うつわ談義 斑唐津
前回は岸田さんの作品について投稿しました。
が、いざ読み返してみると
“唐津”のことがまったく書けていない。
丁寧に書いたつもりの文章が…
ヒジョ〜に読みづらい(ーー;)
我がことながら、いや酷いもんです。
「そもそも蘊蓄がないからしかたない」
ですが
如何せんこのままでは気持ちが悪い。
「少しずつでも補足を試みよう」
というわけで
今回はテーマを“斑唐津”に絞って考察してみます。
文体もちょっとだけ工夫して。。
よろしければお付き合いください。
はじめに
骨董好き、陶芸ファンにはお馴染みの斑唐津
雪景色にも例えられる白の魅力
冬の夜、ぼんやりとした灯火の下でしんみりと一杯の酒
なかなか文学的です。
想像するだけで酔い心地がくる
数ある酒盃のなかで歴々の目利きたちからとりわけに愛されてきたのも頷けるハナシです
はるか桃山、江戸のむかしを想像して楽しむもよし
ギャラリーや美術店の照明は暗めに設定されているので
条件は十分でしょう
そして夜がよく似合う(酒器ですから…)
自然光にきらめく姿も悪くはないが、やはり夜
酒滴に濡れてしっとりと佇む姿
光を映じてほの青く輝き変化する色彩のゆらめき
時が経つのも忘れ
エンドレスな夢幻の旅へ。。
興に乗じての呑み過ぎには注意しましょう…
斑唐津との出会い
初めて斑唐津のぐい呑を買ったのはうつわを集め始めて2〜3年も経ってからのこと
うつわ選びに特別なこだわりや理由があったわけではなく
その頃はまだ単純に斑唐津に関心がなかった。
「地味であまり面白味のない器だな」
ぐらいに感じていたのでしょう。
それまでにもいくつか斑唐津の作品を目にしていたはずですが、まったく見えていなかった、
モノを見るための「眼」が出来てなかったわけで
無知というのは恐ろしいことです。
当時足繁く通っていたのが渋谷のギャラリー・アジュール。
唐津一番館の東京支店にあたり唐津の現代作家の作品を気軽に見ることができました(2020年5月に閉店)
ふだん買い物に出るときあえて事前にはなにも決めないのですが、
その日はたまたま懐具合がよく
「今日は小山冨士夫先生のぐい呑買おう!」
アジュールに行けばなにかしらあるだろう、と思って出かけた次第です
少し緊張しながら店に入ると、その日は一番館の坂本社長がいらっしゃった。
「はじめまして。平田と申します。すこし拝見させて頂きます」
簡単なあいさつを済ませいざ実見です!
展示ケースに在ったのは斑唐津と色絵のぐい呑
色絵が20万、斑は27万
色絵は前々から本でも見ていて
「綺麗な盃だな〜」いつかは欲しいと思っていた酒盃です。
斑は初見
値段が7万違います。
よくわからないけどこれ、、そんなに価値が高いのかな?
で、そのときの率直な感想を申しますと…
「なんだこりゃ??」
と。
「いやー小山先生も冗談がきつい。手なりの一発勝負とは言えこれはないでしょ。昭和ですまんセンスじゃがなこら…」
なんて…不埒なことを考えておりました。
残念過ぎる在りし日のワタシ、
この「昭和ですまん」ところがこの器の真骨頂なわけでして……
それでも値段の違いにはなにかあるはず、しばらくうんうんひとり相撲をやってましたが
そんな短時間に自己変革が起こるはずもなく
「迷いましたが今日はこちらを…」
おずおず色絵盃を差し出すと…
「えっ……いやいやちょっと待ちなさい!あなたそのチョイスはありえないよ。ちょっとぐらい負けてあげるからいいから斑唐津にしなさい。」と、、
瞬殺で全否定のダメ出しを頂戴いたしました。。
う、
いやー、恥ずかしかったです(^_^;)けど…なにがそんなに不味かったのか?
坂本社長いわく
「色絵は市場にまだいっぱいあるから、欲しいときに買えばいいよ。小山先生の斑唐津はほんとうに珍しい。そもそも数が少ないのに手放す人もなかなかないから。お金出して買うなら間違いなくこっち」
おそらく坂本社長の眼にはその時の自分とまったくちがう景色が見えていたのでしょう。
酒盃をしげしげと眺めた後「これはほんとにイイぐい呑だと思うよ」と。
そんないきさつで我が掌中にハイ。
家に持ち帰った後もしばらくは疑心暗鬼に眺めていましたが、
長いあいだ使われてもいなかったのでしょう
お酒を注ぐとみるみる表情が変わり
大げさでなく
しわくちゃのじいさんが好漢に化けたように見違えた。
でも、実はまだ本当の姿は見えていないのかもしれません。
生きてるうちにどこまでわかるか?
