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ホットサンドからグリルサンドの時代へ

『プラダを着た悪魔』という映画がある。
と紹介するのもバカらしいほど名を馳せた、世界中の、特に若い女性から今もなお絶大な人気を誇るハリウッド映画。

これまで何度か観る機会があった。しかし、なにしろファッションやメイクに疎い故、唯一抱いた感想がこれだ。

「え、グリルサンド食べないの」

そう、主人公アンディの恋人が夜中にグリルチーズサンドを焼いてくれるシーン。彼の握るフライパンの上には、表面が理想的なこんがり色を呈したサンドイッチ、その隙間からは今にも溢れ出しそうなチーズがジュワりと覗いている。恋人曰くお高いチーズだそうだ。これを目の前に出されたらと思うだけで理性が吹っ飛びそうである。

しかしアンディは断る。1ミリの迷いもなく、グリルサンドを一口齧ることもなく、仕事の疲労を理由にあっさりと断るのである。目を疑った。グリルチーズサンドを食べないだと…!
アンディが食べてくれたらそこで終わったかもしれないのに、アンディが食べないから観てるこちらがグリルチーズサンドに取り憑かれてしまった。成仏されずに漂う幽霊と同じだ。全てはアンディのせいだ、アンディが食べてくれなかったからだ。

そんなわけで(実際のところグリルサンドの存在はしばらく忘れていたわけだが)、パン屋さんの食パンを久しぶりに買った翌日にチーズ屋さんのチーズを思いがけずいただいたので、あの夢想的で無双的なグリルチーズサンドを作ろうと思い立ったのである。


まずはマヨネーズを食パンの外面に塗ることからはじまる。むしろこれが全てと言って良い。中ではなく、外に塗るのだ。もし中に塗って焼こうものならそれはグリルサンドではなくただのホットなサンドになってしまう。それはそれで美味しいがグリルサンドの夢は果たせない。
マヨネーズを外側に塗って焼くと、フライパンにくっつかないだけではなく、バターには出せない独特のこんがり色を表現してくれる。この色がまさにグリルサンドをグリルサンドたらしめているのである。
チーズはなるべく包丁で切り出す系のチーズが良い。一枚一枚薄く切って、パンの上に並べていく。ピザ用チーズではやはり到達できない領域がある。黒胡椒を好きなだけふりかけ、パタンと閉じたらあとはひたすら焼くだけだ。
しばらくすると、ジュワッという一声を皮切りに、マヨネーズが変身しはじめる。そこから先はあっという間。両面焼いて、香ばしい匂いがしてきたら完成だ。


以上、ただの焼いたサンドイッチについて長々と書いてみたが正直グリルサンドとホットサンドの違いについて知らない。勝手にマヨネーズが内か外かで決めつけていたが正確に定義されていたらどうしよう。でもこれに関しては絶対に調べない。使う器具が違うとか、そんな夢のない答えだったら切ない気持ちになってしまうからだ。そして誰かが決めて良いのなら今ここに宣言したい。

マヨネーズが外がグリルサンドです!!!

申し訳ないがもうホットサンドには戻れない。あの表面のこんがり色と逞しい食感を知ってしまったら。2025年夏、ホットサンドからグリルサンドへの時代へ。この歴史的(極めて個人的な)変換点をここに記す。

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