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空港アクセス鉄道のデザイン

最近、空港を使う機会が増えてきたところに、Xで次のような投稿が目に留まりました。

空港アクセス鉄道の役割や求めるものについて、考察を加えていきます。

空港「への」アクセスか、空港「からの」アクセスか

空港アクセス、と一絡げに言っても、空港へのアクセスと空港からのアクセスでは役割が異なるのではないでしょうか。

まず、空港へのアクセスを考えます。

  • 定時性

  • 荷物を置くスペース

  • 「これに乗れば空港へ行ける」という分かりやすさ

次に、空港からのアクセス。

  • ある程度の本数(長時間待たなくていい)

  • 荷物を置くスペース

  • 「駅に行けば市街地へ行くことができる」という分かりやすさ

空港へのアクセス

空港へのアクセスにおいて、「定時性」が最重要ポイントでしょう。飛行機に乗り遅れたら、(キャンセル保険以外には)補償がないことがほとんど。国内線は1時間前、国際線は2~3時間前に到着するように、と言われることがあるほど、やはり飛行機に乗り遅れないかは神経質になるところです。空港アクセスの競合として、リムジンバスがあります。
個人的には、空港へのアクセスでバスを使うことはあまりありません。純粋に渋滞(特に都市高速の事故渋滞)が怖いからです。

次に、荷物について。
よほどの長距離でなければ、空港アクセス列車に着席の有無を求めることもないでしょう。(もちろん座れたほうがいいことに越したことはない)
ただ、特に国際線が発着するような空港だと大きな荷物を抱えて、通勤列車に乗りたくはない!(あるいは、空港利用者が乗ってくるのは通勤客側も嫌)ということがあります。荷物を置くことのできるスペースがあるか、大型の荷物を抱えて乗車してもひんしゅくを買うことのない環境が必要です。

関空特急はるかの荷物置場。空港アクセス特急には、こうしたスペースが充実している

CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=88262562による

最後に、「これに乗れば空港へ行ける」という分かりやすさも必要だと思います。
多くの空港アクセス鉄道は、ピクトグラムで示すことで「空港にいけるよ!」というメッセージを掲出しています。

✈マークが、空港へ行けることを示す。ただしアクセス特急には「罠」が存在する(後述)
The RW place - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=11534155による

アクセス特急の場合は、「羽田空港~成田空港」を結ぶため、✈マークだけではどっちの空港にいけるのかわからないという「罠」があるんですが。これに引っかかった人は多いんじゃないかな、と思ったりします。

空港からのアクセス

空港からのアクセスにおいては、そんなに待たずに乗れて市街地へ移動できることが最重要ポイントではないでしょうか。
これは、空港アクセス特急の何時発に乗れるかよりも、はるかに重要なはずです。
考えてみてください。飛行機の定時性はある程度確保されているものの、空港の混雑や天候、その他の要素により空港駅の到着時刻はまちまちになることが多いのではないでしょうか。

そのため、空港発の特急列車をわざわざ何日も前から予約することは、ときに悲劇をうみます。
もちろん最近では、手元のスマホで乗車予定の列車を気軽に変更できるというところは便利になりましたが、搭乗中は機内モードに設定していれば操作ができないですし、忘れてしまうことだってあります。

「本数多い、直前まで予約したくない、場合により着席したい」を満たすことは可能か

成田空港や関西国際空港には、JRの特急列車が乗り入れています。
成田エクスプレス、関空特急はるか号です。これらはいずれも、1か月前から予約ができます。その点では便利かもしれません。
ただ、本記事ではそうしたニーズはいったん無視しています。あくまで、「本数が確保されていて、直前まで予約したくない」のです。

成田空港について考えてみます。
成田エクスプレスには残念ながら自由席がありません。これは、由々しき事態だと思っています。空港アクセス特急に自由席がないことはデメリットが大きいと思うのです。なぜか。


成田エクスプレス
MaedaAkihiko - 投稿者自身による著作物, CC0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=148394077による