これもうつわの楽しみです。
備前の徳利と斑唐津
“備前の徳利に斑唐津”
左党の皆さまには耳タコのお題目
これで燗酒を呑んだら間違いなし、といわれる組み合わせです。
ふっくらとした備前に大ぶりの斑唐津
重宝されるようになったのは
大正〜昭和にかけてのことらしい
とすると…
まぁ割と最近のことですね。
たしかに流石の見立て、惚れ惚れと見入ってしまう取り合わせですが
あくまで時代の要請から生まれた典型のひとつに過ぎません、おそらく当時はふだん飲めるお酒の種類も限られていたはずですし。
うつわの組み合わせは人それぞれ。自由に楽しむのがよいと思います。
わたしも日本酒は大好きですが
ワインや焼酎、ウィスキーも飲ります。
邪道かもですが、全部ぐい呑で飲る
酒の個性とぐい呑の相性
色、かたち、大きさ、味わい
ここにはじつに微妙な加減があってほんのちょっとの違いで抜群に美味くなったり冴えない味になってしまったり
面白いものです。
ちなみに斑唐津のぐい呑はどんなお酒も上手にこなす、
いわばオールラウンダー!
ワインやウィスキーも大丈夫
大ぶりなのはロックグラスにも
案外に色は染み付かないのでご安心を。
みなさんもぜひいろいろにチャレンジして楽しんでみてください。
ホンモノの斑唐津?
「避けては通れぬ斑唐津」
唐津の作家さんにとって斑唐津は絶対不可避の必須科目
自己の人間的・芸術的成熟を問う試金石とも言えるでしょう。
自分なりの“斑唐津”をものさねば、の心意気
個展に出品される作品からもそのこだわりと使命感をひしひしと感じます
でも
他地域の作家さんが斑唐津を手掛けたら…
なんというか、
不自然ですよね?
備前や丹波の作家が“斑唐津”をつくる?
うーん(+_+)想像できません、、
そもそもつくる必然がない
「ホンモノの斑唐津」の話を聞いたのは昨年のこと。
手掛けたのは山形の陶芸家・高橋陽さん。
なにがホンモノ?
土、釉薬、焼成方法…
古い斑唐津を徹底的に分析してつくり上げたという
ご本人にお会いしたことがないのでわかりませんが
その情熱はどこから来たのか?
人生を賭けた取り組み
評判も上々で「見ておかねば」
東京での個展に出かけてみました。
斑唐津ばかりが一面に並ぶ展示は白一色
行けども行けども斑唐津
さすがになんといいますか、
ヘトヘトになりましたね(買いましたけど)
「なるほど、これは並なことでは出来ないぞ」
感嘆しつつ楽しませて頂いたのですが、
結論からいうと
高橋さんの“斑唐津”
そもそも唐津ではないです。
ケチ付けようではなくて
前回書いたサロンたびとの定義において。
唐津のやきものに特有の“土着性”
それが微塵もないわけで
技術的にはすばらしいが別のやきものとしか言い様がない。
高橋さんの器にはなにか別にふさわしい、しかるべき呼び名があるはずで
無理に斑唐津ということはないんじゃないかな?
そんな感想を持っています。
あいまいな言い方ですが、唐津の作家さんがつくる斑唐津には作品の意匠や好みは別にして
共通の土着性、空気感がある
うつわに
唐津の風や海、山の自然が映し出されているように感じるのです。
高橋さんの器についても山形に行ってみれば何かわかるのかもしれないですね。
小煩いことを書きました
このハナシはこのへんで……
新しい斑唐津
最後に唐津の若手陶芸家たちの斑唐津をすこし紹介して終わります
それぞれの個性を感じ取ってて頂ければ。
一個の器
その小宇宙を舞台に作家個人の感性と伝統がせめぎ合うさま
現代の陶芸作品は伝統に乗っ取りつつも、作家個人の資質に負う“個人芸”としての側面が非常に大きい。
試行錯誤を重ねて生み出されるうつわにはさまざまな苦心が見えます
若手の作家の場合いまだ成果が十分でないとしても次を見る楽しみがある。
そんなうつわたちが供してくれる安寧のひとときに感謝です!
1.中川恭平・斑唐津ぐい呑
2.内村慎太郎・斑唐津ぐい呑
3.岸田匡啓・斑唐津片口
4.戸川雅尊・斑唐津酒盃
5.竹花正弘・斑唐津ぐい呑
ありがとうございました。
さろんたびと 平田健太郎
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