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フーガの魔法?
25年くらい休んでいたピアノを本格的に再開して2年が経過。25年も休んでいたのだから、以前ほどに弾けるようになるにしても何年もかかるだろうし、苦労するだろうと思っていた。なので、あまり自分にプレッシャーをかけず、とにかく音楽を楽しむことを大切にしようと思ってやってきたが、正直なところ、思ったよりもはるかに弾けるではないか…と驚いている。レッスンにも通っておらず、完全に独習にも関わらず。
今年の4月から、J.S.バッハの「半音階的幻想曲とフーガ」BWV903をさらい始めた。かつて一番熱心にピアノを弾いていたころに、ちょっとだけ手を出したもののすぐに挫折した曲。買っただけで放置している楽譜は他にもあるが、これはどういうわけか「挫折した」という記憶がはっきりある。今回は、あまり深く考えず、せっかく楽譜があるからとりあえず手をつけてみるかという感じだった。
昨年、自分にとってはけっこうな難曲の譜読みを始めるとき、ムーンプランナーという手帳を使っていた。ムーンプランナーは、新月〜満月までで見開き2ページ、次は満月〜新月までで見開き2ページと、だいたい2週間ごとに見開きになっている。そこで、見開きごとに2ページずつ譜読みを進めようと決めた。かなりのんびりしたペースだが無理がなく、前に譜読みしたところの復習をするゆとりもあり、しかも事前にいつごろ最後まで譜読みが終わるのかがわかるので、途中で焦ることもない(これ大事)。
BWV903も長めの曲なので、同じペースで譜読みの計画を立ててみた。予定どおりに譜読みを進め、その後は弾きづらいところを繰り返し練習していたら、ある日突然「かなり弾けているのでは」と感じた。暗譜も夢ではなさそうだし、いきなり誰かに「今ちょっと何か弾いて」と言われたらこれを弾けばいいかも、と思えるくらいになっていた。
それで、次にさらうバッハの曲を選ぶ参考にしようと、BWV903の難易度を調べてみた。ヘンレ(ドイツの大手楽譜出版社)の10段階評価では、なんとレベル8となっている。これより難しいレベル9のバッハの曲は、もう「ゴルトベルク変奏曲」と「フーガの技法」しかない!どっちも、バッハの鍵盤用の曲としてはもう最高峰の、自分にはまるで縁のない曲と思っていた。やや現実路線として憧れていたパルティータもイギリス組曲も、難易度的にはもう怖くない!かつて挫折した難曲がいまは弾けるようになったということで、とても自信がついた。今後の励みにするために、いまその喜びをかみしめています。
特にBWV903のフーガは、さらい始めた時にはかなり難しく感じたものの、弾けば弾くほどに気持ちよく、練習が苦にならない。声部の弾き分けを意識しつつ、フーガ特有の捉えどころのない音の流れに身を委ねていると、とっても心地よい。
昨年ずっとベートーヴェンのエロイカ変奏曲に取り組んでいたときにも、後半のフーガは難しくてとっても手ごわいのに、弾けば弾くほどおもしろくて、気持ちよくて、ついついフーガばかり練習してしまいそうになるほどだった。
若いときは多声部の曲には苦手意識があり、インヴェンションもシンフォニアもしんどかった。色えんぴつで声部ごとに色分けしたりしていたものだが、毎日少しずつちまちまとさらっていただけで、こんなに気持ちよく弾けるようになるとは!もしかして、実は自分はフーガ好きなのかな?
フーガというのは、クラシック音楽の精髄ともいうべきもので、バッハやベートーヴェンが和声の世界を研究しつくした成果。実際にはもっと本格的な分析をしたりして、対位法だのなんだのの理解を深めて弾くべきなのかもしれない(やり方は知らないけど)。というか、そうしないと歯が立たないものと思っていたが、気持ちよく練習していただけで弾けるようになったのは大きな発見だ。いまはとにかくこの気持ちよさを大切にして、さらに練習を続けるつもり。
それにしてもフーガ演奏の心地よさよ。もしかして次は「フーガの技法」に手を出すべきなのだろうか…もうピアノ音楽の最終奥義を極めようというような人しか手をつけない曲というイメージがあったのだが。どんな曲かよく知らなかったので、ピエール・ローラン=エマールの録音を聞いてみたが、なんと複雑な!おそらく以前の自分には良さがまるでわからなかったのではないだろうか。いま聞いてみると、音の曼荼羅に分け入っていくようで、この複雑さが気持ちいい!BWV903を仕上げに持っていきつつ、楽譜をみてみようかな…