「トレインファンタジー」
世界一周10日目(7月8日)
下の寝台がテーブルになるのを待って、僕の一日は始まった。
「good morning♪」
と下の席の女の子に声をかけるも。ちょっと困ったような笑顔を浮かべるだけだった。きっと英語は喋ってくれないのだろう。
会話も弾まず、彼女と同じ様に僕もロシアの広大な風景を眺めていた。
夜にハバロフスクを出発し、僕は今ウランウデに向かう電車の中にいる。
「おい!それ良いカメラだろ?見せてみ!」
いきなし上半身裸のあんちゃんが声をかけてきた。
ダニン(右のヤツ)。海軍で20歳。おれのが歳上にはどうみても見えない。
「おれのこと撮ってくれよ!」と僕に無理やり写真を撮らせる。
ダニンとのやりとりは単語かボディーランゲージだったんだけど、寝台下の子はちょっと英語を話せたみたいだ。
「are you student?」
「NO!Cartoonist!comics!!」
iPhoneで撮影した自分の作品や重たいバックパック、Pennyboardやギター、自分のことを説明をする。僕は旅する漫画家なんだ。って。
途端、近くにいたおばちゃんたちも話に加わってくる。「あぁ、だから写真撮ってんのね。ほら!あそこなんて景色いいわよ!」とか。日本では遭遇しないようなシチュエーションに顔がニヤつく。
「えっ?ギター?ちょっと弾いてみろよ!」
いや、周りの人の迷惑じゃないですかぁ?
(ていうか、昨日ハバロフスクのホステル前で22時頃歌ってたら、
近所の人から凄い剣幕で怒られた…)
遠慮はしたものの、おばちゃんたちまでケータイ片手にあおってくる。
「ほんなら、歌っちゃおうじゃありませんか!」
うるさくならないように声を張らないゆったりとした曲を弾く。
数曲を披露すると「ほら、これ食べていいよ」「これやるよ!」食べ物がどんどん僕の元に集まってきた。
「いや、いいよ。おれ、さっきパン買ったからさ」とジェスチャーで示しても、「いいから、いいから!」ってシェアしてくれるのだ。
中国との国境沿いを走るロシアの車内。
音楽の偉大さと人の暖かさ。日本じゃ体験したことないよ。なんか僕の写真撮影会になってたな。
22時。みんなが横になった頃。
「ほれ!もっかいギター弾いてくれよ!」と別のヤツが声をかけてきた。
「オイオイ、みんなもう寝てるし、明日にしよう」。そう追い返すも、しつこく誘うもんだから奥の席でボリュームを下げて歌う。
「はははは!最高だな!オメェー!飲め!飲め!そして喰え!」
僕の前に置かれたのはウォッカとインスタントラーメン。
まさかここへきてロシアの洗礼を受けるとは…
YG3(「酔ってゲロする3秒前」)の演技で切り抜けたのであった…。