歩くとその街を好きになる

 「いまの子は歩かなくなったよね。歩かないと街を好きになれないよ」。先月上旬に松本城を訪れた際、来館をもてなす「おもてなし隊」の足軽のおじさんに言われた一言だ。どこから来たの?と問いかけられた自分たちは、「東京」と答えた。すると、「東京の田舎?」と問い返される。一瞬何を言っているのかよく分からなかったが、その後のやり取りで質問の意図がなんとなく理解できた。東京といってもいろんな場所があって、東京のどこから来たのか。自分の住んでいる街が好きであれば、東京とは答えないのではないかと。わずかに話をしただけだったが、とても印象に残る一言だった。

  松本を訪れた翌週、北鎌倉~鎌倉を日帰り旅行した。現地での移動のほとんどが徒歩だった。歩いている中で何を感じるのか、足軽のおじさんに言われたあの一言を自分なりに消化するのが、旅の副題になっていた。
 最初に訪れたのは、明月院。境内には竹林が豊富に植えられており、歩いていてうっすら竹の匂いを感じる。そして本堂前の枯山水庭園周辺を歩いていると、自分が関東にいながらも、京都にいるような感覚だった。じっくり歩いていたからこそ、得られたものだろう。

 午後は、北鎌倉から鎌倉に向かう道中で海蔵寺、寿福寺を訪れた。途中、至る所で岩肌にぽっかり空いた穴の中には墳墓を見かけた。「やぐら」は、鎌倉時代中期から室町時代に造られた、独特の墳墓だという。歴史的な建造物である城や寺も、当時のまま現存されているものは数少ない。しかし、このやぐらはきっと、造られた当時のままいまにも受け継がれていると思うと、1000年前にタイムスリップしたような気がした。戦乱の激しかった時代、どんな思いでやぐらを建てたのか。供養された方は、いまの鎌倉をどのように見ているのだろうか。もし車で移動していたら、この墳墓は見つけられなかったはずだ。

 24,035。この日帰り旅行一日で歩いた歩数だ。鎌倉周辺を歩いていると、住宅、商店で個性的な建築物が目立った。高い建物も少なかったので、街全体が整っている印象も受けた。歩いたからこそ感じられた、街の空気感や時空を超えた感じ。歩くことは、何かをつなげる役割があるのかもしれない。この日、歩いた分だけ鎌倉を好きになった。

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