「ロシアの漫画教室」
世界一周8日目(7月6日)
「シミズサァン、
迎エェニキマシタ」
あれ?ビタリィくん、昨日は漫画のクラスは夜にあるって言ってなかったっけ?
いきなし停まるロシアのWi-Fiに苦戦しながらウランウデのことを調べようと思っていたらビタリィがホステルまで迎えに来た。
今日は日本の漫画に興味のあるロシアのみんなに
日本の漫画家(志望)の代表として「漫画」って日本の文化を伝える授業が開かれるのだ。
ここハバロフスクに来たとき列車のチケットを買うのを手伝ってくれたこともあるし、これでお返しができる。僕が知っている漫画の知識なんてたかが知れているけれど、ワークショップくらいのことはできるのではないだろうか?そう思いビタリィの提案を引き受けたのだ。
…にしても、急だよなぁ。
おれ、授業内容全然考えてないー...
けど、まあ、なんとかなるだろう。
口からのでまかせにかけては自信がある。
大まかに
日本の漫画文化の歴史と
漫画の描き方講座みたいな
2本立てでいいんじゃないかな?
「ーで、ビタリィ、
今日のおれの持ち時間ってどのくらいあるの?」
「2時間デス」
わ〜お...
ぜってー巻いちゃうよ...
ロシアで輸入業を営む大橋さんと合流し授業の開かれる場所へ向かった。
途中、シャルマ(っていうのかな?)って言うケバブのようなものをごちそうになった。ボリュームがあって美味しかった。100rub(300yen)。
12時10分。
大きな教会の前にある建物の地下。
多目的ルームのような場所で漫画講座は開かれた。
おぼつかない英語で一生懸命話す。
今の日本で読まれる漫画の原型は手塚治虫がアメリカの映画に影響を受けその独自のスタイルを発展させて行ったことや今の日本の漫画が抱える商業優先の問題点、デジタルの漫画の登場によって漫画の在り方が変わって来ていること。
浪人時代に培った語彙力を活かして自分が知っていること総動員で話す。そこに集まったみんなは真剣な顔をして「ふむふむ」と頷いてくれるのが救いだった。これでレスポンスがなかったら心が折れていたことだろう。
頑張って話を進めたものの経過した時間はたったの40分。お互いに質問したり、ディスカッションしたりもしながらなんとか時間をつぶす。
一通り「ジャパニーズマンガとは?」の講義が終わり次はいよいよ漫画の描き方を披露することに。
持って来た原稿用紙に『こんな感じで描くんだぜ!』と描こうとするも、『おれってこんなに絵が下手だっけ?』というほどにヒドい絵しか描けない。
漫画はどこで描くかに左右されることがよく分かった瞬間だった。
低いテーブル、ソファに座っての状態じゃまともな絵は描けない。
『くそうっ...おれのレベルはこんなもんじゃねえんだが...』
あたふたして変な汗が出る。
そんなテンパった僕に対して集まってくれたみんなは温かかった。
「漫画」という共通の話題があることが僕たちの理解できないところを補強し合い、たとえ英語で表現できなくてもなんとなく伝わるし、言い直してくれる。
それに持って来た漫画の道具や初めて見る日本スタイルの漫画の描き方に興味津々。中には自分の描いた漫画を持って来てくれた人もいて、どこの国にも漫画を描くのが好きなヤツがいるんだなぁと思った。
「シミズサン、サッキハ2時間ッテ言ッタンデスガ
6時マデェ、ダイジョウブデスカ?」
無理っ!!!!
自分ひとりのトークだったら(日本語だったらどうにかなったかもしれんけど)4時間も喋り続けるのは不可能だったろう。
漫画好きのロシアのみんなの質問や興味の対象、ロシアの漫画事情など自分のもっている知識、情報をフィードバックさせ合うことによって、時間なんて関係ないものになっていた。
ロシアには漫画そのものがあまりないこと。たったひとつの漫画関連の出版社がモスクワにあってハバロフスクとのリアルタイムの共有ができてないこと。日本の紙媒体の翻訳された漫画は値段が高いこと。
そして僕がこの日拙い英語で伝えたかったことは次のことだった。
“Manga is a tool.
You can make them understand something easily.
And make them interested,entertained,surprised...
(漫画は道具です。
物事をわかりやすく伝えたり、面白くさせたり、エンターテイメント性や驚きを持たせることが漫画という道具を使うことで簡単できてしまうのです”
ということ。
別に日本のスタイルが一番良いわけじゃない。
イベントそのものは6時までは開かれなかったものの、
(いつもは大橋さんのお茶会なんだって!)
6ページのショートストーリーを一人が1ページを担当して描いていく「マンガ・ジャムセッション」が企画された。
シミの担当は1ページ目。
インターネット上で出会った2人が初めてのデートをする...というページを
ホステルのめちゃくちゃ高いテーブルと椅子にかじりついて描きあげた。(次のページでコメディあり、ファンタジーあり、
ラブロマンスありのストーリーになっていくのだ!)
僕は明日の夜、ここをここを発つけどみんなの漫画が合わさるのが楽しみだ。
今日は十数人のロシア人が集まってくれた。
ビタリィの顔の広さというか、人望の厚さというか、人徳というか、彼の器のデカさを感じた一日だった。日本で同じ様なイベントを開いたとしても僕は同じように人を集められる自信ない。
2日前に企画したのにこんなに人が集まってくれるなんてすごいヤツだったのだごめん、2日前は変に疑って。
そんなことをビタリィに伝えたら
「人ニ親切ニスルコトデスカネ...」
と彼はポソリと言った。
ハバロフスクにはマイペースでチャラいけどこんなに良いヤツがいます。大橋さんっていう相棒と一緒に仕事をしている23歳の青年。
なんだかハバロフスクの街が急に好きになった。
ホステルで自分の担当ページを描いていると、誰かが突然僕の肩を叩いた。
「Hey!I'm Jason!!!」
って!ジェイソン!!?えぇぇぇえええ!!!?ハバロフスクには来ないって言ってたじゃん!
Jasonは上海の近くに住む中国人。おれと同じく世界一周の旅に出てるんだ。出発したタイミングもほぼ一緒。
この前カウチサーフィンのスレッドでウラジオストクのホストをお互い探してたんだけど、お互い見つけられず終いでウラジオストクではタイミングが合わずにすれちがい。旅のルートはウラジオストク以降で違った。
「どこかで会えたら面白いね!」とか言ってたんだけど、まさかここで出会えるとはね。ちょっと感動しちゃったよ。
今、僕の後ろのテーブルで
ロシアンカジノが開幕中です。
Jason、カモられんなよw。