これまでの何百年、そしてこれからの何百年もきっと変わらない。それってとても素敵な事じゃないですか?
歩み入る者にやすらぎを
去りゆく人にしあわせを
草津町民憲章
なんて素敵な言葉なんだろう。
私はその言葉通り、やすらぎと幸せを手にして帰路についていた。
今回の温泉旅行を決めたのは当日の朝だった。
どうしよう。
梅雨らしいぱっとしないお天気は東京だけでなく草津も同じだった。
雨は嫌いではない、けどせっかく行くならお天気がいい。
またにしようか。どうしよう。
オーストリアから帰国して半年が経っていた。
すっかすかのブリスベンの電車とは真逆の
乗車率120%の満員電車に揺られる日々。
知らず知らずに力が入る生活を送っていたのか、気付くとひどい肩凝りに悩まされていた。
よし!
跳び起きて支度をする。
旅は勢いも大切だ。
まずする事はスマホでバスの予約。
宿はその次、車内で見つければいい。
勢い任せの行動で2時間後には東京駅のバスターミナルに立っていた。
そしてその3時間半後に私は草津温泉へ到着するのだ。
草津という地名の由来は臭い水=臭水(くさみず)から来ているという説もある。
町一帯に漂う独特の硫黄の香り。
なんとも言えないこの香り。
嫌いじゃない。
間違いなく臭いのだけど、何故かずっと嗅いでいられる不思議がある。
なんだっけ、この感じ。
あぁ、うちの愛犬の肉球の匂いと一緒だ。
きゃー臭い!!となるくせに、どこかずっと嗅いでいたいような‥そんな中毒性のある香り。
天気予報通りのどんよりとした空模様だった。
けれど、もくもくと上がる湯気と相俟って、そこにはなんとも言えない風情があった。
我こそが草津の顔だとどっしりと町の真ん中に構えた湯畑と、その横そっと佇む熱乃屋さんの情緒あるレトロな建物。
まるで長年寄り添って来た夫婦のようだった。
揚げまんじゅうを頬張りながら散策する。
揚げまんじゅう、揚げたてだったらもっと良かったな、なんて考えながら。
あ、温泉たまごも食べよう。
お煎餅も美味しそう。
あそこのレトロなカフェでコーヒータイムにしよう。
ちょっと冷えたから足湯にでも浸かろうか。
そしてその後、湯もみ見学をしよう。
草津〜よいとこ〜♪なんて鼻歌を歌っちゃう。
思い付く事を思いつくまま。
あれだけ強張っていた体から力が抜けていく。
ふわっと足取りも軽くなる。
これで温泉にのんびり浸かれば身体メンテナンス完璧じゃない?なんて。
ふと顔を上げると町には沢山の人が各々のペースでのんびり過ごしていた。
湯巡りをしてる家族。
浴衣で寄り添いあって歩くカップル。
わいわい足湯に浸かる若者達。
室町の頃からそんな景色は変わってないのだろう。
何百年も前の人々も同じようにここに足を運び
そしてこれから何百年も先の人々も変わらずまた同じようにここでこうやって過ごす。
時代が変わっても変わらない普遍的なこと。
何日も何日もかけて歩いて来た時代も
東京から3時間半で来れるようになった時代も
そしてもしかしたらどこでもドアでさくっと来れるようになってしまうかもしれない時代も
変わらない、ずっとずっと。
それってすごく素敵な事じゃないですか?
そうだ。
きっと今日も草津は今を生きるどこかの誰かにやすらぎと幸せをを渡しているんだ。
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