冬の京都で過ごす 12日目 立春
6時、目が覚める。備え付けの目覚ましのアラームをOFFにする。コーヒーを淹れながらアレクサに今日の天気を尋ねる。「今日は晴れ」とのこと。ヨガ10分。
テレビから合成音声みたいな声色で今日のニューストピックの読み上げる声が聞こえる。
ポポポポポ…
目を向けると画面に「AI自動音声でお伝えしています」のテロップが表示されている。やっぱりね。
7時、今日は部屋の清掃に入る日なので片付けをする。ざっと見渡して余計なものは出ていないようなのでドアサインを「清掃は不要です」から「清掃してください」に貼り替えて外に出る。
今日はネックウォーマーはしていない。朝の空気は冷たいが寒いというほどでもないのでダウンジャケットのチャックを上げて歩く。
7時10分、コンビニのATMで現金を降ろす。両替ボタンを押しそびれたので万札をくずすためにあったかいお茶を買う。
新京極の誓願寺前の広場に遠巻きに人だかりができている。よく見るとテレビカメラがいる。広場の真ん中の黒いウインドブレーカーをきた女の子が立ち上がる。着ているウインドブレーカーを脱がされ、白いダウンジャケットが渡される。着ている間に首にはチェックのマフラーが巻かれる。誰なんだろう。
鴨川を越えて二条通りの手前の角を右に曲がる。この仁王門通りをまっすぐ進んだ突き当たりに南禅寺がある。左手に平安神宮の鳥居が見える。
南禅寺
レンガ造りの水路閣
今日は誰もいないのでじっくり見る。
南禅寺を出る。どこも水の流れる音がする。
8時50分、永観堂。
まだ拝観時間前なので拝観終了の看板が出ている。 9時まで待ってから中に入る。
併設する幼稚園からきゃあきゃあと子どもの転げる声と、スピーカーから流れるディズニーソング(和訳ver)が大音量で聞こえる。
先生のマイクを通したアナウンス「みなさんおはようございますー朝ごはんは食べてきましたかー今日は誕生会ですね、さぁ今日も元気いっぱいお外で遊びましょー」そこにさらに小さめの滝の落ちる水音も重なる。
お地蔵さんの下に「やすらぎ観音」と書いてある。
阿弥陀堂
この中に見返り阿弥陀がいる。
まだ見てないところがたくさんあるが、時間ももないので池を見てそそくさと帰る。
売店に「三鈷の松葉差し上げております」と書かれた紙が貼られている。見ていると話しかけられた。
「日本一長い松なんです。長いでしょ。持ってってください。」
身の回りに置いておくとその三徳を授かるらしい。
「長いのは一輪挿しとかに刺して、輪っかはお財布に入れたりとか」長いのを手に取る。
「根元は丈夫なんですけど、(封筒に入れてこちらに渡す)記念になるでしょ」
しばらく手に持って歩いて、思い立ち、入場の際にもらったパンフレットでさらに挟んでリュックにしまう。
こんだけ寺が多いといちいち「マンションの裏に墓がある」とか気にしてたらこの街には住めない。
このあとはホテルに缶詰めなので、今日はもう楽しいことはないなと考えながら岡崎公園の横道を歩く。
野球場前の駐輪場入口ネットにかかるボール ホームランが多い。
白い服の人達が平安神宮に吸い込まれていくのでついてく。期待はいつでも裏切られるものだ。
修学旅行生「うわっ入りおった!入りおった!」
「新人ではないなぁ思って、マスクしてるから分からへんもん」「うっそー」
太鼓が鳴り出した。何か催しかこれから始まるんだろう。
「この丸底が有名なんで、このへんの感じとか(おすすめ)」冷えた手があったまった。
「降ってきたな」「ほぉ、ちょっと、降ってきましたね」
「夢いっぱい。腹いっぱい」
ほうじ茶で茶粥風。ゆで卵と千枚漬けもつける。
15時、お昼を食べそびれて、ゆで卵2つと千切りキャベツでしのぐ。
18時、まだ仕事が残っているので夕飯も手早く済ます。定食屋のテレビにドーモくんとアナウンサー2人が映っている。視線を目の前の夕飯に戻して耳だけ向ける。天気予報のようだ。「来週から七十二候のうぐいす鳴くが始まるんですね」
20時、外から石焼き芋売りのアナウンスが聞こえた。関西弁じゃないんだなぁと思って、窓を閉めた。