オルタナティブスペースと吹き溜まりとしての湖について──「オルタナティブ」についての哲学対話
この文章は、2024年10月26日に行われる哲学対話のイベントに合わせて書いた文章です。
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puoy(プーイ)は、ギャラリー・劇場・カフェを備える「北千住BUoY」に集まったメンバーによって立ち上げられた活動であり、現状(2024年10月)は無人販売所を表現の母体としている。発起人の一人である増田義基(作曲家・サウンドデザイナー)は、puoyは湖でもあると述べている。東南アジアに同名の貯水池があるという事実もあるが、それだけには収まらないコンセプチュアルな着想が込められている。
1.オルタナティブと不可視化されたサポート
puoyに集まったメンバーは、それぞれの意識や用いる言葉は異なりつつも、現在の世界とどのようにして折り合いをつけて生きていけるのか、ということをゼロベースでそれぞれの技法を通して考えている。積極的に使うわけではないが、それぞれがたどってきた道筋の影響もあり、会話の中でも「オルタナティブ」という言葉がよく出てくる。
少し振り返ってみると、2000年代から2010年代にオルタナティブとして活動していたアーティスト・コレクティブやアートスペースのモデルについて考えてみると、集団でありながらも一人のリーダー的な存在が前景化していることが少なくなかった。カリスマ性のある個人によって推進される集団や運営されるスペースは、観客にとっては独自の吸引力を持ちながらも、内部からアーティストやスタッフとして支える立場にある人間にとっては両義的な立場に置かれることも多い。カリスマ性のある一人の個人によって成り立つ集団は、その代償として不定形で不安定性に満ちた労働を背後には抱えることになり、それをサポートする人間が必ずいる。そこでは、対価の不透明性ややりがい搾取といった、昨今では社会に定着した言葉に代表されるような労働の問題が不可避的に生じる。一つ付け加えておくと、「オルタナティブ」や「コレクティブ」といった言葉はあまりにも多義的であり、全ての集団やスペースについて同じように言えることはそれほど多くはない。ここで書いていることは、わたしがたどってきた道で見えたことに限定されていることを断っておく。
不安定性は、既存の形からは生み出されないような偶然性による創発の源になることもある。同時に、成果の質よりもプロセスにおける負荷の方が高く、関わった人の負担だけが高かったという末路に結びつきもする。
2010年代のオルタナティブが関わる個人に不安定な状態を強いることや、弱い立場にある者の不可視化されたサポートを必然的に内包することでしか成り立たなかったのだとすれば、2020年代には別のモデルを考える必要がある。こうした動機が、puoyの活動の出発点にはある。
2.オルタナティブの吹き溜まり
「puoyは湖である」と増田が述べる時には、BUoYが7年程の運営を経て、スタッフ、観客、利用者たちがたどり着いた地点という意図が込められてもいる。puoyは、BUoYスタッフ間のつながりであったり、観客/利用者とスタッフのつながりをあらためてつくる役割を目指してもいる。
puoyの無人販売所には、現在スタッフやその知り合い、BUoYの利用者たちが作成した書籍、作品集、zineなどが販売されている。BUoYというスペースがあったことによって生み出された関係性を、創作物を通してつなげながら維持していきたいという思いがpuoyのメンバーにはあり、増田がpuoyを湖に見立てる時には、言わばBUoYに集まった人たちの吹き溜まりとしての湖という機能が託されている。
オルタナティブはその定義上、いつか役割を終える。スペースの終わりと同時に人間同士の関係性が無くなってしまわないためには、別のかたちの吹き溜りとして機能する場が用意されなければならない。それが、2020年代の世界でオルタナティブが維持されていく、一つの方法であって欲しいと思う。(文:長谷川祐輔)
開催概要
日時:2024年10月26日(土)19時
場所:都内。申し込み頂いた方へお知らせいたします。
参加者:増田義基、植村真、小野愛、他参加者のみなさま。
ファシリテーター:長谷川祐輔
申込方法:puoy.info@gmail.com、増田、植村、小野、長谷川と知り合いの方は個別連絡でも可。メールの際は、件名に「哲学対話への参加申込」とつけてください。
参加費:無料。飲食物をご持参頂けると嬉しいです。