Monkey_sequence.19の“ビートメーカーとJ Dilla”
Table Beats Rec.がお送りするDilla Month企画“ビートメーカーとJ Dilla”
日本のビートメーカーにJ Dillaの魅力や影響を受けた部分などをアンケート形式でお答え頂きます。
Dillaの命日である本日、第四弾は“Monkey_sequence.19”の登場です。
【自己紹介をお願い致します。】
まずは17回目の命日に心から哀悼の意を示したい。Yancey Monthに寄せた本企画、読み手が少しでも新しいDillaを発見出来たら嬉しく思う。当方自身、他の方の回答を読むのを楽しみにしている。さて、しかしながら回答者はその間、過酷な取捨選択に迫られていることは伝えておかねばなるまい。
言うに及ばずこの界隈に住まう人間にとってDillaという存在は兄弟であり強大である。イマジナリーフレンドDilla。其はそこかしこ無数に存在し、今日に至るまでビートのフレンズをファナティックに焚き付け続けている。
そうした手合いの心をブラウズすれば必然最上位フォルダは[Jay Dee][J Dilla]のラベル分岐から始まることになる。令和の常識だ。
多作ゆえ、げに恐ろしきは下位フォルダの細分化といえよう。○○年の…Produceの…Remixの…1stdownの…未発表の…といった具合だ。
余談になるがこの界隈のフレンズ、点集合を形成してはこうした漫談を繰り返す癖を持つ。本種固有の習性である。傍から見れば認識共同体に見えることだろうが当の本人達にとってはフォルダ分岐1つの差異は極大の意味を持つのだから話が尽きようはずもない。
こうして考えると各人各様の仕様で収納されるヤンシーも大変だ。あなたのヤンシー、私のヤンシー。かつて「私は遍在する」と宣うたのはLainだったがいみじくも同じ時代、音楽世界でそれを開始したのがJames Dewitt Yanceyその人だった。文脈とそこにかける思いの数だけDillaは存在する。
だのに、このアンケートは問うてくる。”1つ選べ”と。
択一は他を捨象する行動にイコールだ。結果は、遍在からOneLove世界線への転生を示す。異世界おじさん増産マシーンである。そうであるならばこの酷烈な作業にたまらず「TwoCanWin」と叫びたくなる回答者を誰が責められよう(喜んでいます)。
要するに、以下に記されるものはそうした負荷実験の産物であり、話し手は選択恐怖症を乗り越える道程にある。その為、不安定で不正確な情報が含まれる可能性がありますので用法用量を守ってご笑納ください。
そう、それが言いたかっただけなのだった。他に意味はありません。
素晴らしい企画、感謝申し上げます。Monkey_sequence.19。閑話休題。
【あなたが一番好きなDillaのアルバムは何ですか?】
あなたの人生は何ですか?に等しい極めて難度の高い設問と言える。
Beatmakerのレンズを通せばMaDukes財団からの後期Dillaワークスは隅に置けない。しかしアルバム作品という括りでトーナメントするならやはり「Welcome 2 Detroit / J Dilla」を避けることは出来ないように思う。
7インチボックスも記憶に新しい。Azymuthによる逆転カバーは鼓膜による涙腺のサイドチェインを可能にしている。
【このアルバムの好きポイントはどこですか?】
削いで磨いた”鳴り”の世界。ThinkTwiceな芳醇さ。1枚絵としてのストーリー。Phat kat。貧相なボキャブラを恨めしく思うがとにかくアルバムとしての完成度という意味で“頂”にある作品のように思う。HIPHOPビート群は当然Mintだが、いわゆるレアグルーヴモノの再構築も感嘆する他ない(7inchBOX収録のBrazilianGroove no Drums ver.は前記と同じサイドチェイン機構を実装)。また、先日Remix EPが発射されたB.B.E.はデトロイトサウンドへの畏敬の念であると同時に時代の先を占ったサウンドでもあった。今作は BBE印なシャープで洗練された音の印象。このアルバムに合っていたと思う。
なんでも、ミキシングを担ったTodd Fairallさんは当初Jay Deeを知らなかったそう。初めて彼についての会話を持ったのはQuestloveがきっかけ。
Todd氏の”え、誰それ?”にQuestloveが返したのは”Are you an idiot?"だったとか。(笑) そして続けてThe Rootsのドラマーは言った。
"彼が誰かって?HIPHOPの未来さ"
【ビートメーカー目線で1番ヤバいと思うDillaのビートは?】
これも常軌を逸した難度の問いと言ってよい。ぶわぁっと棚とSSDをRunninした結果、ここではBars & Twistsを推してみようと思う。
【このビートの何がヤバいですか?】
SAMPLEのプリミティブなパーカッションに溶かし込んだミッドばちこん系キックが自分の理想点の一つとなった。中和でもなく飽和でもなく。そう、なんだろう、倍化の術。あるいはそのミキシングが天才的なのでしょうか。
加えて全体の空気。Yancey Boysの聴覚要件を全て充足し、極めて不要なものがない。シンプルな音数でいて同時に極度に空間が張り詰めているという倒錯...なんなんだ。当方にとってはそんな減算系最終上位互換の一つ。
無限にボリュームを上げても一切崩れないし耳疲れしない。Seratoセット販売なんてしやがってこのやろう。
【リスナー目線で1番好きなDilla関連の曲は何ですか?】
いよいよ度を越えた質問と言わざるを得ない。
この手の問いに窮した時は日本人として次を推すことにしている。
