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「人工子宮」について

人工子宮について書きます。


人工子宮を、胎児が正常分娩されるまでの発生段階まで成長させる装置として、定義しています。
現在でも存在する、未熟児を保護,成長させる機械のように、受精卵の段階から母体の外で発生させる機械のイメージです。

1. 人工子宮の必要性

人類は再生産率が低下し人口が減少するという、人類始まって以来の危機に瀕しています。
環境要因や病気などで、人類が減少あるいは人類の集団が絶滅したことはありました。ただ、生まれてきた健康な全個体が生存可能にも関わらず人口が減少することは、人類史で初めてでしょう。

人口子宮は、この人口減少という危機の救いになりうるでしょう。
現在の日本で少子化が進んでいる原因としては、妊娠と出産の時間や肉体面での負担が大きいこと、あるいは生活の中で他にもやれることが多くなったことなど、いくつか挙げられるでしょう。
そして人工子宮で妊娠と出産の負担をなくすことは、再生産率を上昇させるはずです(人工子宮が導入されても再生産率が上昇しなければ、現存人類を不死にするか絶滅するかしかありません)。

人工子宮には他にもメリットがあります。
以前の記事でも少し触れましたが、男女平等を進めて男性と女性が同等に育休をとり、育児を行えるようになったとしても、妊娠と出産を女性のみが行っていて完全な男女平等が実現することはありません。
妊娠と出産を行う女性と行わない男性という、ある種の性的二型を克服しなければ完全な男女平等は実現しません。
そのため完全な男女平等を目指すのであれば人工子宮が不可欠です。

2. 懸念点

しかし人工子宮には懸念点や反対意見もあるでしょう。

第一に倫理的な問題です。
人工子宮を実現するために、胎児を実験体のように扱っていいのかという問題など倫理面には議論の対象となる多くの問題があるはずです。
また母体内で発生した児と人工子宮で発生した児で差があったり、正常な発生を辿らなかったり、という課題も当然クリアされるべきです。

また遺伝子操作などをされたときに気付けるか?という点もあるでしょう。
人工子宮では胎児が母体の外に出る以上、何らかの操作を加えられても気づくことができません。デザイナーベビィのように遺伝子操作を加えられたり、逆に塩基配列を無断で取得されたりしても気づくことができません。
さらに取り違いにも気付けないでしょう。

時間スケールを拡大してみると、生殖能力の問題も挙げられます。
人が人工子宮で再生産を続けると、現在必要とされている生殖に関する遺伝的能力の一部が失われるでしょう。人が永続して人工子宮で再生産する、もしくは(ディストピア的ですが)生殖に関する遺伝的能力に悪影響を与える変異を持った胎児を排除する、などであればこの問題は無視できるでしょうが、そうでなければ検討の必要があるかもしれません。

遺伝的能力でなくとも、人工子宮での再生産のみが行われるようになり、現在存在する妊娠と出産のノウハウや技術が失われると、文明崩壊後など人工子宮が使えなくなったときに再生産ができず絶滅することになりかねません。

このようにパッと思いつくだけでも多くの問題があります。他にもいろいろあるはずなので思いついたら是非コメントとかもしてみてください。

3. 懸念点への反論のようなもの

私は人工子宮を進めたい訳ではないです、今のところ人工子宮に対する態度を決めかねていますが、導入されるであろうと予測しています。

まず上記の倫理的な問題ですが、一部は解決され、一部は無視されて人工子宮は導入されると思います(自動車も交通事故などの倫理的な問題の一部は無視されているでしょうし、当たり前のことを言っているだけかもしれません)。

人工子宮は社会の生産性を向上させることがその根拠です。人工子宮があれば、女性が妊娠と出産を行わなくていいため、本来妊娠と出産で仕事などを行えていなかった期間も仕事できるようになります。これは社会の生産性を上昇させるのは間違いありません。
さらに人口減少という今後多くの先進国を困らせるであろう問題も克服できます。そのため、人工子宮を導入した社会と人工子宮を導入しなかった社会では前者が後者より優先となります。

ある1カ国が倫理的課題を無視して人工子宮を試験的にでも導入することは十分に考えられます。数年前にどこかの国でデザイナーベビィが誕生したというニュースもあったはずです。そしてそのような1カ国が誕生すれば、その国に遅れを取らないよう、なし崩し的に世界各国で人工子宮が認可,導入されると私は予想しています。

また生殖能力の問題も無視あるいは乗り越えられるでしょう。

そもそも数世代から数十世代で、生殖に関する遺伝的能力が集団から完全に失われることは(変異率や淘汰圧を考慮すると)ないように思えます。人には今でも尾骨や虫垂が残っています。

また遺伝的でないノウハウや技術も記録としては残されるでしょう。
そのノウハウや技術も実際に使える人が残っていなければ、文明崩壊など何らかの要因で人工子宮が失われたときに再生産できなくなりますが、この問題も無視されるでしょう。
実際に現代の技術の多くが、文明崩壊を想定していません。文明が崩壊し電気やガス,水道が失われたときに我々は同じものを再構築はできないでしょう。

電気やガス,水道は人工子宮と異なり、生存と再生産に不可欠でないという意見もあるかもしれません。
確かに電気やガス,水道が失われても一部の人間は知恵と知識で生存し再生産する可能性は高いです。

ただ人工子宮のように、肉体を代替し、生存あるいは再生産に重要な機能を代替している技術もあります。例えばメガネやコンタクトレンズです。

メガネやコンタクトレンズを使用している人で、文明崩壊後の心配をしている人はほとんどいないでしょう。文明が崩壊し、コンタクトレンズが新たに作れなくなったとき、生存に重大な支障が出うるにも関わらずです。

だからこそ文明崩壊後も残った人が何とかしてくれるだろうくらいにしか考えず、この問題もスルーされていくと考えています。

あとがき

人工子宮について書きました。

人工子宮なんてあり得ない、という考えを持っていたのですが、肉体の機能を代替しているという点でのコンタクトレンズとの類似性に気付き、人工子宮の可能性について考えさせられるようになりました。

私はコンタクトレンズを常用しています。ただ文明崩壊後の心配をしてメガネも持っています。文明崩壊後もメガネくらいなら、頑張れば同じものを作れるかもしれません。コンタクトレンズは間違い無く作れません。
その点で、私は文明崩壊後の心配をしている少数派かもしれません。

ただ世間一般はそうではないのでしょう。
そもそも技術というものは、一から再現できる形を保持したまま発展していくものではないのでしょう。現在のインフラも技術も、一度失われたら再現できないように思えます。

あとあとがき

最近センシティブな記事ばかり書いている気がします。

メガネ,補聴器,人工透析,ペースメーカー,人工子宮…
次は何でしょうか。脳が培養液に沈むようになるのでしょうか。
人類の発展の仕方はいろいろあると思いますが、肉体と物質とどう付き合っていくか、どう離れていくかも気になります。
このことについても書いてみようかな。

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