成田空港は国際空港です。すべての乗客が複雑怪奇な日本の鉄道システムを理解しているなど、到底思わないほうがいいでしょう。
空港アクセス列車は、その列車に乗ることを目的とした乗客は、(一部の鉄道オタクを除いて)皆無です。あくまで市街地⇔空港の移動をしたいだけなのです。
全員に着席保証をする必要もないと考えます。「いち早く都心に出たいけど、別に座れなくてもいい」というニーズを満たすことができません。指定席を一枚ずつ販売している間に、列車が出発してしまっては、それこそ機会損失なのです。


JRと京成の考え方の違い

「成田空港には、JRと京成が乗り入れていて、京成のスカイライナーも全席指定席じゃないか」
こういう声があることかと思います。実は、JRと京成の空港アクセス鉄道に関するデザイン力には大きな差があります。

まずJR。JRは都心と成田空港を結ぶ列車に次の種類があります。
東京~成田空港を結ぶ所要時間は次の通り。

  • 成田エクスプレス:約1時間

  • 快速:約1時間30分

成田エクスプレスは、全席指定なので原則着席保証があります。
一方で、快速列車は「普通」なので、着席保証はありません。もちろん当駅始発であれば座れることが多いと思いますが。

指定席料金が1,700円前後

30分も所要時間に差があれば、多くの人は30分早く都心に出たいと思うことでしょう。でも成田エクスプレスを使うすべての人が本当に着席を求めているのかは疑問です。逆に言えば、着席と座席のグレードという付加価値を1,500円以上で売ることで利益にしたいというJRの思惑があると捉えることもできます。

ジャパンレールパス利用者に、JRを使わせたいのであれば、より自由席を設定しておくべきだとも思います。指定席をわざわざとるために並ぶ手間を減らせると思うからです。

つぎに京成。
京成は都心と成田空港を結ぶ列車に次の種類があります。

  • スカイライナー:日暮里~成田空港で約40分

  • アクセス特急:日暮里~成田空港で約65分

25分の差がありますが、都心まで60分前後で出られるアクセス特急は魅力的です。
スカイライナーは、着席保証や座席グレード、速達性を確保しています。一方でアクセス特急は、追加料金不要ながら、都営浅草線に直通する利便性を兼ね備えています。着席保証はないので、特に都心方面から成田空港へ向かう場合は座れないケースもあるかもしれません。
本数はこの2つあわせて、毎時4本を確保しており、ニーズにあわせて使い分けることが可能です。

スカイライナーの特急料金はJRより安い

JRは、毎時1本程度の快速か、30分に1本の成田エクスプレスを選ぶ必要があり、この点でも京成に軍配があがります。

払い戻しにおいても京成に軍配

計画性が高く、空港到着前から特急を予約していた、とします。しかし、成田空港周辺の天候が悪く、別の空港へダイバートしてしまいました。
そんなとき、払い戻しをしなくてはならないでしょう。

JR成田エクスプレスは、特急券の当日払い戻しに30%(ただし最低340円)かかりますが、京成スカイライナーであれば100円で済みます。

空港利用者は、別に空港アクセス特急に乗りたくて乗っているわけじゃないので、「柔軟性の高さ」を空港アクセス特急のデザインに組み込んでもらえたら、利用したくなるというわけです。

【提言】ライナー券じゃいかんのか?

以上の考察をもって、最後は提言を。
空港アクセス特急に、風景を求める人はそう多くない気がしています。仮に着席保証をさせたい場合、JR東海ホームライナーのような「ライナー券」方式でもいいんじゃない?と思います。

速達性・着席保証・シートグレードを求めて特急料金を支払っているわけなので、別にどの座席位置であるかはあまり問わないんじゃないか?と思うわけです。(もちろん号車によって出口の近さなど、多少考慮すべき点はあるかと思いますが)

わざわざマルスでシートマップを管理しており、出発直前に窓口に並んでいる人を列車に乗せられずに発車してしまうケースがあるのであれば、そして自由席は事情により廃止したいのであれば、ライナー券+座席未指定券でいいような気もするのです。

これはウィーン国際空港と市街地を結ぶCAT(City Airport Train)に着想を得たものです。


以上、独断と偏見による考察と提言でした。
JRや京成さんのそれぞれの事情などもあると思いますので、あくまで一個人の意見にすぎない点にご留意いただければ幸いです。

ご一読ありがとうございました。

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