコメントからもある程度察せられますが、原曲である『噓つきウサギと銀の檻』の歌詞やイラストなどを見て明確なストーリー・世界観設定を思い浮かべられるかというと、個人差が大きいように思います。少なくともわたしの場合は『女の子が檻の中に閉じ込められていて、なんらかの刑の執行が迫る中助けを願っている』程度の推測が精いっぱいでした。どういった経緯で檻の中に? とか、『確信犯が夢を覚ます』の意味とは? とか、想像するしかなさそうなことはいっぱいある。
もちろん1曲の中で届けられる情報には限界があるし、そもそも詳細に書かずになんとなくの雰囲気だけを提示してあとは聴き手の想像力を信じる、というのもひとつの選択肢です。この曲では、言葉で全体像をはっきり出さなくても、イラストや曲自体とも相まっていい感じのシリアスで閉塞感ある雰囲気を醸せている、とわたしは思いました。
だからこそ、明確な物語音楽とは言いづらいぼやーっとしたイメージで書かれた楽曲を、小説という言葉を尽くして描き出すことが可能な媒体で構築し直す(あるいはエッセンスだけ残して新しい物語を綴る)のは、相当なむずかしさがあるはずです。わたしも一応物を書くひとですし、なんとなくの想像はできます。
小説『噓つきウサギと銀の檻』では、原案となる楽曲のエッセンスを引き継ぎながらまったく新しい物語を綴るための方法として、
①(おそらくは)原曲の『ウサギ』とイラストにある懐中時計などから『不思議の国のアリス』を連想し、世界観のモチーフに据える
②(デスゲーム要素を盛り込むことをどのように思いついたのかは推測しかねますが)歌詞の一部をデスゲームの設定と主人公の性格・生き方に組み込んで、ストーリーの骨格を形作る
という過程が踏まれているように思います。
たとえば、タイトルにもある『銀の檻』は、デスゲームによく出てくる爆発する首輪的なものの名前として。……爆発はしないですけど。
一連の歌詞を締めくくるフレーズである『助けてよ 月が無くなる前に』は、『「白ウサギ」が持っている懐中時計に彫られた月の意匠が、時間経過とともに欠けていく。アリスは月が完全に欠ける前にこの世界から脱出できなければゲームオーバー』という、ゲームのタイムリミットとして。
そのほか、『愛されたくて演じ続けて 残ったものはくだらない嘘』というフレーズが、主人公アリサの性格・在り方にほぼそのまま投影されていたり。丁寧に拾い上げられた歌詞が、物語を魅力的に動かすための大事な部分として活かされている箇所は多くありました。
ただ、引用された歌詞と該当シーンの状況が微妙に合っていない箇所も同じくらい多かったのが……。
ひとつだけ例を挙げます。『教えてよ此処を抜け出す術を チープな言葉なら最高』というフレーズが以下の通り引用されているんですけど。
「あんた、これからは俺の言う通りに動きな。そしたら、無事の帰宅は保証してやるよ」がチープな言葉なのかと訊かれたら、少なくともわたしは『要審議』の札を挙げると思います。
あと、歌詞に使われている言葉が比較的堅めなのに対して、小説の地の文やセリフは少女小説に似合ったほどよく軽めな感じなので、歌詞引用の部分だけが微妙に浮いているのも気になりはしました。
ちゃんと意味を込めたうえで、少しでも多くの歌詞を、できるだけそのままに近い形で拾おうとされたのはうかがえるんです。
以下に原曲の歌詞を載せますが、そのうち太字が小説に引用されているフレーズです。あくまでわたしが見つけた範囲での話なので見落としがあるかもしれません。あらかじめご了承ください。
歌詞内に繰り返しのフレーズがあるので正確な値ではないかもしれませんが、『噓つきウサギと銀の檻』の歌詞のうち、小説で引用されていたのは349(文字)/489(文字)=約71.4%でした(小数第3位四捨五入)
物語に沿ったうえでこれだけの歌詞を拾おうとすると、無理のある個所もいくつか出るのはまあしょうがないのかなって……。半ば無理やり拾ったように見える箇所もいくつかあり、『そこまでがんばらなくても、「なんとなく歌詞を連想させる箇所がいくつかあるな―」くらいでよかったと思いますよ!』という気持ちに個人的にはなってしまいました。
先述した通り、丁寧に拾い上げられた歌詞が、物語の大事な部分にうまく活かされている箇所は多かったです。また。息もつかせぬ疾走感、どこか張りつめた空気が終始漂うところ、閉塞感といった、原曲にある(とわたしが感じている)要素が小説にもよく出ていたと思います。なのでボカロ小説としてもめさめさ褒めたい気持ちはあるんですけど……やっぱり、楽曲を小説のかたちで再構築する、あるいはエッセンスだけ引き継いでまったく新しい物語を綴ること自体、とても繊細なバランス感覚の要るむずかしいことなのかな。そう思ってしまいました。
わたし自身、ボカロPのnogiさんが『envysion』という曲を投稿された際に、盛り上げ企画のひとつとして二次創作小説を同時投稿させていただいた経験があって、楽しかったと同時に楽曲→小説の派生創作のむずかしさを感じました。このときは『明確なストーリー・設定のある楽曲を二次創作する際、原曲(とその関連楽曲)のストーリーや歌詞をただなぞる形になってしまった』という、今回取り上げたのとはまた別の理由でつまづいたんですけど。
(イラスト・動画なども含めた)原曲の世界観・雰囲気や言葉。
(挿絵なども含めた)小説としてのより深掘りされた物語性、小説としての言葉。
このふたつを境目なく、まるではじめからひとつであったかのように融合させ、魅力的な物語を作り上げる。そのむずかしさを感じながら、今回の感想の〆とさせていただきます。
いろいろ書きましたけど、ほんと楽しくてわくわくする読書体験でした! もし気になった方がいましたら、ぜひ電子書籍で読んでみてくださいね!
あと、ボカロリスナーアドベントカレンダー2024も引き続き楽しんでいってくださいね。いろんな方がバトンをつないで、クリスマス当日まで続きますので!