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旅する音楽 17:ザ・ウエストランド・スティール・バンド『太陽のサウンド~トリニダードのスティール・バンド』 - 過去記事アーカイブ

この文章はJALの機内誌『SKYWARD スカイワード』に連載していた音楽エッセイ「旅する音楽」の原稿(2016年2月号)を再編集しています。掲載される前の生原稿をもとにしているため、実際の記事と少し違っている可能性があることはご了承ください。また、著作権等の問題があるようでしたらご連絡ください。

タクシーに導かれたスティールパンの音色

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ザ・ウエストランド・スティール・バンド『太陽のサウンド~トリニダードのスティール・バンド』

 カリブ海の島国、トリニダード・トバゴ。無計画にこの国に足を踏み入れた僕は、途方に暮れていた。というのも、2月はカーニバル・シーズン真っただ中。安宿を探したけれどまったく見つからなかったのだ。そんな様子を見透かしたのか、一台の車が近付いてきた。いわゆる白タクといわれる違法タクシーだ。胡散臭い運転手は「宿を紹介するよ」と言って、僕を後部座席に押し込んだのだが、結果的には大正解。相場の半額以下で民家に居候させてもらうことになり、盛大でクレイジーなカーニバルを堪能することができた。

 さて、この白タク運転手。いいカモだと思ったのか、連日僕の前に現れた。そして、ある日連れていかれたのが、町はずれの小さな広場で、そこにいたのは老練のスティールパン奏者。スティールパンとはドラム缶を再利用した楽器で、この国では100人を超える大人数で演奏するのが主流だ。その迫力たるや、筆舌に尽くしがたい魅力がある。しかし、目の前のおじいちゃんは、独りで軽やかでまろやかで可憐な音色を奏でている。華やかなカーニバルでは決して聴くことのできない音楽に触れられて、僕は怪しげな運転手に感謝した。もちろん、しっかりチップを請求されたのは言うまでもない。

 その数年後に手に入れた『太陽のサウンド~トリニダードのスティール・バンド』というアルバム。最初に耳にして、思わずアッと声を上げてしまった。というのも、あのときに聴いた音色にとても似ていたからだ。1960年代後半の古い録音のため、ちょっとくぐもって聞こえるというのも理由かもしれない。でも、ソリッドでシャープな印象のスティールパンのサウンドとは違い、素朴な雰囲気を醸し出している。もしかしたら、あのときのおじいちゃんが参加しているのかもしれない。そんなノスタルジックなロマンを感じさせて、お気に入りの一枚になっている。ただ、聴くたびに、得意げな白タク運転手の顔が浮かんでしまうのが、少々残念ではあるのだけれども……。

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