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88.[小説]ニューゲート

僕は十数年振りにデイケアルームを覗こうとしていたが、顔の表情も冴えなくて気持ちも沈み、ただこの場所で休みたいと願っていた。部屋の中では若い青年を中心に数人の男性が談笑を繰り広げていた。僕は自然に青年に目をやると、そこには25歳の純粋に微笑む素敵な人が居たのである。


僕が「国ってつく苗字には立派な人が多いんだよなあ、合わせてくれよ」と幻聴に言う。

「名前は何が良い?」

「航(わたる)が良い、僕が航海の途中のはずだから」


僕と幻聴は、僕の生まれる前の有る世界でこんな話をした記憶がある。青年の名前は國弘航、25歳。リハビリ病院で作業療法士として働いている。働き出して3年目になる。不安も不満もなく順調な人生を過ごしている。僕に出会うまでは。

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