「Nothing But Your Love (Jay Dee remix) / Toshi kubota」
【この曲の何がヤバいですか?】
柔らかく、しかし芯がありズ太い。そういう話じゃなくてキックのこと。
そしてロービットでファットなスネア(再現不能)。後期プロダクションに繋がる完成されたドラムセットが聞ける。トシのボーカルを迎えるべく敷かれたレールはピアノフレーズとベースの一音。はい、もうソウルネス。これが凄いのだ。さらりとベース一音で転調もしてみせる(学問的なことはわからない)。日本家庭必携の1枚。
【あなたがDillaのビートから影響を受けた部分はどんなところですか?】
体現の程度や意識的に取り込んでいるかは別途留保いただくとして、第1にはグルーヴではないかと思う。しかしこの便利ワードをどう説明したものか。例えばグリッチよろしくミッドロウ付近を刻む極短のベース音、ショートなキック。時に消え入りそうなハット。(実はハットをビタでカットせずに余韻ノイズを引き摺ることも鍵だったりする。)これらは例の前のめりな“ノリ”を生成し、また同時に逆の理念で挿入される音像(長めのベースサウンドとか)をより刺激的に際立たせる。ぶっとさの秘訣の1つだと思う。方向が違う気もするが言語化を試みてみる。
例えば「ブドゥッン」ていう1拍目にかけての音。この時点で試みは失敗しているような気もするが続ける。「ブ」はキックのように超短く挿入されるベース。次の「ド」は1拍目本体のキック。「ド」が硬く全身の表皮を打ち抜き,踵を接して「ゥッン 」という低い振動を運ぶ(Qtip曰く"もっとボトムを上げろ"ってやつ)。連続で鳴らすと「ブドゥッン」。まぁ落ち着け。「ドッ」は他に「ボッ」や「ゴッ」というレパートリが存在する。一応断っておくが当方は未就学児ではない。このグルーヴを支配する理は個人的にミスターの”OntheOne”と軌を一にしているように思う。特に中期プロダクトに顕著である。本質は「オフビートであること」ではなくて、それを結果「オフビートに感じるかもしれない」しってこと。そして一番はやっぱりドラムメイク(及び音の重ね方)。これは本当に意味が分からない。太くて硬いあれのこと。Bob Powerをして「Jay Deeサウンドはキックとベースの住み分けが完璧に処理されていた」。…ボブ、詳細を一緒に書いてくれーーー!
特に後期から晩年にかけてのドラムメイクは完全に他と次元を異にしており、今以て最新鋭の領域展開だ。この頃になるとブドゥッンの「ブ」する必要がないほどOneの破壊力が半端なくなってしまった。人間の頚椎が耐えうるギリギリのラインだろう。ちなみに、レイヤーで言うとキックが下の場合とベースが下の場合がある。そういう視点で聞いてみるのも面白い(すると識別不能な融合も出てくる…)。
極端な例でいくとSlum VillageのFat Cat Song。時おり座布団のようなベースがボトムに殴り込んでくる。いずれにしても、特に後期は凄まじく、キックがベースをミートした瞬間世界はぶっとぶことになる。果たして彼が存命していたらどこへ向かったのだろう...今でもそう思わざるを得ない。
【あなたが作ったビートでDillaの影響が強いなと思うものを一つ。】
好き放題筆を滑らせてしまった人間を迎え打つ
「ならお前の手札見せてみろ」という漆黒のカウンター。この設問、人外の闇を湛えている。恐縮千万(盤)ですが以下を挙げさせて頂きます。
「Detroited / Monkey_sequence.19」
【この曲のどのあたりにDillaの影響が出てますか?】
お読みになっている諸兄は造詣の深いDillaニキ(&ネキ)であると思われるがその諸兄等に向かって「Dillaのここを意識しました!」と告白しなければならないという。この設問、実に業が深い(このフレンズは喜んでいます)。
どこが、というのは難しいのだけれどコンセプトがあった。先述のBigBootyExpress的感覚論、いわばB-BOYビートダウンから出発しそいつを後世のローハウス的トンネルにくぐらせる。ここで一度数ヶ月の熟成に入るのだが(笑)最後は思い切りが大切であるとハッとし(往々にしてそうだが)軽く炙ってビートミュージックに仕上げた。そんなイメージ。
そうそう、このコンセプトにはK.I.S.Sの相方”ファッショナブルHIPHOP方言集”ことstillmomentが深く関与している。自称Low Budget Crewの氏は実に様々な格言を残しているがこの着想はその1つ「全ての道はデトロイト交差点」に端を発している。趣向はいつでも”ありうべからざる今を見ろ”ということのようだ。
【最後にDillaにまつわるエピソードでお気に入りを教えてください。】
Dillaのスタジオエピソードはどれも興味が尽きない。
最近読んだDave Cooleyのインタビューも面白かった。出典は忘れてしまったけど同じくスタジオエピソードで彼のエンジニアへのオーダーセンスがピカイチだったのを記憶している。曰く「赤ちゃんの髪の毛一本分上げてくれ。」
最後に。仙台人として語っておきたい。かつてmixiなるソーシャルスペースがあった時代のこと。当該サービスのユーザープロフィールは固定の設問から構成されていた。“出身地”やら”名前”やら”好きな○○”的なあれだ。当時高校生の当方は、いの一番にMitsu The Beats氏をフォローしに飛んだ。
すると氏のプロフィールにはこうあった。
「好きな言葉:J Dilla」
してやられた。こうして仙台へ移住したのであった。
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