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99.濱口竜介[何でもない日常に、“物語”を見つけるピュアな心。]

ささやかな日々を、つぶさに見つめる眼差し。

「濱口竜介さんの作品との初めての出会いは、台湾の映画館で観た『偶然と想像』でした。役者さんが演じているのではなく、本当にありのままで過ごしているような“ドキュメンタリー感”に圧倒されて、これも映画っていえるんだと大きな衝撃を受けました。それから『ドライブ・マイ・カー』『ハッピーアワー』『寝ても覚めても』、初期に手がけられた『親密さ』など、過去の作品を遡ってハマっていきました」と語るのは、漫画家のGao Yanさん。Gaoさんによれば、濱口さんのすべての映画に共通するのは、日常の生々しさを捉える、独特の目線だという。

『偶然と想像』は、偶然をテーマにした3作品からなるオムニバス。第一話「魔法(よりもっと不確か)」は、親友が運命的な出会いをしたと語るその相手が、自分の元恋人と知った女性の話。「結ばれるであろう二人を残してカフェを後にした主人公が、ふと見上げた空をスマホで撮影する最後のシーンが、とても印象的でした。あぁ私もこういうことするなって。急に日常に戻っていく空気感を伝えるのに、こうやって切り取るのかというのが面白かった」

『親密さ』は、俳優たちが新作舞台を作る過程を描いた前編と、その舞台の上演を記録した後編からなる約4時間の大作。「前編で登場人物たちの関係性も理解した上で、後編を観ると、よりドキュメンタリータッチで、本当に実在する人たちの記録を映しているかのよう。言葉づかいも自然で、いい意味で台詞っぽくない、ただ普通に会話しているみたいなんですよね」

主人公に演技経験のない裏方を抜擢した『悪は存在しない』でも同じことを感じたという。Gaoさんは、なぜその“ドキュメンタリー感”に惹かれたのかを、ゆっくりとひもといていく。「朝起きたときから、私が物語や創作について考えない瞬間はありません。高校生くらいから半分趣味みたいな感じで続けているのが、街を歩きながら、面白いと感じたり、作品に描きたいと思ったりしたことを、メモする習慣です。現実離れしたファンタジーも素敵だけど、私はやっぱり日常のさりげないシーンにこそ面白さを感じていて、手元に残しておきたい。だから、濱口さんの“生活感”のある作品に出会ったとき、強く惹かれたんだと思います。本当だったらこれは映画じゃなくて、もしかしたら誰かのなんてことのない日常だったのかも、と思えるような場面を掬い上げていることに、ひとりの作り手として、勇気づけられたんです」

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