日本での自己啓発書の歴史のおおざっぱな流れ -2- 6/15
マーケ手法自体に善悪はないということ
前回のnoteで、マーケ手法には善悪はとりあえずないという話をしたと思います。で、今回は、じゃあなんで自己啓発本は宗教のように見えるのかという私見を話すまえに、日本のビジネス書の簡単かつ雑な歴史と、そこから見える現代ビジネスマン像について書いてみようと思います。
日本での自己啓発書の歴史のおおざっぱな流れ
実はこれも10年ほど前にビジネス書の隆盛について気になっていまして。どんな風潮があるか、その思想的バックボーンは何かなんかをざっと調べて新書でも出してやろうかと思ってたんですけど、持ち込んだ編集者の方がさらっと転職されて、調べたメモだけ残して立ち消えになってたんでね。ちょっと供養ということでメモ見ながら書いております。
で、超ざっくり日本の自己啓発本の歴史をここ2-30年振り返ると、こんな風になります。
80年代 バブル・ 経済評論家・作家などの生き方指南、老子・孔子など。処世訓が多い。朱子学的。(注記・80年代は「何年代から始めようかなー」と考えながらすげえ適当にかいたものなのでダメダメです。藤田田、山本七平……いっぱい出てくるので、「他の年代のこと考えながら上の空で書いたな」とスルー読みでもしていただければ幸い)
90年代 バブル崩壊・ 海外発のビジネス翻訳書大量刊行「マーフィーの法則」などが注目される。「痛快!経済学」など再入門書が売れ筋。
00年代 ITブーム・ 新書ビジネス本ブーム「さおだけ屋」など、仕組みを簡便に紹介。業界地図。 後半はドラッカーブーム。「もしドラ」 。脳を使う本(脳科学…?)もブーム 金持ち父さん貧乏父さん! スピリチュアル系の勃興
10年代 年収の伸び悩み・ビジネススキルをどう伸ばすか系書籍の伸長 勝間和代 スタンフォード集中講義
現在 箕輪本 Newspicks関連 スキルからマインドセット・ポジティブシンキングへ 「重厚な本」とみなされるのは海外の翻訳書へ
これだけで、ざっくり日本の一般的な社会人が何に困っていて、それに対して、経営側・執筆側がどんな回答を与えたいと思っているのかが透けて見えます。
80年代くらいまでは、司馬遼太郎の一連の作品を読んでおくのが一種の教養的な役割を果たし、邱永漢が帝国を築く。あとは竹村健一とかの自慢話。海外に目を向けるとうっかり落合陽一のお父さん。老子・孔子も強い。「教養」という言葉がまだ力を持っていた時代に思える。バブルを迎え基本的に好景気の中、目の前のテクニックより将来立身出世したときの足腰を鍛えるという感じ。(注記・80年代は「何年代から始めようかなー」と考えながらすげえ適当にかいたものなのでダメダメです。藤田田、山本七平……いっぱい出てくるので、「他の年代のこと考えながら上の空で書いたな」とスルー読みでもしていただければ幸い)この辺りを知るなら、『「ビジネス書」と日本人( https://www.amazon.co.jp/dp/B00FFRZEY0/ 』)あたりがいいっぽいです(未読)。
90年代は、バブル崩壊で一気に日本経済が軟調に。それなりに頑張れば出世するという幻想が壊れ、給与もポストも頭打ちに。巷には就職浪人が溢れた。自分のせいではない経済の動きでワリを食う人が増えたためか、社会・経済の「仕組み」を知ることで難局をサーフィンのように乗り越えようとしたのか。
00年代は、ITブームによって「うまくやった奴」が出てきた(堀江貴文)。海外のITムーブメントを一足早く吸収し、日本で展開することは、未来を知り勝つために必要なコトだ! 「伽藍とバザール」とか色々出たね(良書)。ビジネス書に横書きも増え、図解や線引きなどグラフィカルにもなってきた。90年代の「仕組み」再入門から、図版を大量に使った「業界地図」へ。制作にかかわったけど死ぬかと思った。
10年代は、ITブームもひと段落。堀江貴文も塀の中へ。勝ち組負け組が確定したかのように思え、給与はこれから上がる見込みもないことが明らかに。業界的にオイシイポジションや、成長セクターにいれば成功できるかもという「仕組み」期待も縮小化。それでもいい暮らしがしたい! なら個人で強くなれ! のスキル信仰が隆盛を極める。企業にも負けないスキルセットを獲得すれば、グローバル世界で対等に渡り合える! そう勝間和代のように! また、社会で活躍するスキルや能力を身につけるには日々の生活習慣も大事!と急に朱子学も復活。やれることがすくなくってきたから精神の問題にするしかないんだね。近藤麻理恵の「人生がときめく片付けの魔法」、10年後アメリカで大きくトキメク。
20年代 勝間和代のYoutubeは猫好きの憩いの場に(超かわいいからオススメ)。スキルセットと言っても、万人がそんな企業と渡り合うなんて難しい。しかもスキルで効率化しても、効率的に安月給で企業に使いつぶされるだけなのでは? そもそも企業もGAFAに負け続けて「企業」という言葉にも魅力ないよね。企業を通さず自由な生き方で人を組織して、自己実現とお金儲けを一緒にしちゃおうぜ。ええと、昔の暴走族の親玉が国道沿いに中古車センターやって地元でブイブイ言わせているように! GAFAのシステム使って、GAFAのアフィリエイトシステムで広告費ももらおう。GAFAの掌の上? それでも日本企業噛ませるよりは自由でしょ! そのためには、ヤンキーのようにここ一番を決断し、人生を賭けることのできるマインドセットや! 生き方から再定義しよう! 父親と母親は終活本買ってる!
あ、あと心理学も知ってれば人の心も操作出来てオトクかも! 例えばメンタリストって言葉知ってる? じつは手品の1ジャンルのことなんだけど、メンタルってついてるから心理にも強そうじゃん? こんな誤解を駆使して心理学と臨床心理学の区別もつかない子たちを相手に成り上がろう!
経済で負け続け、どんどん、逃げ場がなくなっていき自己啓発が残った
というわけで、日本のビジネス書の流れはざっくりこんな感じだと思います。一朝一夕では金にならない足腰を鍛える「教養」なる言葉が一定の価値を持っていたのは、高度成長期とITバブル期の一瞬(山形浩生・新教養主義者宣言)だけ。
あとは目の前で負け続ける経済に翻弄され続け、上がらない給料、見えない将来像に怯える姿が見えてきます。ついには、「歴史」を知っても勝てない(80年代)、「日本の経済の仕組み」を知っても勝てない(90年代)、「海外の潮流」を知ってもすでにGAFAが時間差ナシで勝負をかけてきて、企業も勝てないのに個人が勝てるわけがない(00年)、じゃあ、GAFAのシステムに乗っかりつつひとまとまりになる人を組織してその中でいいポジションをゲットする面の皮の厚さ、じゃない、マインドセットをゲットするしかない。ツライね!
こんな状況に対して、執筆者側はどんな託宣を読者に与えたんだろうか? それぞれの信念に基づいたオリジナルな回答? いいえ。現在流通しているビジネス書の裏に流れる思想は、孔子には儒教のバックボーンがあるように、いくつかのバックボーンに分けられていている。次回はその典型例を紹介していこうと思うよ。
本日はこの辺で。
久保内君になにかあれば、マシュマロを投げつけてもらえれば答えたり答えなかったりします。あと、久保内君も不安定な日本の負け組からファンを組織して何とか生き延びたいようですので、TwitterやnoteのフォローやRTをしていただけると喜びます。
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