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旅する音楽 5:ルイス・アルベルト・スピネッタ『Silver Sorgo』 - 過去記事アーカイブ

この文章はJALの機内誌『SKYWARD スカイワード』に連載していた音楽エッセイ「旅する音楽」の原稿(2015年2月号)を再編集しています。掲載される前の生原稿をもとにしているため、実際の記事と少し違っている可能性があることはご了承ください。また、著作権等の問題があるようでしたらご連絡ください。

アルゼンチン・ロックの特別授業へようこそ

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Luis Alberto Spinetta『Silver Sorgo』

 スペイン語学校には、2カ月ほど通った。場所はアルゼンチンのブエノスアイレス。到着した瞬間からすっかりこの街に惚れ込んでしまった僕は、寒い冬を迎えようとする時季にもかかわらず、長居することに決めた。そこで、せめて日常会話くらいできるようになろうと習い始めたのだが、思わぬおまけも付いてきた。先生のひとり、ガブリエラがかなりの音楽好きで、授業の合間にアルゼンチン・ロックについていろいろ教えてくれたのだ。とりわけ、軍事政権下の陰鬱なライブハウスの雰囲気などは、音だけ聴いても伝わらない貴重なエピソードだった。

 彼女と僕の共通のお気に入りとして盛り上がったのは、通称スピネッタこと、ルイス・アルベルト・スピネッタ。60年代末のロック黎明期から活動していたシンガー・ソングライターで、いくつかのバンドやユニット、そしてソロでもたくさんの作品を残している。ユニークなのは時代によってコロコロとサウンドのテイストが変わること。サイケデリック、フォーク、ハード・ロック、プログレッシブ・ロックと、あらゆるジャンルを網羅する姿はまるでカメレオンだ。しかし、ナイーブな歌声には言い知れぬ存在感があり、押しが強いわけでもないのに、スピネッタにしかない強烈なアイデンティティーが匂い立つ。おまけに、アルゼンチン人にとってもかなり難解だという文学的な歌詞も魅力らしく、ガブリエラも「彼の歌の世界が伝われば、私が教えることは何もないわ」とまで言うほどだった。

 2001年発表の『Silver Sorgo』は、なかでも一番よく聴いたアルバム。メロウなソウルやポップスの雰囲気をまとっているが、紛れもないスピネッタ・ワールドを展開している。とくに冒頭の「El Enemigo」における耽美的でセクシーな佇まいは、筆舌に尽くし難い。こんなに個性的な音楽と出合えただけでも、学校に通ったかいがあったと今は思う。肝心のスペイン語に関しては、決して身に付いたとは言えないのだけれども。

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