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旅する音楽 11:新良幸人×サトウユウ子『浄夜』 - 過去記事アーカイブ

この文章はJALの機内誌『SKYWARD スカイワード』に連載していた音楽エッセイ「旅する音楽」の原稿(2015年8月号)を再編集しています。掲載される前の生原稿をもとにしているため、実際の記事と少し違っている可能性があることはご了承ください。また、著作権等の問題があるようでしたらご連絡ください。

沖縄の原風景が浮かび上がる、唄とピアノ

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新良幸人×サトウユウ子『浄夜』

 風に揺れるサトウキビ畑と、人けのない静かなビーチ。沖縄に移住して2年半ほど経たつが、この土地のイメージは今もそれほど変わらない。もちろん、観光客でごった返す那覇の国際通りから、しとしと雨が降るヤンバル(北部)の森に至るまでいろんな風景を見てきてはいるが、ふと目を閉じて思い浮かべるのは、冒頭に挙げたような素朴な風景なのだ。

 その残像は、おそらく小浜島に行ったときの印象が強いからに違いない。石垣島からフェリーですぐに行けるという理由だけで渡ったこの島で、僕はレンタサイクルを借りて走り回った。そして、シュガーロードと呼ばれるサトウキビ畑の真ん中を走る一本道に心を揺さぶられ、そのあと迷い込んだ名もなき小さな砂浜で昼寝をした。旅の直前まで忙しかったことが噓のような、リラックスした贅沢な時間。あのときの至福の気持ちよさは、今も忘れられない。

 それから何年も経ってからだが、一枚のCDを手に入れた。それが2011年に発表された『浄夜』という沖縄民謡のアルバムだ。ただ、民謡といっても一般的にイメージするものとは少し違う。パーシャクラブやSAKISHIMA meetingというグループでも活動する新良幸人の三線と唄。そこに、ジャズ・ピアニストであるサトウユウ子のピアノが寄り添っていく。少し抑えめな歌声と、透明感に満ちたピアノの音色に包まれる瞬間は、まさに極上。「月ぬ美しゃ」や「浜千鳥」といった定番曲からオリジナル曲まで、どれもが同じトーンで優しく淡々と歌い綴られていく。沖縄民謡というと、賑やかさや渋味を感じることも多いが、本作に関してはとにかく瞑想しているかのように心を静めてくれる音楽なのだ。

『浄夜』と出合って以来、僕は小浜島の平和な風景を思い出すことが多くなった。せっかく沖縄にいるというのに、なかなか足を運べないのは、なんとももったいない。そろそろこの慌ただしさを脱出して、サトウキビ畑と誰もいないビーチを見に行こうかな、なんて考えている。

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