「自分の中の国境は案外簡単に越えられる」
世界一周38日目(8/6)
西安(シーアン)の駅に足を運んだ時、人の多さに圧倒された。
中国の都市の規模の違い。いつ終わるか分からないバブルの脆さを抱えていながらも町にはエネルギーがあった。
ここで僕がやりたかったことがある。
ストリートライブだ。
ほんとうなら日曜日の昨日にやりたかったのだが、病的な方向音痴のせいで筆などを手に入れるだけで一日が終わってしまった。やるのであれば重慶に向けて出発する今日しかなかった。
西安駅に着いた時は16時をまわっていた。
僕はアイスとお湯に近い温度のレモンティーを買い、一回軽く深呼吸をした。
西日が照りつける。日陰は列車を待つ人々で占領されている。
目立ちそうなロケーションを決めて、僕はおもむろにギターを取り出す。KORGのチューナーでガムテープだらけのギターの音を調整すると、僕は歌いだした。
もちろん路上パフォーマンスなんてやっていないような広場だ。
『なんだコイツは⁈』変な目で僕を見る人々。
んなこたぁ分かってる。でもやんなきゃ何も始まらない。
僕には確信に似た何かがあった。
ここで日本語の歌を歌える自信。
覆されていく自分のイメージ。
おれはなんだってこの国に偏見を持っていたんだ?
リアルで感じないと分からないことだらけだ。
2曲目は自作の曲を歌った。日本にいた時に出発する自分へ、日本に残る友へ向け歌った曲。
タイトルは「Departure」。
一元札がギターケースに入る。
小走り気味にやってきて10元札をおいてくれたおねえちゃん。
向かいのパラソルの下で聞いてくれてるおっちゃんたち。
歌えるだけで十分だった。
歌うことは僕にとって
「遊び」であり
「自己表現」であり
「癒し」でもあった。
しばらく歌っているとやけに馴れ馴れしく絡んでくるヤツが現れた。
最初はお金の代わりにギターケースの中にタバコを一本置いて行ったのだが、ケースの中のお金が増えてくるとお金をせびり出し始めた。
「なぁ、いいだろ?こんなにあるんだからちょっと分けてくれよ?」ということなのだろう?中国語で一方的に話しかけてくるが、言おうとしていることはわかる。
歌い始めてしばらくたった頃、冗談交じりにケースの中のお金に手を伸ばし始めた。
国は違えど、これは僕がパフォーマンスを行い、そのレスポンスとして得たお金だ。お金を置いていってくれた人たちには僕は必ず笑顔で「シェイシェイ!」と言い感謝の気持ちを伝える。それを身勝手な理由で貰ってもいいものだろうか?
中国はバブルで好景気かもしれないが彼らから見たら日本人はまだまだ裕福なのかもしれない。
『世界一周なんて贅沢な遊びだなぁ!オイ!』
彼らと同じシチュエーションに僕がいたらそう思うだろう。
この世界は平等なんかじゃない。
世界を旅する人が必ずぶち当たる壁だ。
時々世界を旅することが申し訳なく感じる時がある。
僕たちは旅に出てはいけないのか?
もちろんそんなことはない。
僕が旅に出なかったところで、この世界には一体どれだけの旅行者がいることだろう?旅行者を相手に生計を立てている人たちだっている。
では
不平等を是正するのが豊かな人間の使命なのか?
それも違う。
僕はそこまで高尚な人間じゃない。
与えられたチャンスの範囲で最大限のレバレッジを効かせて夢を実現させようとしている口先だけの男が僕だ。
一部の人から見たら豊かな人間だということは分かってる。
だけど、富を独占するつもりもない。できる範囲でシェアはできる。
これが、今現在の僕のスタンスだ。
ここで怒ってしまったら何かが台無しになってしまう気がして
「あぁあああ〜〜〜!みなさん!見てください!この人、僕のお金を盗もうとしてますよぉああああ〜ッッ!!!」
というサッカープレイヤーさがならの大袈裟なアピールをして牽制して牽制した。僕の歌を聴いていたおっちゃんが制してくれたのでお金は盗まれずに済んだ。
ライブを終えた後も鼠小僧は改札までついて来た。
サウナのような列車の中、僕は3歳くらいの男の子と母親、カップルの片割れ(彼氏は通路の反対側の席だったみたいだ)と一緒になった。
「空調快速」
となっていても人口密度が上がると温度は急上昇し、汗が一向に引かなかった。
男の子は散々はしゃいだ。きっと僕が子供だった時も周りのことなんか考えずに精一杯遊んでたんだと思う。2人がけの席に、僕と親子の3人が座っていたとしても穏やかな気持ちでいるように努めた。
でも、お母さん。
僕の席はどこでしょうか?
困った風にしてたらふたつ前に座っていた大学生が3人、英語で話しかけてきた。なにやら中国2100キロの距離を自転車で旅してきたそうだ。
中国も日本と同じで大学生は夏休み。休みの最期にホームタウンの重慶に帰るところらしい。
同じアジア人である日本人と中国人が英語でコミュニケーションとれる今のシチュエーションがちょっと可笑しい。お互いたどたどしい英語ではあったけど、楽しかった。
中国がどんどん親しみを持ってくる。
「ねぇ!漫画家志望なんだろ?
おれらに何か描いてくれないか?」
時として漫画もコミュニケーションになる。
自分の中の国境は案外簡単に越えられる。