「ここにも生活がある」
世界一周35日目(8/2)
「ツアーいっしょに行かない?」
ユースホステルに泊まっているヤツらに誘われたが、
僕は行かなかった。
というより行けなかった。
自分の想像していたよりもツアー代が高かったのだ。
よっぽど行きたい場所でなければツアーに参加したいとも思わない。
世界遺産の町、ピンヤオに来れただけでも十分だ。
それに、僕は「旅する漫画家」を名乗ってる以上、漫画を描かねばならない。呼和浩特(フフホト)の投資目的に次々と建てられた、誰も住まない高層ビルから、僕はインスピレーションを受けたのだ。
今日はその話の下書きをしようと決めていた。
「INTO THE WILD」
と言う、大好きな映画がある。
予告編をスクリーンで見た時は衝撃を受けた。
一部劇場でしか上映されなかったこの映画を僕は新宿の映画館で見た時は『こんな旅の映画があるなんて!』と衝撃だった。
構成、音楽、世界観、どれをとっても最高だった。
『こんな漫画を描いてみたい!』
この映画は僕に漫画のヒントを与え、僕を旅へと駆り立てたのだ。
旅は楽しいことばかりじゃない。
主人公に自分を重ねた。
チェックアウトを済ませると、僕は10元のコーヒーを注文して、ユースホステルのテーブルに原稿用紙を広げた。
17:00前に3ページの下描きを終えると、僕は遅めの昼食(早めの夕食)を取り、ピンヤオの町をバックパックを背負ったままPennyboardに乗り、駅へと向かった。
町ゆく人々が物珍しそうに僕を見ている。自転車や原付きはよく見るが、スケートボードで世界遺産の町を行くヤツなんて僕しかいないだろう。山盛りの荷物を持ってPennyに乗る僕を見て、犬が吠えてくるのは当然のことだ(今回は負けなかったけど)。
18:30に駅に到着した。
西安(シーアン)行きの列車の到着時刻は20:47。時間に余裕を持ち過ぎてしまうのが僕なのだ。
僕は駅前の階段に荷物を降ろし、Martin Backpackerを取り出した。
目の前には中国の警察、「公安」と書かれた車があった。メディアの影響もあり、僕は中国の警察が常に市民を監視しているように思っていた。
ポロポロとギターを弾き、歌う。
公安のライトブルーの制服を着た恰幅のいいおっちゃんと目が合う。
注意されるだろうか?
おっちゃんは笑顔で僕にサムズアップした。
何曲か歌った後でギターに新しいヒビが入っているのを見て、僕はライブを切り上げた。
ロシアのハバロフスクでPennyでコケてからといもの、ギターをガムテープで応急処置をしてきたのだが、本格的な修理が必要かもしれないな。
東南アジアにギター工場があったっけ?
「Are you a korean?」
隣に座っていたおっちゃんに声をかけられた。
ロシア、モンゴルと旅してきたけど、「日本人?」って訊かれるよりは、「韓国人?」って言われる回数の方が多い。今日の朝飯を食べたお店でも韓国人に間違われた。
思わず「なんでそう思うの?」と訪ねたら「顔?目とファッション?」だって。
ひとえまぶたで目が細いと(それでいて前髪のボリュームがあると)誰でも韓国人になれてしまうのだ。いやいや。僕もあなたも同じような顔しているじゃないですか?
「さっきの歌、よくわからなかったけど日本語の曲?」
おっちゃんは言う。
「そうだよ。日本語のカバーソングだよ」
僕は言う。
「へぇ〜」
そんな些細な会話から、列車を待つ間僕たちはお喋りした。
誰が言ったんだろう?
「中国人は日本人が嫌い」
って。
テレビからリピートされるデモの映像。狂った様に反日を叫び、日本車を破壊し、領土問題を持ち出す中国人。
僕はここにくる前、『何事もなく中国を旅をすることができるだろうか?』と、とても不安だった。
だけど、一日、また一日と経っていくにつれ、僕の中国に対して抱いていたイメージは変わって行った。
確かに、日本のことが嫌いな中国人もいるだろう。それは日本だって同じだ。自分たちの正当性を主張し、相違を受け入れられないのも理解できる。
でも、根っこのところでは同じ部分があるのではないだろうか?
彼らには彼らの生活があって、僕たちには僕たちの生活がある。日々の人生を生きるのに僕たちは精一杯だ。どこに彼らを、僕たちを嫌う余裕があるのだ?
僕は店に入ると必ず「ニーハオ」と言い、何か買わせてもらったり、美味しいご飯を食べた後には必ず「シェイシェイ」と言う。
どこの国でも一緒だ。
イージーでシンプル。
感謝と尊敬の気持ちを持って僕は旅を続ける。
時には差別を受けるかもしれない。
その時は…
まぁ、しょうがないさ。ユーモアで笑い飛ばして行こうじゃないか。
そうだろ?ミッキー?
「Are you japanese?」
「Yes!」
「コンニチハー!」
駅の改札を抜ける時、ボディーチェックのおねーちゃんが僕に笑いかけた。
そういうことだよな。