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いつかきみと向き合えるように

流れがはじまったばかりの頃、きみは仲間たちと同じように時々浮かび上がってきて、仲間たちのなかでもひと際大きな声を響かせた。

大きな大きなきみの声は、僕だけでは受け止めきれず、まわりのみんなのもとに届き、みんながきみの声に耳を傾け、なんとか受け止めようとした。

ただでさえ大きな声なのに、似ている仲間が近くにいると、きみはその仲間と共鳴し、ますます大きな声を響かせて、僕とみんなを困らせた。

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流れが大きくなっていくうちに、きみはあんまり浮かんでこなくなった。

いつの間にかきみに似た仲間の声も聞こえてこなくなり、みんなはきみの声に耳を傾けなくなっていった。

僕はすぐ近くできみの声を聞き続けていたけれど、一人で受け止めることに少しずつ疲れていって、聞かないふりをするようになった。

そしてある時、きみの声を聞くのが嫌になって、もう浮かんでこられないようにと重りをつけて、きみを流れの深いところに沈ませた。

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時々流れが激しくなると、きみはその流れに押しあげられて、浮かんできては、とぎれとぎれに声を響かせた。

僕はそのたび、なんとか流れを落ち着かせ、きみをまた流れの深くに沈めて隠そうとした。

静かな深いところにいることが多くなったきみは、流れのなかを漂ういろんなものと一緒になってさらに重くなり、滅多に浮かんでこなくなった。

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ある時嵐がやってきた。

流れはどんどん勢いを増し、僕はその勢いを止められなくなった。

強力な勢いの流れは、静かに眠っていたきみのもとにもとどき、きみは前よりもずっと大きな重さをまとって僕の前に現れた。

何度流れのなかに押し戻しても、きみはまた流れにのって僕の前に戻ってきた。

きみを押し戻すことを諦めた僕は、重くなったきみをなんとか拾い上げた。

きみの声は聞こえなくなっていた。

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「あれだけ出てきていたがったのに」

僕はそう思い、なんとかきみの声を聞こうとした。

一生懸命耳を澄ましたら、ちょっとだけ声が聞こえた気がした。

でも、まだ何と言っているかは分からない。

僕はきみの言っていることをどうしても聞きたくて、きみが今までどんな時に浮かんできたのかを思い出そうとした。

みんなに気付いてもらえなかった時。

おいてけぼりにされた時。

大好きな人が遠くへ行ってしまった時。

思い出すうち、少しだけきみの声が大きくなってくる気がした。

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それでもまだ、きみの言っていることは聞こえなかった。

僕はきみの声をさえぎるものたちをはがしていってみることにした。

きみの声を一人で受け止めきれないことへの恥ずかしさ。

きみの声が近くにいる誰かを困らせることへの不安。

きみの声が聞こえないふりをされることへのおそれ。

やっとのことで、きみの言葉が聞き取れるようになった。

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僕を困らせようとしているのだとばかり思っていたきみの声は、僕を助けようとしてくれていたのだった。

気付かれないように気付かれないようにと隠し続けたきみの声は、気づいてほしくて仕方がないのに何もできなかった僕の代わりに、必死でみんなのところへ辿りつこうとしていた。

きみの声を聞いた僕は、いつの間にか泣いていた。

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きみのまわりにはまだ色んな邪魔ものがまとわりついていて、その声は耳を澄まさないと聞こえない。

でもきちんと聞こうとすれば、むかしのように聞こえるようになった。

助けようとしてくれるきみの声を、僕はもっと、しっかり聞きたい。

きっとすぐには出来ないだろう。

でも浮かんできたらちゃんとすくいあげて、邪魔ものたちを少しずつとり去って、浮かんできやすくしてあげていけば、いつか聞こえるようになると思う。

どれだけかかるか分からないけれど、じっと、きちんと受け止めるから、これからもちゃんと響かせてほしい。

「悲しみ」という、きみの声を。

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三橋 七緒
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