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[小説]いずみちゃんはとても良い人だったのである
近所に岡村さんという4人家族が住んで居られた。次女をいずみちゃんといった。とても穏やかな人で、一緒にいると落ち着いた。
小学校の3年生の頃にお手紙のやり取りをしていた。内容は晩ごはんはどんなもんを食べたとか、テレビでこの後こんな番組を見るとかである。僕は手紙のやり取りをしている間、いずみちゃんのお父さんのことが気になっていた。手紙のやり取りをして怒られないかと思ったのである。今だったらお父さん何してると直ぐに聞くのにな。
いずみちゃんは余り話さなかったので、僕がいつも気になる事を話していたが、楽しい思い出はこれといって覚えていない。僕は男友達と遊ぶのは苦手なんだとか相談したりしていた。いずみちゃんのおかあさんをひで子さんといい、時々家にあげてくれてご馳走してくれた。カレーやそうめんを食べた記憶がある。僕がもっと小さい頃には夏に簡易プールを出してくれて、お姉さんのみゆきちゃんとも一緒に遊んだ。みゆきちゃんは僕より2つ上だったのでそんなに話さなかった。
岡村さんは僕が中学2年生の頃には引っ越されたけど、お父さんは活動的な人で部落のまとめ役をされたり、牛乳配達等をされていた。僕は壁にボールをぶつけて遊んでいたのだけれど、良くおじさんがキャッチボールをして遊んでくれた。僕はピッチャーに憧れていて、ボールに回転をかけたりしていた。おじさんはボールが変化してるぞと話してくれた。ひで子さんとおじさんに会ったのは僕が社会人になる時で、宇部のマラソン大会に出た時である。顔を合わしただけだけどとても懐かしかったし、あの時のことを今でも覚えている。
いずみちゃんとみゆきちゃんに最後に連絡をとったのは、福岡部落にマリンというスーパーがあった。そこに2人がいる事がわかり、父が連れていってくれて、妹が声をかけてくれたのだけれど、僕は自分に自信がなくて恥ずかしくて、顔を合わせて話す事ができなかった。それを最後に2人と会う機会はなかった。今思うと2人と話していた頃の自分はただ何の目的もなく毎日を暮らしている僕で、それは自宅に引き篭もっている今の僕と良く似ているなと思うのである。だから今、いずみちゃんと話すと子供の頃に戻って何も考えなくて良かったあの頃に戻れる気がするのである。何も考えなくて生きられるならそれが1番幸せだよね。
僕の親戚の叔母さんにけいこさんがいて、ひで子さんと仲がいい。時々話を聞かせてくれて、2人の噂話を聞くこともあったけど最近はなくなった。いずみちゃんと何か楽しい記憶があるわけでもなく、僕が大事な事を伝えた記憶もないのだけど、とてもいい人だったのである。だから僕も不安になる事なく、自然体で岡村さんの家の方達と付き合う事ができたのかもしれない。僕はそれと同じものを祖父からも感じていた。祖父の立ち振る舞いがとても良くて、安心して話す為に祖父の家に遊びに行っていたのである。僕の中で生きている人は、出来るだけ良い人で満たしたいのである。